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幕末妖怪の章

鴨鍋

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  芹沢さんに食事を届ける事一週間、何事も無く平和に過ごしていた。
変わった事と言えば、殆ど厨房にいる私に芹沢さんが毎日会いに来ている事だ。
しかもうまく皆が出払っている時にコッソリ来る。
島田さんも最近は忙しいらしく厨房は私一人で仕切っていた。
芹沢さんは筆頭局長だと言っていたから、皆の行動は把握しているのかもしれない。

毎日来てはお茶とお菓子を食べながら他愛の無い話をしていく。
最初は少し警戒したけど、次第に芹沢さんと打ち解けていった。
芹沢さんは確かに乱暴な所はあると思うけど、私には優しいしこの時代のお父さんの様に思えた。
何日かに一回はお茶請けを持参してくるし、芹沢さんと話すのは楽しかった。
少しずつ私も芹沢さんが来るのを楽しみに待っているようになった。
勿論この事は知世ちゃんにも皆にも秘密にしていた。

文久三年九月…私にとって最悪な出来事が近付いていた。

「雛妃、今日は饅頭を持って来た!」

「芹沢さん…そんなに毎日何か買って来なくても良いのに。」
ここ四日、芹沢さんは毎日何かしらお茶請けを買ってきていた。

「いやな…」
いつまでこうして居られるか分からんからな…。
最後は声が小さくて聞き取れなかった。

「何ですか?今お茶入れますね。」

「…っ。まっまぁ良いではないか!此処の店の饅頭を雛妃に食わせたかったんだ。雛妃はどうも娘の様で世話を焼きたくなってしまう。」
この時しっかり聞き返していれば何か変わったのかもしれない。

「本当?私も芹沢さんがお父さんみたいだなって思ってたの!」
私が笑顔でそう言うと芹沢さんは嬉そうな悲しい様な顔をした。
お茶を淹れお饅頭を小皿に乗せて芹沢さんに出すと、私も隣に座った。

「はぁ…雛妃が入れた茶は美味いな!」

「そうかな?普通に淹れてるだけだよ?」
私もお茶を一口飲んで首を傾げた、美味しいか分からないけど普通だ。

「なぁ…雛妃…」

「んっ?」

「ワシに何かあったら…邸の庭を掘れ。」

「えっ?」

「庭の灯篭の下だ。」
嫌な予感がした、この時間は続かない…芹沢さんが居なくなってしまう気がして不安になった。
この後芹沢さんはどうなる?
歴史が苦手な私が本当に嫌になる、それとなく知世ちゃんに聞いてみようか?
私より知世ちゃんの方が少しは歴史を知っている。
もし芹沢さんに何かあるなら私が助けられないだろうか?

「もう!縁起悪い事言わないでよ。でも覚えておくから。」
その後芹沢さんとの会話は耳に入って来なかった。
早く知世ちゃんに聞きたい、それしか考えられなかった。
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◇◇◇◇

「ねぇ知世ちゃん?」

「何ですか?」
その夜、布団に入ってから知世ちゃんに聞いてみた。

「芹沢さんの歴史について何か知ってる?」

「芹沢さんですか?」

「うん、何か知らないかなと思って…。」

「ごめんなさい、分かりません。どうかしたんですか?」

「ちょっと…嫌な予感がするんだ。」

「嫌な予感ですか?」

「うん。」

「確か壬生浪士組はもう直ぐ新撰組に隊名を改める筈ですが…それくらいしかわかりませんね。」
名前が新撰組になる…。

「それに良くは覚えていませんが、新撰組は粛清や切腹があった様な気がします。理由は分かりませんけど。」

「切腹は分かるけど、粛清って何?」
切腹はあれでしょ?腹切りってやつでしょ?

「粛清は不正や不純なものを排除する事ですわ。」

「排除ってどうするの?追い出すとかなのかな?」

「恐らく…」

「おそらく?」

「死を意味していますわ。」
えっ?粛清ってそんなに物騒な事なの?
この時代確かに死は身近かもしれないけど、これからそんな事が本当に起こるのだろうか。
何か胸につっかえる感じのまま私はいつの間にか眠りについていた。



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