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幕末日常と食事の章

壬生浪士組ー正体ー

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 ご飯を終えて片付けると、また大広間に集まり話をする事になった。

「雛妃は何か俺達に聞きたい事はないか?大体は知世から聞いたとは思うが、何かあれば何でも聞くといい。」
そう言ってくれる土方さんは有り難い。
聞きたい事なんて沢山あるもの。

「聞いて良いのか分からないんですけど………」

「言ってみろ、何でも聞けと言っただろう?」

「じゃあ、さっ………」
そうだ、皆渾名で呼ばないと返事すらしてくれないのだ。

「はぁちゃんは雪男で、平、へーちゃんは狐の妖怪だと知世ちゃんから聞いたんですけど、他の人は何の妖怪なのかと………思って。」

「あぁ、その事か………それなら雛妃はもう妖怪の姿の俺達に会ってるがな?まぁ五歳の時だから覚えないのは無理はない。」

「そうだよ、雛妃なんか俺の背中で滑ってキャッキャッしてだじゃない。」
えっ?沖田さんの背中?
何の事だかさっぱり分からない。

「斎藤には雪を降らせて貰って、皆で雪合戦したしな!」

「はぁ…………」

「雛妃、俺はね蛇の妖怪なんだ。だから雛妃は俺の背中を滑って遊んでたんだよ。」
ふむ、沖田さんは蛇…………

「私は狸だ、葉っぱを色んな物に変えてやったら雛妃も知世も喜んでくれたな。」
狸は人を化かす…………近藤さんは狸さん。

「俺は一反木綿だ、知ってるか?」
一反木綿…………あの空飛ぶ布だよね?
原田さんは一反木綿なのね。

「知ってます。」

「そうか、なら今度背中に乗せてあげるからな。」
いや、結構です。もう飛ぶのは凝りました。

「俺はな、がしゃ髑髏だ。」

がしゃ髑髏?何それ、髑髏って言うくらいだから骨的な妖怪なの?
兎に角、永倉さんは骨………じゃなくて、がしゃ髑髏。
がしゃ髑髏が分からず、首を捻っていると。

「見せた方が早そうだな?」

永倉さんは立ち上がると、良く見とけよと笑った。
ボフンッと紫の煙が巻き上がると、たちまち大広間に煙が充満して何も見えなくなってしまった。
少しずつ煙が晴れてくると良く見ようと目を凝らした。
でもさっきまで永倉さんが居た所にはだれも居なくなっていた。

「あれ?」

キョロキョロしていると、斎藤さんが指で上を指していた。
斎藤さんの指の指す方を見上げると、私は叫んだ。

「き………きゃぁぁぁぁあ‼」

そこには物凄く大きな骸骨が居た。
ポッカリと空いた本当なら目がある場所は真っ暗、その目が私を見下ろしていた。
大きな骨の手が私に伸びてきたのを見たのを最後に私は気を失った。


気を失った雛妃を斎藤はそっと寝かせた。

「雛妃は大丈夫ですか?」
知世は心配そうに、雛妃の顔を覗いた。

「大丈夫だ、直ぐに目を覚ます。」
斎藤は永倉を睨んだ。

「やり過ぎだ………」

「仕方ありませわ、私も初めてアレを見た時は気を失いましたから。」

「悪い、調子に乗った。」
永倉は反省した様に眉を下げた。

「全くお前は俺達と違って、衝撃的なんだ気を付けろ‼」

「衝撃的ってひでぇな土方さん!」

「まぁまぁ、雛妃には少しずつ慣れて貰えば良いじゃないか。この屋敷では滅多に妖怪の姿にはならないんだしな。」

「確かに、でもさ俺狐の姿になったら雛妃喜ばないかな?」
そう言って平助は小さな狐の姿になった。

「それなら私にも出来る。」
近藤はポンッと小さな狸になった。
それにムッとした斎藤も負けじと変身した。
ボンッと音を立てると、そこには二歳児程まで小さくなった斎藤が居た。

「きゃぁぁぁぁあ‼可愛い‼」
小さな斎藤にいつの間にか目を覚ました雛妃がもう突進してきて、斎藤を抱き締めた。

「いやぁぁん!可愛い‼目が覚めたら小さい斎藤さんに狐さんと狸さんまでいるなんて!」
キャアキャア言って斎藤に頬擦りをした。

「土方さん………」

「ひぃちゃんだ。」

「私は呼ぶとは言っていませんわ。それより、雛妃は小さき物フェチなんです。」

「ふえ?ち………」

「小さいものが大好きなんです。あのままでは寝る時も離しませんわよ?」
土方は雛妃から斎藤を奪った。

「嫌だ!土方さん返して下さい!」

「だから、ひぃちゃんだ。それに斎藤は駄目だ。」
斎藤も不満顔で土方を睨んだ。

「斎藤、このままじゃ寝るのも雛妃と一緒だと知世が言ってだぞ?いいのか?」
それを聞くと直ぐに斎藤は元に戻った。

小さい斎藤を土方に奪われた雛妃は、小さい狐になった平助を絶対に離さないとばかりに抱き締めた。

「雛妃、離して………」

「絶対にこの子は渡しません‼」
小さい狐を連れて雛妃は大広間を飛び出した。

「やれ………」
土方の手は雛妃を掴む事なく、空を掴んだ。

この日から、雛妃を絶対に怒らせてはならないと言う暗黙の了解に、雛妃前で小さくなってはならないと言う暗黙の掟が加わった。
翌朝、知世と雛妃の部屋に原田と斎藤が行くと、平助がヘロヘロになっていた。

「雛妃の胸が………良い匂いが…………」と譫言の様に言っていた。
恐らく一晩中雛妃に抱かれていたのだろう。


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