麻央と魔王の超危険なプロトコル

Yupafa

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魔王、初めて恐れを抱く

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 このマオという小娘、なんという無礼千万な態度。元の身体に戻ったら、真っ先に貴様の一族から血祭りにしてくれる。魔界の中でも拷問中の拷問といわれるあの方法でな!

 それにしてもマオが俺の思考を読み取れないのは幸いだった。あの様子、使い方をほとんど知らないと見た。下等生物の人間にはテレパシーのような高度な能力──俺にとってはなんでもない能力だが──が備わっていないのだろう。これはこちらにとってかなり有利な状況だ。

『サル、あんた今なにしているの? 悪だくみ?』
『な、なにを言う、食事だ、食事!』
『人間になっていきなり人の家で食事? 図々しいわね』
『貴様とてリスリスの搾りたて心臓ジュースを飲んだのであろう』
『うっ……それは……あんたの体が勝手に……』

 俺はマオとテレパシーで会話をしながら、目の前に積まれてる霊魂入りハンバーグとやらを黙々と頬張っていく。
 目の前にいる人間どもが物珍しげにジロジロと見てくるのが気に食わないが、それよりも今はこのハンバーグだ。

「麻央ちゃん、いきなり無口になったわね」
「本当に美味しいものを食べると無口になるというからな」

 人間どもが話しかけてくるが、下手に話すのはまずいとマオが言っている。ここはマオの言うとおりにしておいてやろう。
 
「花より団子だもんね、お姉ちゃんは」

 鼻より男根……この小娘は好色か。さすが人間界は物欲にまみれている。
 それもこの肉体という低脳なうつわのせいだろう。意思の伝達をことごとく遮断するだけで、原始的な動きしかできないよう制約する足枷あしかせ。故にこいつらは下劣な欲望に苛まれ、その欲望を満たすための活動を延々と繰り返しているだけ。なんと愚かな種族だ。
 
 そういえば、爺が言っていたな。人間界は「物質」という思考の邪魔にしかならない低次元の存在に囚われすぎていると。それ故、人間は数多あまたの制限を強いられ、その克服のために「科学」という行く末の限られた道を歩んでいると。
 過去、我ら魔族は「科学」だけで発展した脆弱な世界を数え切れないほど支配下においてきた。低階層の者だけで簡単に陥ちるほど貧弱で、なんの手応えもなかった。
 「物質」や「科学」に拘泥こうでいする人間、なんと矮小で哀れな種族か。高次な存在を永遠に認識することはないのだろう。

 ──だが!
 そんなちっぽけな人間の小娘の身体に俺の魂は閉じ込められてしまった。さらには俺の身体を人間の小娘に操られているという失態。これだけは絶対に他の者に知られてはならない。魂が戻れば即座にマオを屠り、この失態の痕跡を完全に消し去る。
 そのためにはしゃくだが、しばらくはマオの言うことを聞くフリをしておかざるをえないだろう。
 
『あんた、なに黙ってるの? 怪しいわね。本当に食事してる?』
『今食事をしながら、お前の体を自在に操作できるか調べているところだ』
『ちょっと! 家族の前では危険すぎるわ。もう食事はいいから、二階にある私の部屋に上がってよ。両手の手のひらを合わせて〈ご馳走様〉と言って』
『なんだその呪文は?』
『バカ、呪文じゃないわよ。食事が終わった後の挨拶よ』

 小娘が! その口、誰に向かって!

『なに?』
『いや、なんでもない。貴様言うとおりにしてやろう』

 危ない、危ない。冷静にならなくては思考が

 俺は残っていた霊魂入りハンバーグを一気に頬張り、冷静スープで流し込んだ。

「麻央、行儀悪いぞー」
「ほんと、今日のお姉ちゃん変!」

 また人間どもが話しかけてくるが、俺は無視を続ける。たしかにこれ以上ここにいると危険かもしれない。
 俺はマオに言われたとおり、手を合わせる。

「ご馳走様」
「お粗末様」

 人間の女がカウンターマジックのようなものを唱えてきた。とっさに身構えるが、何も起こらない。

「麻央ちゃん、何しているの? ほんと今日は変ねぇ……」

 俺は女の唱えたものが気になりつつも、早くこの場を去った方がよいと考え、二階に向かうことにした。

『二階はその部屋を出て、すぐ目の前にある階段を登ればすぐよ』

 それにしても、なんと窮屈な屋敷なのだ。よくこんなところで生きてらるれものだ。これも低俗な種族ならではの文化か。
 幅が狭く勾配のある階段を登り、マオの部屋とやらに入った。
 
『うっ……』

 これは……この色使い……ここは色情魔サキュバスの創りだした異次元空間か? 俺がこんなところにいることがバレてしまうと、とんでもなくやばいほどのレベルだ。
 
『サル? どうしたの、私のお部屋になにかあるの?』
『……人間の小娘の嗜好に驚いただけだ』
『男の人をお部屋にあげるなんて、奇跡だと思いなさい。今まで一度も男の人をあげたことなんてないんだから!』

 色情魔サキュバスのくせになにを言っているのだ。と言いたいところだが、ここは我慢してやろう。

『ねぇ、私も一人になれるところに行きたいんだけど。みんなに見られているの落ち着かない。あんたの部屋はないの?』
『うむ、たしかに俺の部屋の方がよいな。普通に念ずれば、瞬時に行けるだろう』
『瞬間移動できるの? すごいじゃん! わかった、やってみるね。で、何を念じればいいの?』
『俺の部屋を念ずればよい。簡単なことだ』
『私、あんたの部屋なんて見たこともないのに、できるの?』
『ああ、心配するな。頭の中に景色が自然と浮かぶだろう。俺は魔界の中であれば、どこへでも行ける。見たこともないところだってな』
『ほんと便利な力ね。わかった、ありがと。あと、ここにいるヤツらにはなんて言えば?』
『そこにいるのは低階層の魔物どもだ。リスリスに任せておけばよい……っておい! 貴様、人間界への侵攻はどうしたのだ!?』

 そうだ、俺は魂が入れ替わる直前、配下のものに人間界侵攻の号令をかけるところだったのだ。

『止めたに決まってるじゃない! 私の住む世界への侵攻を認めるわけがないでしょ』
『なんだと! 貴様ぁ……勝手なことを……』

 人間の小娘ごときが! 憤怒がこみ上げてくる。魔界にいればどこか小さな世界のひとつやふたつ消し飛ばしていただろう。

『あんたバカじゃないの? あんな魔物が人間界を攻めたらあんたも死ぬことになるのよ?』
『くっ!!』

 マオの指摘はもっともだ。マオの肉体が滅びれば、俺の魂の行き場がなくなり……
 いや、ちょっと待てよ。人間界なんて無数に存在する。今俺の魂があるこの人間界はそもそも

『おーい、サルゥ』
『し、しかし、それでは配下のものたちに示しがつかぬ』
『プライド高いわねぇ、魔王だから仕方ないのはわかるけど……あっそうだ!』

 こいつ、一体なにをする気だ。貴様の考えていることならすぐに──

『ん!? おい、マオ。そこにいるのか? おい!』
『あれ……急に聞こえにく……サ……いる……ねぇ……』
『おい!』

 突然、頭の中からマオがいなくなり、テレパシーが通じなくなった。

 やばい。言っておかなければならないことがまだまだあるというのに。
 今まで感じたことのないような変な感情が次から次に湧いてくる。もどかしい気持ち、うまくいかない不安、そして──恐れ。
 
 俺は人間の身体のせいでこんな些細な感情で悩むことになるというのか。
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