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幕末日常と食事の章

一夜の過ち‥……

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ーチュンチュンッ……ピチチチチ………

「んっ………」
朝ですか?……あれ?身体が動かない。
怠い身体と開かない目は一先ず置いて、思い出してみる。

確か昨日は‥………夜中に厠へ行って、そのあと‥………‼
あら?確か土方さんと廊下で会って‥………私、私ってば土方さんとキキキキキキスを‼
それから?‥………えーと、それか‥………ら‥………‼
カバっと起き上がり状況の確認をする、確かめなくては!

「うっ!‥………」
身体が痛い!全身筋肉痛になったみたいです。
何とか起き上がり辺りを見ると………キャァァァアッ!
上半身裸の土方さんが土下座していたした。

「土方さ‥………」

「すまない!知世‼」
これでもかと額を畳に擦り付ける土方さん、私はあまりの驚きになんの反応も出来ませんでした。
そんな私を見て何を勘違いしたのか、土方さんはスッと背筋を伸ばすと、何処から出したのか小さな刀を出しました。

「しまない知世、俺を許せないのは承知だ。俺は腹を切って詫びよう。」
小さな刀を鞘から抜く‥…って、待って下さい!
それって日本の伝統、切腹ですよね?

「まっ!待って下さい土方さん‼」
貴方はこんな所で死んではなりません!
歴史が変わってしまうではありませんか!

「嫌、俺は知世にあんな事を………」
あんな事と言われて私は昨晩の事を思いだし、真っ赤になってしまいました。

「責任は取る!」
せっ!責任って‥……待って下さい土方さんには確か奥様が居ましたよね?
江戸時代って一夫多妻OKでしたったけ?
でもお殿様とかは側室とか‥………あぁ!分かりません!頭が混乱してしまっています。

「土方さん、奥様がいらしたのでは?」

「俺は独身だ。」
えっ?

「あぁ、人間の土方には妻が居たと聞いている。」
人間の土方?では貴方は何の土方さんなのですか?って話になってしまいますわ!

「人間のとは?」

「それより知世‥……そろそろ隠してくれねえか?俺もその‥………」
土方さんの視線を追って私の身体を見て悲鳴を上げた。
だって私ったら、浴衣は羽織っているものの前が全開だったんです!
慌てて浴衣を直して、土方さんに向き直り話の続きを聞いた。

「まだ知世達には言ってなかったがな、俺達が名乗っている名前の人間は実在してんだよ。ただもう人間だった方は生きてねぇ。そんな奴等に俺達は刷りわかったんだ。親や周りには少しばかり記憶の操作をしてな。」
なるほど………何となく理解は出来ました。
詳しくは聞かない事にします、妖怪が人間に成り変わり歴史に残る様な人物になっているのです。
何かかなりの理由があるのでしょう。

「そうなんですか………」

「だからな、責任はきっちり………」

「いいえ!気になさらないで下さい。私は何時かは現代に帰らなければならないのです、土方さんが気に病む事はありませんわ。私も忘れます。」
土方さんはとても切ない顔をしました。
本当の事です、私がいくらこの時代で誰かを思っても必ず辛い別れが来てしまうんですもの。

「待て、それでも俺は………」

「言わないで下さい!それ以上は言わないで‼」

「知世……」

「今は良いですよ?土方さんと一緒に居られて幸せかもしれません。でも………帰る方法が見つかったら?私はきっと現代に帰る方を選択するでしょう。私も雛妃もこの時代には存在していないんですから、帰らなくてはなりません。それに土方さん達は‥………」
現代に伝わる歴史だと、長くは生きられないのです。
堪えきれなくなった涙が頬を伝うと、土方さんは私を優しく抱き締めてくれました。
普段は荒っぽいのにふとした時にこうして優しい土方さんに惹かれていたのは事実です。
でもその気持ちには気付かない様にしていたのに‥……



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