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Prologue
ヒルダの骨董店1
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『二名の人間デス。武器ハ所持シテイマセン』
魔導人形のハンナが店の外の通路にいる客人を感知した。ハンナは私が古代遺跡のダンジョンの奥深くから拾ってきた珍しい女型人形だ。私と双子の弟クロロの目にしか映らないという特殊な能力を持っているので、店のボディガードとして活躍してもらっている。
「クロロ、お客様よ。遊ぶのをやめて出迎えなさい」
「ちぇ、いいところだったのにな」
双子の弟クロロは口を尖らせながら、宙に浮かせていた数十個の小さなブロックを立方体の形にまとめあげ、静かにテーブルに着地させた。
弟は魔導により様々な物体に擬似生命を吹き込むことができるという希少な能力を生まれながらに持っている。ハンナが生きているように動いているのもクロロの能力のお陰だ。
古い木製のドアがゆっくりと開かれ、ハンナの感知通りに二人の人間が入ってきた。一人は恰幅のいい髭面の男、人間の年齢でいうと四十代か。もう一人は従者のような格好をした切れ長の目の青年だった。髭面の男は狭い店を一通り見渡すとおもむろに口を開いた。
「ここがあの鑑定士どもが言っていた店、『ヒルダの骨董店』か。想像よりこじんまりとしておるな」
「美麗なダークエルフの姉弟二人で営んでいるという噂は間違っていないようですよ」
品定めするように二人が私たちを見てくる。下劣な人間どもを切り刻んでやりたいという衝動に駆られるが、そんなことは露ほども出さず、笑顔で会釈する。
「よくぞいらっしゃいました。本日はどのようなご用件で?」
「おお、そうだった。実は鑑定してもらいたいものがあってな。おい、あれを」
青年が鞄から薄紫色の布で仰々しく包まれたものを取り出し、そっとカウンターに置いた。
「【偽りの手鏡】というそうだ。人の背面を映す不思議な鏡ということだけがわかっている」
「その辺の鑑定士だと異口同音にそういった鑑定しかできないのです。それでここの店の噂を聞きつけましてね……」
青年は私の胸元にちらちらと目をやりながら説明をしている。青年のやらしい目線に気がついたクロロに殺気がよぎるが、カウンターの裏で小さく蹴飛ばして悟らせる。クロロの気持ちは嬉しいけど、今は仕事だから我慢してね……私もこいつの目玉をくりぬいて握りつぶしてやりたいのを我慢してるのだから。
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ、どうぞ」
包みを丁寧にめくっていく。出てきたのは女性が使う手鏡のような代物だった。もう一度、確認の意味で髭面の男の方を見た。男は促すように顎をしゃくる。
「……では、失礼します」
私の手のひらほどの大きさの円形の鏡面、妖精や花の彫刻が施された少し長めの持ち手。確かに鏡に念じることによって私の背面が鏡面に映る。
鏡面部分は特に変わったところのない普通の素材のようだ。持ち手部分は……やはり、ここか。高度で複雑な魔導紋様が彫刻のあちらこちらに巧妙に刻み込まれている。これでは一般の鑑定士には視えないのは当然だろう。私は丹念に手鏡の裏の部分まで視ていった。
「あんた、その目……色が……」
人間たちは目を丸くして私を見ていた。
そう、この目こそ私が生まれながらに授かった才能〈識別眼〉。マジックアイテムと呼ばれる希少なアイテムを見抜き、その構造をつぶさに鑑定することができる力だ。この能力を発動するときに、右目の瞳だけが緋色に光る。元々が深い藍色なので、左目が藍色、右目が緋色でオッドアイ。
「これがヒルダ姉さんの能力だ。そこらの鑑定士が百人集まって百年かけたところで決して及ばない領域だよ」
クロロが自慢気に私を宣伝する。嬉しいが、人前で言われるとちょっと気恥ずかしい。だめだ、集中力を切らさないようにしなくては。
私は刻み込まれている紋様を一気に解読していく。なるほど、呪いの術式が魔導紋様に巧妙に組み込まれている。これは怨念、嫉妬が生んだいわゆるカースドアイテム……危険極まりない。
「──お客様、お待たせしました。鑑定が終わりました。鑑定結果をお伝えするのには、お代を先にいただくことになりますが……」
この店では鑑定の結果を伝える前にお代をもらっている。マジックアイテムなどはその効果、効能を知るだけで数倍、いや数百倍の価値が出ることもあるからだ。値段は私の言い値。私たちの裏の世界では相場なんてものはない。それが常識。
前払いと知り、人間たちは明らかに嫌そうな顔を浮かべた。マジックアイテムの価値もろくに知らない馬鹿ども。実際、この【偽りの手鏡】の真実を知ってもこいつらには使いこなせないと思うけど。
「いくらなんだ?」
「今回は初めてこの店をお使いになられたということで、特別サービスしておきます。500魔素でいかがでしょう?」
「500? ぼったくりではないか」
「鑑定結果を聞く、聞かないはお客様の自由です。ただ老婆心ながらひとつだけ忠告しておきます。その鏡はそのままお使いにならない方が身のためですよ」
「な、何だって? 私たちを脅すつもりか!」
髭面の男は顔を真っ赤にして激昂する。
クロロの目に先ほどとは違う殺気が宿り、こいつらに見えないハンナが戦闘態勢に入ろうとする。ハンナが暴れると人間どもはミンチになってしまう。私はクロロに目配せをして我慢をさせる。商売は我慢が大切よ、クロロ。
「ご主人様、落ち着いてください。鑑定士たちの噂を信じるならば、この店の信用は絶対のようです。500ならば払ってもよいのでは?」
「おい、娘! 500魔素の価値のない鑑定結果を口にしたら、ただではおかんぞ」
娘って……私はあなたよりも100年以上長く生きているのだけど。人間に言っても仕方ないか。
「結構です。それでは、鑑定のお代は500魔素ということで、商談成立とさせていただきます」
魔導人形のハンナが店の外の通路にいる客人を感知した。ハンナは私が古代遺跡のダンジョンの奥深くから拾ってきた珍しい女型人形だ。私と双子の弟クロロの目にしか映らないという特殊な能力を持っているので、店のボディガードとして活躍してもらっている。
「クロロ、お客様よ。遊ぶのをやめて出迎えなさい」
「ちぇ、いいところだったのにな」
双子の弟クロロは口を尖らせながら、宙に浮かせていた数十個の小さなブロックを立方体の形にまとめあげ、静かにテーブルに着地させた。
弟は魔導により様々な物体に擬似生命を吹き込むことができるという希少な能力を生まれながらに持っている。ハンナが生きているように動いているのもクロロの能力のお陰だ。
古い木製のドアがゆっくりと開かれ、ハンナの感知通りに二人の人間が入ってきた。一人は恰幅のいい髭面の男、人間の年齢でいうと四十代か。もう一人は従者のような格好をした切れ長の目の青年だった。髭面の男は狭い店を一通り見渡すとおもむろに口を開いた。
「ここがあの鑑定士どもが言っていた店、『ヒルダの骨董店』か。想像よりこじんまりとしておるな」
「美麗なダークエルフの姉弟二人で営んでいるという噂は間違っていないようですよ」
品定めするように二人が私たちを見てくる。下劣な人間どもを切り刻んでやりたいという衝動に駆られるが、そんなことは露ほども出さず、笑顔で会釈する。
「よくぞいらっしゃいました。本日はどのようなご用件で?」
「おお、そうだった。実は鑑定してもらいたいものがあってな。おい、あれを」
青年が鞄から薄紫色の布で仰々しく包まれたものを取り出し、そっとカウンターに置いた。
「【偽りの手鏡】というそうだ。人の背面を映す不思議な鏡ということだけがわかっている」
「その辺の鑑定士だと異口同音にそういった鑑定しかできないのです。それでここの店の噂を聞きつけましてね……」
青年は私の胸元にちらちらと目をやりながら説明をしている。青年のやらしい目線に気がついたクロロに殺気がよぎるが、カウンターの裏で小さく蹴飛ばして悟らせる。クロロの気持ちは嬉しいけど、今は仕事だから我慢してね……私もこいつの目玉をくりぬいて握りつぶしてやりたいのを我慢してるのだから。
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ、どうぞ」
包みを丁寧にめくっていく。出てきたのは女性が使う手鏡のような代物だった。もう一度、確認の意味で髭面の男の方を見た。男は促すように顎をしゃくる。
「……では、失礼します」
私の手のひらほどの大きさの円形の鏡面、妖精や花の彫刻が施された少し長めの持ち手。確かに鏡に念じることによって私の背面が鏡面に映る。
鏡面部分は特に変わったところのない普通の素材のようだ。持ち手部分は……やはり、ここか。高度で複雑な魔導紋様が彫刻のあちらこちらに巧妙に刻み込まれている。これでは一般の鑑定士には視えないのは当然だろう。私は丹念に手鏡の裏の部分まで視ていった。
「あんた、その目……色が……」
人間たちは目を丸くして私を見ていた。
そう、この目こそ私が生まれながらに授かった才能〈識別眼〉。マジックアイテムと呼ばれる希少なアイテムを見抜き、その構造をつぶさに鑑定することができる力だ。この能力を発動するときに、右目の瞳だけが緋色に光る。元々が深い藍色なので、左目が藍色、右目が緋色でオッドアイ。
「これがヒルダ姉さんの能力だ。そこらの鑑定士が百人集まって百年かけたところで決して及ばない領域だよ」
クロロが自慢気に私を宣伝する。嬉しいが、人前で言われるとちょっと気恥ずかしい。だめだ、集中力を切らさないようにしなくては。
私は刻み込まれている紋様を一気に解読していく。なるほど、呪いの術式が魔導紋様に巧妙に組み込まれている。これは怨念、嫉妬が生んだいわゆるカースドアイテム……危険極まりない。
「──お客様、お待たせしました。鑑定が終わりました。鑑定結果をお伝えするのには、お代を先にいただくことになりますが……」
この店では鑑定の結果を伝える前にお代をもらっている。マジックアイテムなどはその効果、効能を知るだけで数倍、いや数百倍の価値が出ることもあるからだ。値段は私の言い値。私たちの裏の世界では相場なんてものはない。それが常識。
前払いと知り、人間たちは明らかに嫌そうな顔を浮かべた。マジックアイテムの価値もろくに知らない馬鹿ども。実際、この【偽りの手鏡】の真実を知ってもこいつらには使いこなせないと思うけど。
「いくらなんだ?」
「今回は初めてこの店をお使いになられたということで、特別サービスしておきます。500魔素でいかがでしょう?」
「500? ぼったくりではないか」
「鑑定結果を聞く、聞かないはお客様の自由です。ただ老婆心ながらひとつだけ忠告しておきます。その鏡はそのままお使いにならない方が身のためですよ」
「な、何だって? 私たちを脅すつもりか!」
髭面の男は顔を真っ赤にして激昂する。
クロロの目に先ほどとは違う殺気が宿り、こいつらに見えないハンナが戦闘態勢に入ろうとする。ハンナが暴れると人間どもはミンチになってしまう。私はクロロに目配せをして我慢をさせる。商売は我慢が大切よ、クロロ。
「ご主人様、落ち着いてください。鑑定士たちの噂を信じるならば、この店の信用は絶対のようです。500ならば払ってもよいのでは?」
「おい、娘! 500魔素の価値のない鑑定結果を口にしたら、ただではおかんぞ」
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