PatchyX-パッチークロス-

磯部ショーヤ

文字の大きさ
17 / 27
【第4世:五等爵とは】

武器を構える理由(鈴木視点)

しおりを挟む
    兄貴は余興半分でコロシアム風な大会を組織内で催した。

    餌は自称・切り裂きジャックと名乗る男。『この男を殺せば即伯爵』なんて甘い蜜を塗りたくって。



 そこに参加した幾百の参加者たち。

    それぞれがそれぞれの能力を活かして、男ひとりを全員で殺しにかかる。そして、男はただひとり、幾百を相手に勝ち目なんてない殺し合いをすることになった。

    いや、もう殺し合いとすら呼べないのかもしれない。



    これは、ただの集団殺戮だ。


 
 幾百の武器をひとりで喰らうそのおぞましいほどの未来予想図に、俺は背筋に寒気さえ感じた。



 「どうなるんやろうなぁ~」



 結果がわかりきっているこの催しに、ニヤニヤと口角を吊り上げて眺めるこの高見の見物をするお偉い公爵様は一体何を考えているのか。

 欲しいとか言っておきながら、本当にあの男が本物の切り裂きジャックだとしたらどうするつもりなのか。兄貴の中でこれはただの暇つぶしにすぎないのか。

    そう思うとこの催しの中心にいるあの男に同情さえ芽生える。



    俺は哀れみを込めてフィールドの真ん中にひとり立つ自称・切り裂きジャックを見つめた。それを囲むように幾百の挑戦者が男を囲んでいる。



 「新参者のボクぅ。あたいらがずっと狙っていた席を横から奪おうなんて生意気だね!」



 「……」



 「でも、アンタには感謝しないとね!アンタのおかげでアンタさえ殺せばすぐ伯爵になれるんだから」



 「……」



 組織の中でもそこそこ成績のいい女が長い槍を男に向けた。それを鼓舞するように周りの参加者たちもそれぞれ武器を構えて、雄たけびを上げた。



 「噂ではアンタ、あの切り裂きジャックだって言うじゃないか。でも、世間の人気者だからって、所詮は人間!ここじゃアンタもあたいたちと同じただの罪人なんだ!手加減なんてしてやらないよ!」



 その言葉を引き金に周りの参加者たちも様々な罵倒の言葉を男に吐き捨てた。
    鋭い刃物や鈍器など多種多彩な武器の矛先が男へと向けられて、輪の中の中心にいるその男の陣地は次第に狭められていった。



 「…おまえたちは何の為に武器を構える?」



 男はユラリと気だるそうに辺りを見回した後、再び先程の女へと視線を戻した。



 「は?なんだいそりゃ。アンタを殺す為に決まってるだろ!」



 「殺す為……………。…そんな生易しい気持ちか…」



 ハアとあからさまに溜息をついた男は、両腕の袖口からシャリンと鈴の音のような綺麗な金属音を鳴らしながら長い鉈のような刀を伸ばした。
 両袖から伸びる研ぎ澄まされた綺麗な刀には男の横顔が映り込むほど。

 しかし、俺はその刀を見た瞬間、背筋に冷たいものを感じ、吐き気をもようした。



 「俺は……愛される為に武器を構える」



 その瞬間、二刀から吹き出る物凄い『感情』。

 会場全体がその何とも例えがたい重圧に押しつぶされそうになり、目眩や頭痛、吐き気さえ起きた。
    参加者の中にはその重圧に耐え切れず気を失って倒れる者もいた。



 「な…、なんなんだい…アンタはーー!」



 焦った女はその重圧を止めようと、長い槍を一突き…男に向けて突いた。しかし、槍は男の服を裂き、肌に触れるとバツンと鈍い音を立てて弾かれてしまったのだ。

 弾かれた矛先は綺麗に折れていた。



 「そんな生易しい気持ちで構えた武器なんかで、俺を殺すどころか傷ひとつ付けることはできないよ」



 槍で突かれたはずのその身体は、物理的に服は裂けても、そこから覗く皮膚には本当に傷ひとつついていなかった。

 その異常たる光景に俺も周りの参加者や観戦者もどよめきを隠せなかった。

 ただひとりを除いて。



 「まさか…アビマーか………?」



 動揺している俺の横で、男の異様な重圧を放つその武器と、槍を通さない皮膚を見つめながら、兄貴だけが…、ただひとり兄貴だけがニヤリと不気味に笑った。



 その横顔を俺は気味が悪いと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...