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幕末妖怪の章

鴨と葱③

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 散々納得いかないと喚いた私を三人は黙って見ていた。

「雛妃…芹沢さんは駄目だ…」
最初に口を開いたのは意外にも斎藤さんだった。
何時も口数も少ないのに、今は険しい顔で私を見詰めていた。

「どうしてよ!問題ばかり起こすから?一人でも芹沢さんとちゃんと話しをしてみたの?」
どうしてもお茶を飲みながら穏やかに笑った芹沢さんを悪い人だとは思えない。

「しかしな、雛妃が危険な目にあったらどうする?」
近藤さんは眉を下げて言った。
分かってるよ、近藤さん達が本当に私を心配してくれてることくらい。

「危険危険って…そもそも私がこの時代に居るのだって危険じゃない!納得いく理由を言ってよ。」

「雛妃、俺達は雛妃と知世が大切だ。だから…」

「芹沢さんは俺達と同じなんだ。」
永倉さんを遮って斎藤さんが言った。
同じ?

「おいっ!斎藤良いのかよ?」

「雛妃が納得しないならちゃんと話した方が良い。」
どういう事?皆んなと芹沢さんが同じって…

「ゴホンッ…あぁ…芹沢さんも俺達と同じ妖怪なんだよ。ただ、目的が分からない。」
近藤さんはサラッと気まずそうに言ったけど、私は開いた口が塞がらない。
芹沢さんも妖怪?新撰組…妖怪だらけじゃない?

「芹沢さんは仲間じゃないの?」
同じ妖怪なら仲間じゃないの?私の勝手なイメージだけど…

「妖怪にも色々あるんだ、人間の様に派閥もあれば妖怪至上主義の厄介な連中も居るんだよ。俺達みたいに種族が違っても連む奴も居るし、同じ種族だけで固まってる奴らもいる。」
永倉さんはこっちもこっちで何かと面倒なんだと溜息をついた。
成る程、妖怪も関係性は人間と殆ど変わらないのね?

「だからって食事を運ぶくらいで騒がなくて良いと思うんだけど?そんなに言うなら誰か着いてくればいいじゃない?」
私がそう主張すると直ぐに斉藤さんが手を上げた。

「俺が着いて行く。」
話は纏まりかけたけど、珍しく斉藤さんが最後までごねた。
どれだけ芹沢さんを警戒してるんだろう?
でも私が拳を握ったら流石に斉藤さんも大人しくなったのだった。



◇◇◇◇◇


その夜…

「雛妃、本当に芹沢さんに夕食を持って行くんですか?」
夕食作りを見ていた知世ちゃんが心配そうに言ってきた。

「うん、知世ちゃんも斉藤さんも一緒に来てくれるんだから大丈夫でしょ?」 

「そうですが…昼間斉藤さんが雛妃を説得してくれって私の所に来ましたよ?」
ふぅ…心配性だな斉藤さんは。
知世を含め全員更にはあの平助まで斉藤の恋心に気付いていると言うのに、雛妃はいったいいつ気付くのか…。
知世は心の中で斉藤に同情すると共に親友として謝罪したのであった。
一方、厨房へ向かう斉藤は荒れていた。
周りの者が避ける程冷気を駄々漏れにして。

「ちょちょちょっと!斉藤さん!少し抑えて!皆凍っちゃうよ!」
そんな斉藤を見て堪らず平助が止めた。

「何がだ?」

「何がじゃないよ!そのまま厨房行く気なの?雛妃を凍らせるつもり?」
平助が言う事にハッとした。

「そんなに漏れていたか?」

「そりゃもうすごく!あんなんで行ったら雛妃がビビるよ、良いの?」
それは良くない…。
斉藤は黙って俯くと自分を落ち着かせ冷気を抑えた。

「気持ちは分かるけどさ、斉藤さんが付いて行くんだし大丈夫でしょ!雛妃は言い出したら聞かないし、雛妃の拳骨お見舞いされたら俺でも死ぬかもだしね!」

「分かった、済まないな平助。」
斉藤も雛妃の拳骨はご免だ。
水瓶を拳骨一つで粉砕した雛妃、あれが自分だったらと思うとゾッとする。
平助と別れ斉藤は再び厨房を目指した。


雛妃は夕食を作り終えて知世と一息ついていた。

「斉藤さん遅いですわね?」

「そうだね、もう準備は出来てるんだけどね。」
そんな話をしていると厨房の扉が開いた。

「すまない、少し遅くなった。もう行けるか?」
そこにはいつも通りの斉藤さんがいた。

「うん、準備出来てるよ。」
私達三人は芹沢さんの待つ邸へと向かった。
かなり警戒している斉藤さんの心配は本当に心配で終わった。
呆気ないもので夕食を置いて帰って来ただけだった。

「何も無かったですわね?」

「うん、本当に何もなかったね。やっぱり皆心配し過ぎなんだよ。」
斉藤さんを見ると無表情だけど何処か罰が悪そうだった。



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