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幕末妖怪の章

鴨と葱②

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「へーちゃん、どうしたの?そんなに難しい顔しちゃって。」

「雛妃、これ作ってる時誰か一緒に居たのか?」

「うん、芹沢さんが来たけど?」
芹沢さんと言った途端平助君は真っ青になった。

「なななな何もされてねえか!」

「う、うん。蜜柑飴とお茶飲んでいっただけ、あと芹沢さんのご飯を作る代わりに女人禁制の屯所に私と知世ちゃんが居るのは見なかった事にしてくれるって。」

「後は?」

「後は、蜜柑飴をお土産に包んであげたくらいかなぁ。」
私がそう言うと立ち上がっていた平助君はヘニャヘニャと畳に尻餅をつく様に座った。

「そうか、何もされてねえなら良いんだ。芹沢さんの飯は島田さんに……」

「あっ、それは私が運ぶ約束なのよ。」

「何だって!そんなの鴨が葱背負って行く様なもんだ!」
またもや真っ青になった平助君。

「あっちに雛妃を行かせるなんて……俺は夏に凍えたくないんだ!」
夏に凍える?また不思議な事言い出した。

「夏に凍える訳ないでしょ!それに思ったより悪いこと人じゃなかったよ芹沢さん。」
平助君は頬を引攣らせるとしっかりと蜜柑飴を持ってフラフラと部屋を出て行った。

「どうしたんでしょうね、平助君。」

「さぁ、芹沢さんと私達を会わせたくないみたいだね。あんなに芹沢さんを警戒する事ないと思うんだけどな。」

「どうしてですか?」
私は知世ちゃんに芹沢さんとのやり取りを話して聞かせた。

「成る程、後の新撰組の為に自分を犠牲にしているのですね?」

「うん、私なら自分から悪役になるなんて出来ないよ。芹沢さんは本当は凄く優しい人なんじゃないかな?」
私は芹沢さんについての歴史も全く分からないけど、実際に芹沢さんと話してみて私は芹沢さんが悪い人だとは思えなかった。

「雛妃の気持ちも分かりますわ、ならば私も食事をお持ちする時に一緒について参ります。私も芹沢さんと話をしてみたいですから。」

「うん、それは構わないけど……大丈夫かな土方さんとか。平助君の慌てっぷりを見てると怖いんだけど。」

「雛妃は気にし過ぎですわ、いざとなれば私が土方さんを負かしてやります。」
ちょっと最近私の中で知世ちゃん最強説が出てきている。
土方さんを黙らせる事が出来るのはきっと知世ちゃんだけだ。

「じゃあ私はそろそろ夕御飯の準備してくるね。」

「はい、私も後から行きますね。」
知世ちゃんの分のお茶を残して私は台所に向かった。
おかずどうしようかな?
去り際に芹沢さんが珍しい物が出ると聞いたから期待していると言っていたけど。
普段は普通なんだけどな、メインのおかずに漬物とお味噌汁だもん。

「取り敢えず冷蔵庫と相談するしかないわね。」
台所に入ると久し振りに島田さんが来ていた。

「あれ?島田さん今日は忙しくないんですか?」
最近は島田さんも忙しく食事の用意は私一人でしていた。

「いやぁ、この所雛妃さんに全部任せてしまって申し訳ない。一人で作るのは大変だったでしょう?」

「まぁ大変でしたけど、大丈夫でしたよ。何とかなりました。」
最初の日は大変だったけどなんだかんだ皆んなが手伝ってくれたしたし、何とかなった。

「さぁ、今日は精一杯手伝います。何を作りますか?」

「まだ悩んでるんです、今日は芹沢さんの分も作るので取り敢えず冷蔵庫見て見ますね。」

ーガタガタガタっ!

「島田さん!大丈夫ですか!」
振り向くと驚いた顔の島田さんが持っていた薪を盛大に撒き散らしていた。
慌てて島田さんの足を確認すると怪我は無い様だから私は薪を拾い集めた。

「どうしたんですか?島田さんでも失敗するんですね?」
クスクス笑っていると島田さんに肩を掴まれた。

「笑い事ではありません!その事を近藤さん達は知ってるんですか!」

「えっ?あの…平助君は知ってますけど。」
驚いた、普段は温厚な島田さんが今は凄く怖い顔をしている。

「直ぐに相談に行きましょう!」
有無を言わさず島田さんは私の手を掴んで引っ張った。
どうして皆んなはこんなに芹沢さんを嫌煙するのか私にはどうしても分からなかった。


そして、近藤さんの部屋に連れて行かれるとそこには近藤さんに斎藤さんと永倉さんが待っていた。
私を連れてきた島田さんは私を部屋に入れるとさっさと居なくなってしまった。

「雛妃、平助から大体は話は聞いた。とりあえず座らないか?」
近藤さんに言われて用意されていた座布団に腰を下ろす。

「何で駄目なの?芹沢さんの話になるとへーちゃんも島田さんも血相を変えて騒ぐし、私はただ芹沢さんに食事を運ぶだけだよ?」
何だかんだイライラした、皆んなが芹沢さんとちゃんと話しもせずに腫れ物扱いしている様な気がしてならなかった。
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