PatchyX-パッチークロス-

磯部ショーヤ

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【第5世:綾小路照光の行方】

邪魔な存在(大チャン視点)

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    この街に高くそびえ立つ我が社は、社長室があった最上階あたりから下にかけて、その頭蓋を爆破によってがっつり持っていかれていて、ボクらに見覚えのある建物の面影はそこにはなかった。



 「社長…!」



 一哉の叫びも虚しく、クロス社だった建物は数十秒前までなかった赤い鬣をなびかせ、そこから伸びる黒煙がどれだけの爆発だったのかを物語る。



 瞬時にボクの横を走り抜け、一目散に今にも次なる破壊が連鎖で起こりそうなその場所へ戻ろうとする一哉。

 ボクは間髪入れずその一哉の腕を掴み、静止させようとした。
 すると、キラリと光るものがボクの視界の隅に入った。そのキラリと光るものを瞬時に危険なものだと察したボクは、一哉の腕から手を離した。



 ピキッピャキキ……、ピキッ、キキキ………。



 ボクが一哉の腕から手を離したその指先から、ガラスを擦り合わせたような耳障りな音が鳴った。
    見ると一哉の腕から離したボクの指先が第二関節ぐらいまで凍っていたのだった。

 こんな冷気もない、温度も寒いわけではない処で、突然の凍結。



    その原因はこの目の前にいる弟のせい。



 「お兄ちゃんの手を切り落とすつもりなん?こわいわ~」



 飄々と応えてみたものの、目の前の弟は兄に向ける目付きではない冷たい目付きでボクを睨みつける。

 その一哉の足元はまるでブーツのような形をした氷に覆われており、アイススケートの刃のような氷の刃が足の裏に生えていた。
 
その刃を腕を掴まれた拍子に後ろに回転しながら、その氷の脚で掴んだボクの手を目掛けて振り上げた。
 あの刃に当たっていたら、ボクの手首は確実にお空にバイバイしていた。

 しかし、間一髪、刃には当たらなかったはずなのに、攻撃をかわした風圧だけで凍ってしまうとは。
    今の一哉が相当感情が高ぶっている証拠だ。



 「次、俺を止めてみろ。血が一滴も流れないように芯まで凍らせてバラバラに砕く」



 その一哉の言葉は脅しではなかった。その目を背けたくなるようなまなこが、一哉の殺意が本気だと嫌でも訴えてくる。



 「おー、怖っ。それは堪忍やで~」



 ボクは一哉に先に行くように手をヒラヒラさせながら追い払う素振りをした。
    それには目もくれず、一哉はボクを置いて会社に向かって全速力で走っていった。



    「……お兄ちゃんよりも社長なんやね…」



    五等爵が来たと聞かされたときや、綾小路輝光が落ちたと聞かされたときより、今の一哉は今日一番焦っている。



 それほどまでに、社長のことが…。





    …小さい頃の一哉は何も出来ない可愛い弟だった。

    勉強も運動も苦手で、愛想もなければ、負けず嫌いの泣き虫。

    何でも器用にこなすボクとは正反対だった。そこがまたボクからすれば可愛いかった。



    アビコは親父が作った組織で、突起した特技も強さもなかった一哉は『創設者の息子』というだけで組織に入れられ、ここでもボクと一哉の能力には差があった。



    いつも兄の背中にいる二番手。



    自分で言うのもあれだが、当時カリスマ的存在だったボクは、圧倒的強さを盾に皆をいいように使って遊んでは捨てていた。

    …そりゃあもう金遣いも女遣いも最低な悪逆非道な王様だった。

     一哉が五等爵の侯爵こうしゃくに選ばれても、突起した能力のない一哉を皆は公爵神一郎の付き人と呼んでいた。



     …しかし、そんな一哉が突然強さを発揮しだしたのが、アビコに"切り裂きジャック"が来てからだった。



    当時、世間を騒がせていた殺人鬼・切り裂きジャックが五等爵に入りたいと志願してきたことをいいことに、ボクはアビコでバトルロワイヤルを開催した。



    "生き残った者が伯爵はくしゃくの座を手にする"



    幾百を相手にするひとりの殺人鬼。

    ボクは暇つぶしのつもりだった。切り裂きジャックがどんなものか興味があったし、小手調べ程度のつもりで開催した大会。



    しかし、切り裂きジャックはそこで圧倒的な能力を見せた。



    アビリティー・マスター。略称、アビマー。



    八つの基本感情の中でひとつだけを最大限に極めて、それを自分の力に付与できる力を持つ者。

    切り裂きジャックは『憎悪』のアビリティー・マスターだった。



    それ以降、今まで何も突起しなかった一哉が八つの基本感情の中の『敬愛』のアビリティに目覚めた。そして、アビリティ・マスターになった。

    …敬愛とは程遠そうな氷属性だったけれども。



    …何への敬愛かは、一哉を幼い頃からずっと見てきたのだからボクにはわかる。



    兄であるボクにすら向けられなかった『敬愛』を受けたあの殺人鬼。

    兄であるボクを差し置いて、一哉の心を奪ったあの殺人鬼。



    ボクにとって邪魔な存在になったあの殺人鬼。



    「…さぁて、社長たちのところに戻ろかなぁ~」



    ボクは昔の記憶に浸りながら、その懐かしい苛立ちを踏みしめながら、ゆっくりと一哉の後を追った。
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