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幕末妖怪の章
鴨鍋②
しおりを挟む芹沢さんから意味深な事を聞いてから一週間、屯所内は更に慌しくなっていた。
この一週間全員揃って大広間で食事を摂る事は無くなっていた。
誰かしら任務で居ない日が続いて私も冷めてもなるべく美味しい料理を作る様にしていた。
芹沢さんも毎日厨房に来ていたのに一日空き二日空き、ここ四日は顔を見ていない。
でも夕食はちゃんと運んでいる、斉藤さんも時間を空けて付いてくる。
何があったのか聞きたくても聞けなった。
知世ちゃんにお願いして土方さんに探りを入れてもらったけど、はぐらかされたらしい。
皆が私たちに危険が無い様にしてくれているのは分かってる、でも少しくらい話して欲しいのが本音だった。
文久三年九月十七日…その日の夜中私と知世ちゃんは大きな怒鳴り声で目を覚ました。
どうやら皆がこんな時間に大広間に集まっているらしい。
「知世ちゃん…」
「雛妃も起きたんですか?どうしたんでしょう、こんな夜中に…。」
「この声土方さんだよね?」
「はい。」
知世ちゃんが不安な顔をした。
何を話してるか聞き耳を立ててみるけど良く聞こえない。
「何かあったのかな?」
「多分…」
「ねぇ知世ちゃん、ちょっと聞きに行こうよ?」
「えっ?盗み聞きするんですか?」
「仕方ないよ、聞いても誰も教えてくれないじゃん。」
私は不安そうな知世ちゃんを連れて部屋を出た。
大広間の隣の部屋に入り、壁に耳を付けて聞き耳を立てた。
「……しなきゃ…だろ?」
「しかし…な…だろう。」
「芹ざ……粛せ……明日……だ。」
何か揉めてるみたい、知世ちゃんを見ると震えていた。
「知世ちゃん?どうしたの?」
「今…芹沢さんを…粛清って…」
芹沢さんを粛清?何で?芹沢さんが何かしの?
私はふと初めて厨房で芹沢さんに会った時を思い出した。
『俺達はどんなに利用されようとも武士になる為に幕府の犬にまでなったんだ。でもどうだ?どんなに功績を上げようと俺達の扱いは田舎侍のままだ。悪者が必要なんだよ、それを納め近藤達が松平の信用を得れば良いじゃねえか?悪役を俺がやっているまでだ。』
そんな事を言っていた。
まさか芹沢さん…自分を本当に悪者にして…。
そんなの駄目!武士とか侍とか詳しい事は分からないけど…芹沢さんだけ悪者になる事ない。
だって…芹沢さんが死んじゃったら…私…。
「知世ちゃん、戻ろう。」
私は震える知世ちゃんを引っ張って部屋へ戻った。
「雛妃、どうするつもりですか?」
「分からない…でも、私は芹沢さんを助けたい。」
「どうしてもですか?」
「うん、実は知世ちゃんにも黙ってたんだけど…毎日芹沢さん厨房に来ていたの。毎日お茶を飲みながら色んな話をして、もう芹沢さんはこっちの時代での私のお父さんみたいなものなの。芹沢さんも私を娘のようだと可愛がってくれた、そんな人を死なせたくないよ。」
「そうだったんですか…でも私には言って欲しかったです。」
「ごめんね、心配すると思って。」
「仕方ないですね、私も協力しますわ。出来る事があるか分かりませんけど。」
「うん、私にも何が出来るか分からないよ。ここ四日芹沢さんは厨房に来てないから。」
来たとしても私には話してくれないだろう。
「前に芹沢さんが言ったんだ、芹沢さんに何かあれば庭の灯篭の下を掘れって。芹沢さんは分かってたんだこうなる事を、だからあんな遺言みたいな事を言ったんだ。」
「庭ですか…何があるんでしょう?さっきの話では粛清は明日と言っていました、明日は夜も寝ないでいましょう。多分皆さんが行動するなら私達が寝静まった夜の筈です。」
私と知世ちゃんは明日の夜、皆を尾行する事にした。
きっと皆怒るだろう、特に斉藤さんが…。
でも起こられても良い、もし本当に芹沢さんが粛清されるなら…私は皆を敵にしたって良い。
皆にも分かって貰いたいんだ、芹沢さんが優しい人だって事を。
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