PatchyX-パッチークロス-

磯部ショーヤ

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【第4世:五等爵とは】

【鈴木一哉】俺から奪う者たちへ

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    おまえは、自分が自分ではなくなるほど、人の魅力に取り憑かれたことはあるか?



 俺は、ある。



 憧れとか、尊敬とか、今まで生きてきて親や兄貴にさえもこの感情を抱いたことはなかったけれど、



    彼にだけは、彼にだけ…初めてこんな気持ちになった。



 心臓を鷲掴みにされただけじゃなくて、心臓を奪い取られたような。例えたくはないが、まるで恋のような。

 そんな感情を彼に抱いてしまった。



 しかし、恋と例えただけで、これが恋かと聞かれたらそうではない。そこに好意という恋愛感情は芽生えていないからだ。

 彼そのものに惹かれたのは間違いないが、彼の持つ美しいまでの剣さばきとか、彼の放つ禍々しい雰囲気とか、彼の仕草、目線、行動、発言、そのひとつひとつが、まさに芸術品のように美しく愛おしい、そんな感情だ。



 …そうだ、もう俺からすれば、彼はひとつの芸術品だ。

    そのすべてに魅力があり、価値がある。素晴らしい存在なんだ。



 俺は彼のことを一目見た時からその虜になってしまい、彼のことを調べれば調べるほど、知れば知るほど、どんどん底無し沼のように沈み、嵌って、抜け出せなくなった。

 …いや、抜け出そうだなんて思ってない。もう抜け出せなくても構わない。



 彼のことを思い出すだけで、胸が締め付けられる。

    彼のことを見かけるたびに、子供のように目を輝かせてしまう。



 こんなの俺じゃない。



    なんて最初は否定していた。

 自分らしくない感情に飲み込まれそうになって、足掻き、それが気持ち悪いと思ったこともあった。

 でも、一度認めてしまえばこんなにも胸が高鳴り、彼の存在が俺の糧になった。



 嗚呼…彼を芸術品として、一生俺の手元に置いておけたなら、どんなに素敵なことだろう。

 もう情報を収集するだけじゃ足りない。

    写真に、動画におさめるだけじゃ足りない。

    彼の行動を観察するだけじゃ足りない。

    

    足りない、足りない、全然足りない、満たされない。



 もっと、もっと、彼のことを知りたい。触れたい。自分だけのものにしたい。



 …これだけ彼のことを調べ尽くしたはずなのに、ひとつだけわからないことがある。
 


    それは彼の心の中心にずっと居座っている、彼が殺人を犯す『理由』だ。



 彼のことを調べていて、彼が趣味で人を殺したり、悪意があって人を殺す人間ではないことはわかった。

 それなのにだ。

    何故、彼は何を理由にこんなにもたくさんの人を殺すのか?

 彼本人に聞いてみても「なんとなく」と濁されて、ちゃんとした答えは返ってこなかった。



 それだけが、俺はわからない。
 


 俺は彼のことは経歴から行動パターンから、癖とか、好きな食べ物、使ってるシャンプーまで、…何でも知っているはずなのに。
 


 ひとつだけわからないんだ。



 そんなことがあっていいものか。



 そんなことあってはいけないんだ。



 わからない。わからない。わからない。悔しい。何故、わからない。知りたい。知りたい。知りたい。とても知りたい。



 彼の"すべて"を知ってこそ、きっと彼を手にする資格がある。

 だから、俺がその理由とやらを知る前に、彼を俺から奪う者が現れたら…。



 絶対に、許さない。



 どんな手を使っても、必ず取り返してみせるよ。



 だから、待っていろ。

 俺から彼を奪う者たちへ





【第5世:綾小路輝光の行方】へ続く
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