麻央と魔王の超危険なプロトコル

Yupafa

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麻央、魔王の部屋へ行く

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『サル? 聞こえる? サル、ねぇどうしたの?』

 携帯電話の電波が途切れるようにサルの声が消えていった。頭の中からサルがいなくなってしまう感じ。
 人間に牙を剥く恐怖の魔王だけど、いざいなくなってしまうとなんか寂しいものがこみ上げる。

 えーい、悩んでも仕方ない。とにかく今はサルのメンツをなんとかすることが優先よ。こんな時でもすぐに前向きな気持ちに切り替わってしまう自分がいるのが不思議。

「リスリス、相談がある。わた……俺の部屋に来るのだ。魔物たちはここで待たせておけ」

 うひゃー緊張するー。魔王っぽく話せているかな。

 喜びと困惑の混ざったような複雑な表情のリスリス。私をジッと見つめている。

 うっ、なに? 私、なんか変なこと言った?

「……承知しました。ここはダストの統治者ルーラー、アサテモデウスに任せます」

 ダスト? 統治者ルーラー
 聞き慣れない言葉が次々と飛び出してくるが、冷静を装う。

「うむ」
「アサテモデウス、前へ」

 最前列にいた巨大な赤い悪魔が立ち上がった。
 そいつは龍のような顔で、四枚の大きな翼、太くて長い尻尾を生やしていた。なぜかピシッとしたスーツを着こなしている。その姿は魔人、龍人にも見える。
 アサテモデウスという悪魔は、私たちの前に来るとひざまづいて頭を下げた。

「アサテモデウス、この場を任せます。魔王様と私はしばしこの場を離れます」
「リスリス様、かしこまりました」
 
 アサテモデウスが言葉を発すると同時に、大きな口の端から炎が漏れていた。

「アサテモデウスよ、頼んだぞ」
「ははあ! 魔王様、ありがたきお言葉」
 
 アサテモデウスがガタガタと震えているのがわかる。

 こんなに大きくて強そうな悪魔でも怯えるなんて……魔王って凄い。

「行くぞ、リスリス」
「はっ!」

 私はサルに教わった通り、頭の中で『魔王の部屋』と念じてみた。念じるっていっても単に頭の中で呟いただけだけど。
 すると、目の奥の方に暗い空間がぼんやりと浮かんできた。だんだんその空間が明瞭になってくる。

 これが、サル──魔王の部屋……
 趣味悪ぅううい!! ちょっとでも期待した私がバカだった。

 悪趣味極まりない部屋。
 その部屋の壁という壁には人間か悪魔かわからない姿の者が埋め込まれ、体の一部が壁から飛び出していた。
 天井の四隅には大きな顔の彫刻が四つ。四つとも目を瞑っていてはっきりしないけど、もしかしたら魔人なのかもしれない。
 床は紫色の煙が立ちこめていてよくわかんない。
 家具と呼べるものは大量の骸骨で作られた大きな椅子が一脚、同じく骸骨でできたテーブルが一台あるだけ。

 今はこの場を離れたい気持ちの方が強かったので、我慢してこの部屋に瞬間移動することをイメージする。
 瞬時に視界が移り変わる。目の前に現れたのは目の奥に浮かんでいた悪趣味な部屋だった。目の奥に浮かんでいたイメージと自分の目で見ている視界がピタリと一致する感覚。

 これが、瞬間移動……人類が憧れてやまない夢のまた夢の能力をいとも簡単に使えてしまうなんて。簡単すぎて拍子抜けしてしまう。

 サルの部屋を見渡す。天井の四隅にある顔の彫刻、リアルで見るとすごく大きくてインパクトありすぎ。
 その中でひときわ目を引いたのは、扉のある壁の右上にある女の顔だった。凛とした気高い美しさが漂っている。
 つい見とれていると、その美しい女の顔の目が開き、私と目があった。

「お帰りなさい、サルタシファン」

 わわわっ! この顔の彫刻話すの?? やばい、何か答えなくちゃ。

「……ただいま」

 私が答えると、その女の顔の彫刻は微笑を浮かべまた元の表情に戻るのだった。

 あーびっくりした。この人たち誰なんだろう? あの女の人、今『サルタシファン』って呼び捨てにしたよね。ということは、サルと同等かそれ以上の存在ってこと?

 その時、目の前の扉がノックされた。

「魔王様、失礼します。リスリスです。遅くなり申し訳ありません」

 リスリスは部屋の外に瞬間移動したのか。この部屋にいきなり瞬間移動されても困るから当然といえば当然だ。

「入れ」

 扉が自動的に開いて──というよりも扉がスッと消えてリスリスの姿が見えた。
 リスリスは緊張した面持ちで骸骨のテーブルの側まで歩いてきた。

「椅子が必要だな──」

 私の言葉と同時に、床からムクムクと何体かの骸骨が現れた。

 もしかして、この紫の煙の下にある床って……

 足で床を這っている紫の煙をかき分けてみた。出てきたものは想像したとおり、骸骨でぎっしりと埋め尽くされた床だった。

 うわぁ、ほんと悪趣味だわ。この部屋、全然落ち着かないじゃない。

 床から現れた骸骨たちが器用に合体しながら、椅子を形作っていく。その無駄のない動きには舌を巻くが、気持ち悪いものは気持ち悪かった。
 あっという間に骸骨の椅子が一脚できあがった。私はリスリスに座るように促した。

「ありがとうございます」

 しかし、リスリスは座ろうとしない。

 この気持ち悪い椅子、やっぱり嫌なのだろうか? 骨が当たって座り心地悪そうだし……でも魔王の命令は絶対でしょ? あっ私が先に座るのを待っているってことか。

 私は恐る恐る自分の椅子に座ってみた。

 えっなにこれ。この包み込まれるような感覚、あの座ると立ち上がれなくなる有名なクッションみたい。骨ってこんなに柔らかくなるの?

 私は驚きを隠しながら、リスリスが椅子に座るのを待った。リスリスは頭を下げて、骸骨椅子に座った。なぜか、リスリスの頰が赤らんでいる。
 私はそんなリスリスの様子を不思議に思いつつも、あのアイディアについて聞いてみようと切りだした。

「相談なんだが──」

 私が話そうとした瞬間、天井の四隅の顔の彫刻と壁に埋め込まれている異形の者たちがパタンと裏返った。忍者が壁の裏に隠れるように。
 続いて、床や骸骨の椅子やテーブルがピカピカの大理石のような素材に変わっていった。一気に落ち着いた部屋になった感じ。

 リスリスを見ると、少し俯き加減でモジモジしているようだった。

「どうした、リスリス。なにか様子が変だぞ」
「い、いえ……あの、あまり時間がなくて……綺麗な身体に清められず」

 えっ? この女悪魔なに言ってるの? 
 その淫らな顔……ひょっとして……そんな、えっ、ちょ、ちょっと待って──
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