異型の僕が愛した娘

磯部ショーヤ

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■異型の世界

第04話『居場所とニンゲン』

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    「ここが僕の部屋だ。キミの部屋が手配できるまで好きに使っていいよ」




    僕の部屋に娘を上げると、娘は部屋中をキョロキョロと小動物のように見回して、辺りを散策し始めた。
    色んな部屋の扉を開けたり、ソファーに座ってその弾力を楽しんだり、ベッドに飛び込んでゴロゴロと転がったりと、無表情の割に少し楽しそうに見えた、気がした。



    「家具がどれも大きいのね」

    「僕の身長が高いからね」

    「手も大きいわね」

    「最初は顔が異型になったんだ。その次は手が大きくね…。どうしてその部分が異型になるのか理由はわからない」

    「いいわね。手が大きいと、何でも掴めそう」

    「掴める?…………」





-------おとうさん…………





    「お父さん……?」

    「何?お父さんがどうかしたの?」

    「今、一瞬、何か聞こえた気がした」

    「何か?私には聞こえなかったわ」

    「そうか、気のせいか」



    聞き覚えのある声のようだった。どこかであの子に出会ったことがあるのだろうか?



    思い出せない。



    「そうだわ。さっきまでいた眼鏡の男の子は誰かしら?確か…、グラトム?フェストのお友達?」

    「ああ、アイツはグラトム。眼鏡を掛けてお化けみたいに透けてるから、グラスイズとファントムで合わせてグラトムって名前になった」

    「何そのネーミングセンス」

    「文句ならブレウス様に言うんだな」

    「私も異型になってこの街に住むようになったらブレウスに名前を付けられるのかしら?………できれば可愛い名前がいいわね」

   「住むって…。キミは元の世界に帰りたくないのかい?」

    「元の世界?………ああ、ニンゲンの世界?帰りたいとは思えないわね」

    「どうして?」

    「帰ったところで私の居場所はないもの。…………誰も私を愛してくれない。まだこの世界にいた方がいいわ。この世界にいた方が私は生きていられる」

    「ニンゲンの世界に帰ったら死んでしまうのかい?」

    「どうかしら?死ぬ……、死んだも同然の存在になるって言ったほうが正しいかしら。私には何の権利もないの。私の存在価値も、存在理由もない。そんな世界なのよ、あっちの世界は」

    「ニンゲンの世界はとても怖いんだね。僕も元はニンゲンだったみたいだけど、ニンゲンだった頃の記憶はもう思い出せないから、そんな怖い世界に僕もいたのかと思うととても恐ろしいよ」

    「羨ましいわ。私もこんな記憶、忘れてしまいたい」

    「でも、こっちの世界もオススメできないよ。静まることのないネオンに音楽、毎日飽きずにバカ騒ぎして、酒に金に女に……皆がやりたいことを好き放題やって、狂っていく自我を保とうとする負の世界。それでも止まらない異型への姿。…負の連鎖だよ」



    そんなお互いの世界を否定しながらする話は、とても気分のいいものではなかった。
    僕も、娘も、どっちの世界にも『平和』や『安息』なんてものはなくて、どっちの世界にも居場所なんてないんじゃないかと不安になっていく一方だった。

    それもこの世界の空気のせいだ。

    負が渦巻く空気のせいだ。



    そんなことを思っていたときだった。

    外からけたたましい警報と軍の車が走っていく音が聞こえた。



    「何かしら?」

    「ああ、きっと街の外から悪魔がやってきたんだよ」

    「え?悪魔?」

    「さっきブレウス様が言っていただろう?街の外には悪魔や魔王がいるって」

    「街が攻められているの?」

    「さあ、どうだろう。街まで来たことはないから、どうして悪魔がやってくるのかもわからない。侵略なのか、友好なのか、はたまた迷子なのか。街に着く前にブレウス様の軍がいつも排除してくれるからね。ブレウス様の部下は優秀だよ。だから、皆この街に居続けるんだ。外には悪魔や魔王がいるからね」



    すると、娘は顔をしかめて、窓から見えるビルの隙間から見えた遥か遠くに見える森の先を見つめた。



    「……………見てみたいわ」

    「え?」

    「私も悪魔を見てみたい」

    「え?いやいや、警報が鳴ったってことは外は危険なんだよ?悪魔の排除はブレウス様の軍に任せておけばいい」

    「その"悪魔"ってのが、何か胡散臭いのよね」

    「胡散臭い?」

    「とにかく、私は森に行くから」

    「ま、待ちなよ。…………キミの世話を任されたのは僕だ。仕方ないから一緒に行ってあげるけど、軍の人に見つかったり、危なくなったらすぐ帰らせるからいいね?」

    「ありがとうフェスト。貴方は優しいのね」



    そう言って、無表情なりに少し微笑んだ娘の表情が何とも愛らしく感じてしまって、僕の胸は今までにない温かさに包まれてしまった。

    その僕の反応が娘に愛を感じていることを僕自身もまだわかっていなかった。




    そして、この先、森で見たものを後々後悔することになるのも、まだわかっていなかった。





    続く
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