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■異型の世界
第01話『僕には顔がない』
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生き物にはそれぞれ『感情』というものがある。
大きく分類すると『喜』『怒』『哀』『楽』の4つに分けられるらしいが、僕のいる世界には『怒』や『哀』を中心とした負の感情が渦巻いている。
苦しみや悲しみ、怒り、妬み。その他、様々な負の感情。
それらの感情が渦巻いているせいで、気がつけば僕は感情を読み取るひとつである『顔』を失ってしまった。
何故、顔がなくなってしまったのかわからない。
もう元の顔がどんなだったのかすら思い出せない。
もしかしたら元からこんな顔だったのかも。
仮面を貼りつけたようなその顔は、鏡越しに見ても"僕の顔"だった。
しかし、顔を失ったからと言って、何も不便はなかった。
この世界は僕だけではない、異型の住人ばかりなのだから。
顔だけ猫の奴もいれば、手が刃物みたいな奴、幽霊のように透けている奴や、小人のように小さい奴など。
この世界は異型の奴らばかりで、顔を失ったぐらいでは何も不便はなかった。
唯一、不便なことといえば…
「フェストって何を考えてるのかわからないから怖いわ」
「これでも楽しんでいるつもりなんだけどね」
異型の仲間たちと集まっていると、決まって言われるのがこの台詞。
「フェストは顔がないからわかりにくいわね。何を考えてるのかわからないわ」
「別に君にわかってほしいとも思ってないよ」
手が蜘蛛のように八本生えている女に僕は素っ気なく返した。
僕の態度に女は頬を膨らませながら、僕の腕にその八本の手を絡ませてぎゅっとしがみつく。
「何よ、その態度。フェストのこともっと知りたいと思ってるだけなのに」
「知らなくてもいいよ。教えるつもりもないから」
この手の八本生えている女の名前はスピンズ。
蜘蛛のような八本の手があるから『スパイダー(蜘蛛)』と『ハンド(手)』でスピンズという安直な名前。
僕の名前も顔を失ったから『フェイス(顔)』と『失った(ロスト)』を合わせてフェストもいう安直すぎて全く誇れない名前。
こんなネーミングセンスのない名前は親に付けてもらったわけではない。
"異型"になった時に付けてくれる奴がいる。
「スピ~、そういえばブレウス様が呼んでたの、ちゃんと行ったの?」
集まりの中にいた"スピ"と親しげに呼ぶ丸眼鏡の少年は、僕とスピンズの間を割って入るように現れた。
「やだ、忘れてたわ。ここに来る前に寄れって言われてたんだった」
ブレウスという名前を聞くと、瞬時に顔色を悪くするスピンズ。
ブレウスとは僕やスピンズなど、このネーミングセンスのない名前をつけてくれる僕たちの"親"のような存在。
スピンズは渋々と僕の腕から絡ませていた八本の腕を離して、名残惜しそうにしかし足早にその場を去っていった。
「助かったよグラトム」
「フェストは本当にスピンズが苦手だね」
「あのあからさまな好意を押しつけてくる感じが好きじゃないんだよ」
「それぐらいフェストのことが好きなんだよ。羨ましいな~、スピンズみたいなセクシーな女性に好かれるなんて」
「見た目が良くても、スピンズはあまりいい噂を聞かないよ。とくに男絡みの」
「ボクはその噂が本当でも嘘でも、それでも構わないよ!」
「心が広いね~」
グラトムのキラキラと光る丸い眼鏡の中に、キラキラと眼鏡のように輝く眼。
それはグラトムがスピンズに好感を抱いている証拠。
グラトムは感情がわかりやすい。表情がコロコロと変わる。
喜んだり、笑ったり、泣いたり、驚いたり、怖がったり。
グラトムを見てると今まで不便はなかったけれども、"顔"があるのはいいなと時々思う瞬間がある。
「どこにいくのさ、フェスト」
「ちょっと散歩だよ」
グラトムを見て少し感傷的になってしまったのか、僕は気分転換に外の空気を吸いに行くことにした。
街の離れにある森はネオン管でギラギラしたこの街とは違い、とても静かで心地良い。
その森の奥には、あるちょっとした開けた場所がある。
僕はそこにある切り株に座って、差し込む月光を浴びるのが好きだ。
しかし、今夜はそこに先約がいたようだ。
月光を浴びたその長い髪は紺色に輝き、透き通る翡翠色の瞳が僕をじっと見据える。
そして、彼女は僕に言ったのだ。
「あ、バケモノ」
そう言いながら月光を反射した青白い小さな手が僕を指差した。
これがこの娘との初めての、そして運命の出会いであって、僕の物語の始まり。
続く
大きく分類すると『喜』『怒』『哀』『楽』の4つに分けられるらしいが、僕のいる世界には『怒』や『哀』を中心とした負の感情が渦巻いている。
苦しみや悲しみ、怒り、妬み。その他、様々な負の感情。
それらの感情が渦巻いているせいで、気がつけば僕は感情を読み取るひとつである『顔』を失ってしまった。
何故、顔がなくなってしまったのかわからない。
もう元の顔がどんなだったのかすら思い出せない。
もしかしたら元からこんな顔だったのかも。
仮面を貼りつけたようなその顔は、鏡越しに見ても"僕の顔"だった。
しかし、顔を失ったからと言って、何も不便はなかった。
この世界は僕だけではない、異型の住人ばかりなのだから。
顔だけ猫の奴もいれば、手が刃物みたいな奴、幽霊のように透けている奴や、小人のように小さい奴など。
この世界は異型の奴らばかりで、顔を失ったぐらいでは何も不便はなかった。
唯一、不便なことといえば…
「フェストって何を考えてるのかわからないから怖いわ」
「これでも楽しんでいるつもりなんだけどね」
異型の仲間たちと集まっていると、決まって言われるのがこの台詞。
「フェストは顔がないからわかりにくいわね。何を考えてるのかわからないわ」
「別に君にわかってほしいとも思ってないよ」
手が蜘蛛のように八本生えている女に僕は素っ気なく返した。
僕の態度に女は頬を膨らませながら、僕の腕にその八本の手を絡ませてぎゅっとしがみつく。
「何よ、その態度。フェストのこともっと知りたいと思ってるだけなのに」
「知らなくてもいいよ。教えるつもりもないから」
この手の八本生えている女の名前はスピンズ。
蜘蛛のような八本の手があるから『スパイダー(蜘蛛)』と『ハンド(手)』でスピンズという安直な名前。
僕の名前も顔を失ったから『フェイス(顔)』と『失った(ロスト)』を合わせてフェストもいう安直すぎて全く誇れない名前。
こんなネーミングセンスのない名前は親に付けてもらったわけではない。
"異型"になった時に付けてくれる奴がいる。
「スピ~、そういえばブレウス様が呼んでたの、ちゃんと行ったの?」
集まりの中にいた"スピ"と親しげに呼ぶ丸眼鏡の少年は、僕とスピンズの間を割って入るように現れた。
「やだ、忘れてたわ。ここに来る前に寄れって言われてたんだった」
ブレウスという名前を聞くと、瞬時に顔色を悪くするスピンズ。
ブレウスとは僕やスピンズなど、このネーミングセンスのない名前をつけてくれる僕たちの"親"のような存在。
スピンズは渋々と僕の腕から絡ませていた八本の腕を離して、名残惜しそうにしかし足早にその場を去っていった。
「助かったよグラトム」
「フェストは本当にスピンズが苦手だね」
「あのあからさまな好意を押しつけてくる感じが好きじゃないんだよ」
「それぐらいフェストのことが好きなんだよ。羨ましいな~、スピンズみたいなセクシーな女性に好かれるなんて」
「見た目が良くても、スピンズはあまりいい噂を聞かないよ。とくに男絡みの」
「ボクはその噂が本当でも嘘でも、それでも構わないよ!」
「心が広いね~」
グラトムのキラキラと光る丸い眼鏡の中に、キラキラと眼鏡のように輝く眼。
それはグラトムがスピンズに好感を抱いている証拠。
グラトムは感情がわかりやすい。表情がコロコロと変わる。
喜んだり、笑ったり、泣いたり、驚いたり、怖がったり。
グラトムを見てると今まで不便はなかったけれども、"顔"があるのはいいなと時々思う瞬間がある。
「どこにいくのさ、フェスト」
「ちょっと散歩だよ」
グラトムを見て少し感傷的になってしまったのか、僕は気分転換に外の空気を吸いに行くことにした。
街の離れにある森はネオン管でギラギラしたこの街とは違い、とても静かで心地良い。
その森の奥には、あるちょっとした開けた場所がある。
僕はそこにある切り株に座って、差し込む月光を浴びるのが好きだ。
しかし、今夜はそこに先約がいたようだ。
月光を浴びたその長い髪は紺色に輝き、透き通る翡翠色の瞳が僕をじっと見据える。
そして、彼女は僕に言ったのだ。
「あ、バケモノ」
そう言いながら月光を反射した青白い小さな手が僕を指差した。
これがこの娘との初めての、そして運命の出会いであって、僕の物語の始まり。
続く
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