上 下
37 / 93
幕末日常と食事の章

満月の夜………④

しおりを挟む


 俺は夜中に八木邸へと戻って来た、先見の龍が八木邸の中庭に道を作ってくれたからあっちに行くのが楽で助かる。
俺には狼男と天狗の血が入っているから、満月は本当に厄介だ。
特に繁殖衝動だけはどうにもならねぇ…………
前にまたまた満月の夜に俺に出会した女は不憫としか言い様がない。
散々俺に抱き潰されて、気を失っても尚行為を繰り返す俺を受け止めていた女。
最後は平助達が駆け付けて俺を拘束たが、あの女には悪い事をした。
雛妃と知世にそんな事は絶対に出来ねえ…………
だからこうして夜中にこそこそ帰って来たんだがな。
流石に二人はもうぐっすり寝ているだろう。
 
軋む廊下を進み、自分の部屋を目指す。
するとバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた、だんだん近付いて来る足音の主を確認しようと廊下を曲がった瞬間物凄い衝撃が腹を襲った。
うっ!地味に痛えぇ。
ぶつかってきた何かを確認しようと見下ろすと、知世だったんだ。
嘘だろ?何でお前起きてるんだよ‼
俺を見上げる知世は大きな目に涙を一杯に溜めていて、顔は完全にお化けでも見ている様な顔だった。
今にも叫び声を上げそうな知世の口を咄嗟に押さえた。

馬鹿!皆起きちまうだろうが!
知世の口を押さえたまま、近くの空き部屋に入った。

「知世、俺だ。叫ぶなよ?」
知世がコクコクと頷いたのを確認するとそっと押さえていた手を離した。

「こんな夜中に何して‥………‼」
急に知世が抱きついてきた、おいっ今は不味い!
知世を引き離そうと知世の肩を掴んだ時、知世のか細い声が聞こえた。

「こっ、怖かった…んです。お化け、グスッと思っ…て。私‥…かわ、厠に‥………うっ。」
そう言って小さな肩を震わせる知世、俺は思わず抱き寄せてしまったんだ。
もう大丈夫だと安心させてやりたくて、これが悪かったんだ。
直ぐに部屋に戻れと、突き放してやればあんな事にはならなかったんだ。

俺を見上げた知世は、障子から漏れる月明かりに照らされて涙がキラキラ光っていた。
必死に廊下を走ったんだろう、浴衣は肌けていて………今の俺の理性を奪っていく。
俺が最後に見たのは、俺に口を塞がれて目を見開く知世の顔と知世の小さくて柔らかい唇の感触だった‥………


しおりを挟む

処理中です...