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幕末日常と食事の章

壬生浪士組

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「いやぁぁぁぁあ‼降ろしてえぇぇえ‼」

「雛妃、暴れると落ちる………」

一瞬で私の身体はカチッと硬直した。
だって私………空を飛んでいるんだもの!
まさか、飛行機に乗る前に男の人に抱かれて空を飛ぶなんて………

「雛妃は高いところ苦手なのか?」
知世ちゃんを抱いた平助君が私と斎藤さんに近寄って来た。

「高いところは大丈夫だけど…………」
高さのレベルが違うわよ!
生身でこの高さは誰でもビビるよ!


街を出ると人気の無いところに連れて来られた。
知世ちゃんは後で説明するって言ってたけど…………
行きなり抱き上げられたと思ったら、空を飛ぶんだもの‼

「雛妃、もうすぐ着く…怖いなら目を瞑っていろ。」

斎藤さんに言われて、斎藤さんの首にギュッと抱きつくときつく目を瞑った。
頭の上から斎藤がクスッと笑ったのが分かった。

暫く飛ぶとそっと地面に下ろされた。
あぁ、やっぱり地面は安心するよね?今はお布団より地面の方が恋しかったわ。

着いた場所は大きな門があるお屋敷だった。
今は慌ただしく人が往き来している。

「何か、忙しそうですね?」

斎藤さんに聞くと、今は隊士と言う人を募集しているから忙しいのだそうだ。
だから他の人に紹介するのは夜のご飯の時だと言われた。
斎藤さんと平助君とは玄関で別れ、私は知世ちゃんの部屋に行く事にした。

「雛妃には話さなくてはならない事が沢山あるんです。なかなかの衝撃なので覚悟して下さいね?」
何それ、怖いじゃない………覚悟って大げさじゃない?
一応頷いた。

「いいですか?今は文久三年だと言うことは知っていますか?」

「あっ、それは酒屋の若様から聞いたよ。吃驚したよ。」

「このくらいで驚いていたらこの先の話、持ちませんわよ?」
えっ?もっと衝撃的な事があるの?

「今は文久三年、幕末と言われる時代です。何かわかりませんか?」
う~ん………幕末?幕末………幕末………江戸末期?

「私、歴史苦手なんだよね。」

「私も歴史は得意ではありませんけど、流石に知っていますわ。新撰組と言えば雛妃にもわかりますか?」
新撰組‼超有名じゃない!お侍さんて格好いいよね?

「流石に新撰組は知ってるよ。」

「なら話が早いですわ、此処は新撰組の屯所ですわ。正確にはこれから新撰組になる人達です。」

「んっ?えぇぇぇ‼」

知世ちゃんは知っている限りの事を教えてくれた。
今は壬生浪士組と言う名前だと言う事。
此処は壬生村の八木邸で、試衛館派と水戸派に別れている事。
これから恐らく京都守護職の松平と言う人に市中警備を任されるだろう事。

知世ちゃん………詳しいじゃない。

「それに………新撰組の最後は………」

「何?新撰組って最後どうなるの?」

「最後は………蝦夷地、北海道ですわねそこに向かいます。生き残った人は居たと思いますが、詳しくは思い出せなくて。」

斎藤さんや平助君も死んじゃうの?
そういう事だよね?


「まだ話さなければならない事があります、私たちが行方不明になった三日間の事です。」

ぽつりぽつりと話始めた知世ちゃんの話は信じられないものだった。
五歳の私達は斎藤さんや土方さんに近藤さん、沖田さんと会っていたなんて!みんな有名人じゃない!

「三日目に私達は突然消えたそうです。恐らくそれで現代へもどったのでしょうね。」

「後あれは?斎藤さんと平助君が空を飛んだでしょ?」

「あれは………彼らが妖怪と呼ばれる人達だからです。」

えっ?妖怪?
ちょっと待って………新撰組が何で妖怪なのよ。

「彼等は役割があって人間に溶け込み、歴史を動かそうとしているそうですわ。人間の歴史は妖怪にも影響するそうです。やはり妖怪にも弱い者がいるそうで、弱い妖怪達は人の姿にはなれないんだそうです。斎藤さんや平助君達は強い妖怪なので人になり済まし、生きて行く事は簡単です。その指示を出す妖怪がいるみたいで、彼等は弱い妖怪達を守る為に身を呈して、人の歴史に足を突っ込む事になったのだと、土方さんが話して下さいましたわ。」

何それ?私には難しい事は良く分からないけど、平助君にも斎藤さんにも死んで欲しくなんかない。
知り合ってしまった人達の行く末を知っている事がこんなに辛いことなんて知らなかった。

「雛妃、どんなに私達が歴史を知っていても、歴史を変えてはなりませんわ。」

「分かってるよ。」

うん、分かってるよ頭では………でも感情は追い付かないよ。

「ねぇ、平助君は何の妖怪なの?」

「平助さんは狐の妖怪ですわ、妖狐です。因みに斎藤さんは雪男だそうですわ。」

妖狐に雪男………マジでファンタジー………
駄目だ、考えれば考える程頭が痛い。

「暗い話になってしまいましたわね?少し縁側にでましょう。」

知世ちゃんと縁側に出るとそこは見事な日本庭園だった。
そんな景色を眺めるうちに私と知世ちゃんは縁側で眠ってしまった。


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