上 下
34 / 93
幕末日常と食事の章

満月の夜………

しおりを挟む


 三日後に満月を迎えようとしていた、この日大広間には雛妃と知世以外の面子が揃っていた。
雛妃達が来るまで屯所には女が居なかったから問題無かった。
しかし、今回は雛妃達が居るため大問題になっている。

「どうするの、土方さん………満月の日?」

「俺は、雛妃と知世が寝静まるまではあっちの屋敷に籠る事にする。やらねぇとならねぇ事もあるからな、見計らって部屋に戻る。」

「ならば二人に夜は部屋から出ないように言っておくか?」
近藤は不安そうに土方をみやった。

「いや………二人には知られたくねぇ、それに俺が夜に二人に接触しなけりゃ良い事だ。」

何故問題になっているかと言うと………
土方は半分狼男の血が混ざっている為、その習性には逆らえないのだ。
月に向けて遠吠えしたい衝動は部屋に籠ればなんとかなるにしても、やっかいなのは繁殖衝動だ。
こればかりは女を目の前にしては抑えられない。
折角再会し、頼ってくれる二人には絶対にそんな事はしたくないと土方は強く思っていた。
勿論、他の者も同じ思いだ。

「だた、今日は見張りに付ける人員がいない。私は斎藤君と出てしまうし………」
近藤は腕を組んで唸った。

「仕方ないから他の隊士にたのんだら?」

「平助、それじゃ意味ないじゃない………雛妃と知世が隊士の餌食になっちゃうよ?」
平助はギョッとした顔で沖田を見ると「それだけは駄目だぁぁぁぁ!」と頭を抱えた。

男所帯に女がポッと現れたら何があるか分かったもんじゃない。
雛妃も知世も容姿がずば抜けている為、すぐに餌食になってしまうのは目に見えている、だから雛妃達は土方達以外だと島田くらいにしか会った事がないのだ。
芹沢なんかには絶対に会わせてはいけない。
それだけ、雛妃と知世を大切に思っていた。
先日も問題は起きたが、壬生浪士組で起きた問題や事件は全く二人には知らされていない。

今回見張りがつけられないのは、先日起きた問題の後処理の為に動かなくてはならなかった。
水戸派の芹沢鴨達が大坂力士と揉めたのだ、力士側に死者が出てしまった。
同行していた斎藤が体調不良になり、休める所へ向かう途中に力士達と橋で鉢合わせし、どちらが先に渡るかと言う言い合いから乱闘に発展したのだ。
力士側に死傷者が出てしまった限り、近藤も上に報告せざるを得なかった。

しかし、奉行所は力士側に非があるとして力士側から壬生浪士組へ金五十両を贈り謝罪した。
近藤は次に壬生浪士組に手を出した場合、直ちに切り捨てると警告した、親方もこれを了承し今後壬生浪士組には一切手を出さないと約束し、力士達が手を出す事があれば切り捨てて構わないと近藤に告げたのだった。

これにより、力士達が逆恨みして雛妃達に何かをするかもしれない。
それを懸念した近藤と土方は最近はあれこれと理由をつけて、八木邸から出さなかった。
これが後に、自分達の首を絞めるとはこの時まだ誰も思っていない。
まだ雛妃の性格を分かっていない故に、致し方ない事だった。



しおりを挟む

処理中です...