PatchyX-パッチークロス-

磯部ショーヤ

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【第5世:綾小路照光の行方】

『憎悪』の源(ジャック視点)

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 切り裂きジャックの中から"切り裂きジャックに関する記憶"を消される。

 それはつまり、俺が"俺"ではなくなるということだと悟った。

 俺のアビマーの能力は残しつつ、自分が切り裂きジャックであったことだけを消すなんて、そんな都合のいい事ができるのだろうかと疑問に思ったが、何かしら手段があるからこの判決に至ったのだろうという結論に至って、俺は判決内容を不思議に思うことをやめた。



 「異論はあるか?」




 「ない…「ある!」



 俺の台詞に被ってまで判決に異論を唱えたのは当の本人である俺ではなく、公爵の隣に座っている公爵の付き人……侯爵だった。

 公爵の弟だかよく知らないが、大した実力もないのに公爵の隣でナンバー2の座を独占している公爵の金魚のフン。
 口数は少なく、冷めた表情をしていて、俺と同じ五等爵だったが関わったことはあまり無い。いつも陽のような公爵の傍らにいる陰のようなイメージだった。

 そんな侯爵は目つきの悪い鉄仮面顔でいつも俺を睨んでくるから、俺は彼のことがあまり好きではなかった。



 その侯爵が、珍しく声を荒げて異論を唱えた。



 「勝手に………一人で決めるなよ!そいつから切り裂きジャックの記憶を消して、普通の人間にしたとして、俺のその"記録"はどうなる!」



 「一哉がご丁寧に調べてくれたこの記録たちは、今後切り裂きジャックの記憶が戻るきっかけになったらあかんから、厳重保管させてもらう。大丈夫、一哉の努力の賜物を処分したりしはらんから安心してええよ」



 「違う!俺が言いたいのは………」



 「処分しはらんだけ良いと思った方がええよ。アビコの皆は切り裂きジャックの死を望んではる。皆、次いつ自分が殺されるかわからない不安の中にいはるからや。このまま切り裂きジャックをそのままにして、誰にメリットがある?また誰かもわからんその女からの命令で、誰かを殺すだけやで?だから、記憶を消すことで物理的に殺しはせんけど、存在的には殺すことにした。せやから、こーーんな切り裂きジャックの記憶が甦るきっかけになりそうな記録、ほんまやったら処分もんやで?せやけど、それをしはらんのはボクの一哉への恩恵や」



 「恩恵………だと?」



 目の前で厚かましいまでの恩恵を弟に浴びせるこの男は、本当に何者なんだろうか?
 兄とは思えない。もしこんな人間が俺の兄だったら、嫌いになるだけの話ではない。



 きっと、殺したいとさえ思う。



 生かしておくべきでないのは、俺ではなくやはりこの男なのではないだろうか。

 


 ………俺の記憶が消えた後、早希はどうなってしまうのか。

 俺はどうなっても構わない。

 ことにすら気づけず、早希の名前まで知られて証拠を掴まれた俺は、早希にとってもう足手まといの枷でしかない。
 だから、俺自身がどうなっても構わないが、早希はどうなるのだろう。それだけが不安でならない。



 俺は一度早希を失った。

 だから、俺はこの世界でもう一度早希に会えて、早希の為に、それが誰かを苦しめたり悲しませたりすることになっても、早希の願いを今まで叶えてきてあげられたことが、俺には奇跡ともいえる幸せな期間だったのだ。



 俺の脳裏に焼き付いてきた、俺が殺した女たちの無残な姿を見た家族や、友達や、恋人が……膝から泣き崩れる姿。



 遺族から溢れだす、姿も顔も知らない俺に向けられる憎悪。殺意。



 「切り裂きジャックに裁きを、罰を」

 「切り裂きジャックに死を」



 大切な人を失う辛さや苦しさは俺にはわかる。だから、殺した彼女らに関係している人間がどれだけ悲しい思いをしたのか痛いほどわかる。

 俺のアビマーの『憎悪』は殺した人間とその周りから向けられた『憎悪』なのだ。




 その憎悪たちを俺は自分の力に変えていた。



 だから、いろんな人の大切な人を奪ってきた俺だけれど、どうか、どうか、俺がいなくても早希が幸せでいますように。



 それだけ、それだけを強く願う………………。
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