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幕末妖怪の章

鴨と葱

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 翌日近藤さん達に散々説教された私と知世ちゃん。
大広間に行く前に知世ちゃんは土方さんに呼ばれて行ったのだけど、知世ちゃんと大広間に入って来た土方さんはグッタリしているし知世ちゃんは何だかスッキリした顔をしていた。
きっと口で知世ちゃんに言い負かされたに違いないわ。

そんな私は説教から解放されると台所に避難して今に至る。
沢山貰った夏蜜柑と睨めっこしているのであった。

「夏蜜柑かぁ、何かつくれないかぁ?ジュースにしてもなぁ、ありきたりだよね。甘党の私としてはスイーツが食べたいんだけどなぁ。試しに作ってみようかな!」
先ずは竃に火を起こさないとね、島田さんを呼ばないのかって思ったでしょ?
ふふーん、私も竃の扱いを覚えたのよ!
島田さんも最近は忙しいみたいだし、ただ竃の為に呼べないしね。

「どうしようか、丸ごと使うかバラバラにするかで悩むわね。お祭りで見るのはバラバラだけど。」
取り敢えず鍋に砂糖とお水を入れて焦げない様に煮詰めて行く。
かなり煮詰めた後にバラバラにした蜜柑を入れてよく絡めたら笊に上げて粗熱をとったら冷蔵庫に。

「冷えるまで暇ねぇ?お茶でも飲もうかな。」
そう言えば昨日の火事は芹沢さんと他の隊士達が仕出かした事だったんだって。
難しい事は私は苦手だから簡単に言うと生糸問屋の大和庄兵衛さんにお金頂戴って言ったのを断られたから火を放って火事にしたんだって。
結局一晩火は燃え続け辺りは全焼したって。
芹沢って人は無茶苦茶よね?だってそれくらいで火事にしちゃう普通?
お金の事を頼んでるのは芹沢さんなんだから、芹沢さんが下手に出るべきでしょ?
逆ギレとかどんだけ子供なのよ。
そのせいで近藤さんも土方さんも松平さんって人に呼び出されてるんだって。
松平さんは会津藩主で偉い人なんだって。
そんなこんなでバタバタしてるのよ。

「そろそろ良いかな?」
冷蔵庫から笊を取り出して触ってみるとちゃんと固まっていた。

「出来た!蜜柑飴!」
私が知ってる蜜柑飴は蜜柑に水飴が絡めてあるんだけど、食べ辛いから飴でコーティングしてみた。
味見をしてみると周りの薄い飴がカリカリしていて、飴の甘さと蜜柑の甘酸っぱさが絶妙だ。

「美味しい!よしっ、皆んなの分も作ろう。」
気合いを入れて蜜柑の皮を剥いていると視線を感じた。

「やはり此処に居たのか。」
台所の入り口には昨日見た芹沢さんが立っていた。

「あっ、昨日の……」

「女人禁制の屯所にまさか二人も女が居るとはな。」
うっ、それを言われたら何も言えない。
ふんっと鼻を鳴らすと芹沢さんは台所の椅子にドカッと座ると笊に乗せてあった蜜柑飴をパクリと食べてしまった。

「うむ?これは美味いな!」

「あ、お茶淹れましょうか?」

「はい、ちょっと待ってて下さいね。」
はっ!しまった!つい癖でお茶を!

「此れはもっと食っても良いか?」

「えっ!あっはい。また此れから作るのでどうぞ。」
芹沢さんにお茶を出すと悩む、これは蜜柑飴作るの続行してもいいのかしら?

「お前を責める気は無い、続けて良いぞ。」

「あ、はい。」
あれ?芹沢さんって凄く我儘で自己中な人かと勝手に思ってたけど違うのかな?
お茶を啜りながらお茶請けに蜜柑飴を頬張る芹沢さんを横目に私は蜜柑の皮むきに集中する事にした。

暫くの無言に気まずさを感じながらも蜜柑に飴を絡めていると芹沢さんが口を開いた。

「お前は何故此処に居るんだ?」

「私は行く所も無くて困っていたのを助けて貰ったんです。」

「成る程、それで此処で働いていると?」

「はい……」

「それで、俺に何か聞きたい事があるのか?」

「えっ?」

「顔に書いてあるぞ?」
慌てて顔を両手で押さえると芹沢さんは豪快に笑った。

「昨日の、何故あんな事を……」
笑われて少しムッとした私は聞いてみた、途端に芹沢さんから笑顔は消え真面目な顔で私を見た。

「何故……か?お前はただの田舎侍が武士になるにはどうしたらいいと思う?」
んっ?侍は武士じゃないの?

「俺達はどんなに利用されようとも武士になる為に幕府の犬にまでなったんだ。でもどうだ?どんなに功績を上げようと俺達の扱いは田舎侍のままだ。悪者が必要なんだよ、それを納め近藤達が松平の信用を得れば良いじゃねえか?悪役を俺がやっているまでだ。」

「でも!それじゃ芹沢さんが!」

「俺の事はどうだって良い、短い人生なんだ好きにするさ。」
そんな……それじゃ芹沢さんが犠牲になるだけじゃない!
私にだって分かるよ、このままじゃ芹沢さんは長く生きられないって!

「そうだ、面白い話を聞いたんだがな。こっちの飯は大層美味いらしいな?お前が作っているんだろう?」

「はぁ、まぁそうですけど。」

「俺も食いたい。」

「はっ?」

「これからは俺の飯はも頼む、その代わりお前とお前の友の事は目を瞑ろう。」
そんな事を言われたら断れないのを分かってるわねこの人!

「分かりました。食事の時間に芹沢さんの分を運んで貰います。」

「嫌、お前が届けに来い。」
はぁ?やっぱりこの人我儘だわ、ちょっといい奴なんて思った私が間違ってた。

「分かりました、私が行きます。」
話は終わった筈なのに一向に出て行こうとしない芹沢さんを不思議に思って様子を伺うと、芹沢さんは一点を見ていた。

「あの、良かったら蜜柑飴包みましょうか?」

「いいのか?」

「はい、沢山ありますから。」
あげなきゃ出て行かなそうだもの、幾らでも差し上げるわ!
蜜柑飴を包んであげるとニコニコしながら芹沢さんは去っていった。

「相当蜜柑飴が気に入ったのね。」
出来上がった蜜柑飴とお茶を持って知世ちゃんの所に行くと平助君も来ていた。

「あれ?へーちゃんこんな所で油売ってて良いの?忙しいんでしょ?」

「別に油売ってる訳じゃねえよ、着物が破れたから知世に頼んだんだ。」

「そうだったんだ、知世ちゃんお茶にしようよ。へーちゃんもどう?」

「そうですね、平助君も休憩しましょう。」

「そうだな俺も休憩するかな、雛妃それなんだ?」

「これは蜜柑飴だよ、蜜柑に飴を絡めて固めたの。」
平助君は蜜柑飴を一口食べると震えた。

「なんだこれ!周りがカリカリして美味い!」

「あら、飴も良いですね。水飴も良いですけど、私はこっちの方が好きです。」

「でしょ?水飴か迷ったけどお茶請けには向かないからね、飴で固めれば掴んで食べれるからこっちにしたんだ。」

「まぁ、流石雛妃ですわ。」
知世ちゃんに褒められて照れていると、平助君は一人で難しい顔をしていた。
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