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幕末日常と食事の章

先見の龍

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 人間が寝静まった夜、二つの影が森の中に消えて行った。
その中にある洞窟に入る、この洞窟は人成らざる者だけが通れる道だ。
人も通れるが、それはこの洞窟を見つけられたらの話だ。
この洞窟は人成らざる者にしか見えないからだ。

暫く歩くと洞窟の奥に門が現れる、これに向かい特殊な印を組むとある者の所へ繋がるのだ。
門を潜ると直ぐに声が聞こえた。

「来たか?」
しゃがれた声が二人を迎えた。

「はい、お呼びですか?」

「何、大した事ではないが………近々事が動くだろう。お前達は名を改める事になる。人に正体を明かすでないぞ?」

それに二人は肩を揺らした。

「あぁ、もう知られてしまった………と言うより、正確にはお前達が明かしたのだな。」

「それは………‼」

「まぁ聞け、あの子等に知られた所で問題はなかろう。我の目には見えるのだよ、あの子等はお前達の行く末に着いて回るだろう。お前達が望まなくとも、あの子等が望まなくともだ。」

「爺さんどう言う事だ?」

「こらっ、歳!何て言葉使いをするんだ!」

「良い良い、全部教えてはつまらぬだろう?我は言わぬよ、それはお前達がしっかり己の目で見るが良い。若いお前達の行く末を見るのが、年寄りの楽しみなんだからな。」

「面倒な事頼んでおいて、肝心な事は言わねえのかよ。」

「歳‼」

「だから、良いと言っておるではないか。そちは頭が固くていかん、もっと柔軟におなり。お前達に負担を掛けておるのは済まないと思っとる。しかし…………」

「分かってるよ、爺さん。俺達にも守りたいもんは沢山あんだよ。まぁ、苦労はあるがな?」

「そうだな、人と同じ様に成長してるように見せるのは骨が折れたからな。」
はははっ!と近藤は笑った。

楼刃ろうは玖浪くろう我らの行く末はお前達に掛かっていると言っても過言ではない。若いお前達を犠牲にするこの年老いた我を許して欲しい。そこでお前達の所に居る娘達の事だが…………」

「あの子達は!」

「だから話を聞けと言うて居るではないか?」
近藤を見て呆れた顔をした。

「あの子等をどうこうしようとは思っておらん。お前達がどうやってあの子等を知り得たかも分かって居る。」

「ならばあの子達を帰す方法も知っておられるのですか?」

「それは、まだ我にも分からぬ。しかし、この見えぬめがいつかはあの子等を映す時が来るやもしれん。その時はお前達に話すと約束しよう。ではな、我はまた眠るとしよう。あの子等をお前達の屋敷に連れて行くなら、八木邸の中庭の祠に道を繋げておくからの、そこを使うといいだろう。」

「ありがとう、先見の龍。」

「ほっほっほ、必要な時が来るだろうからな。ではな…………」

先見の龍は寝る体勢に入った。
それを見ると近藤は一礼して踵を返した、それに土方も続いて洞窟を後にした。
先見の龍は先を見る事が出来る龍、妖怪の行く末を案じた先見の龍は近藤達にある願いを託したのだった。
齢1200歳の年老いた龍の願いを近藤達は引き受けた。

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