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第1話 万事屋登場

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空に滞留する灰色の雲が、太陽の光を遮り薄暗い光を僅かに零していた。
冷たい風があたりを駆け巡り、ただでさえ太陽の光が入りにくく視界が悪い森の中は、霧に見舞われより一層と視界を閉ざす。

そんな森の中、一筋の獣道に装飾の多い燦爛たる馬車が数十名のみすぼらしい衣服を着た男達に取り囲まれている。

「エスペリア王国第一王女、第三王子の乗っている馬車だな? 」

剣を構える数名の騎士は、その手に力を込める。まるで、こうなると分かっていたかのように再度覚悟を決めた。

「お前ら、お二人を死守するぞ! 」

一人、甲冑の色が異なる兵士が剣を上に振り上げ腹の奥から声を出し叫ぶ。
その声は、騎士全員の士気を高めた。

その一方で、盗賊達も士気を高める。
彼らは、弓や杖を持ち革鎧に身を包んだ剣士等様々なものが見受けられる。

男達は下劣な笑顔を浮かべ、腰に携える剣を抜き放ち、一斉に馬車へと襲い掛かる。

甲高い金属同士のぶつかり合う音が複数鳴り響く。
馬車を護るように剣を振るう戦士達は、数の暴力には勝てない。

「うりゃあ! 」

盗賊の1人が、1人色の違う鎧を身に纏った騎士に斬り掛かる。
''うっ……''と声を漏らしながらも、その斬撃を刀身で受止める。

その直後、後方からの気配に振り向く。
後ろからは2名の盗賊が剣を構え、斬り掛かってくる。

「舐めるなぁ! 」

受けていた剣を弾き返すと、剣をひと薙ぎに払う。

ーーガキィィンッ

後方からの剣をひと薙ぎで全て防ぎきると、足で盗賊を蹴り飛ばす。
飛ばされた盗賊達は後ろで別の騎士と戦っていた盗賊にぶつかり、そのまま地に転がった。

「やってくれるじゃねぇか」

男は、腹部に強烈な熱を感じる。
それは次第に痛みに変り、思わず地に膝を着く。

「流石は王国戦士長殿、さっきのを防ぐとは感服してしまう」

戦士長の腹に突き刺さった剣を勢いよく抜きながら言う。

「グァッ! 」

抜けた剣の部分から血が吹き出し、緑色の草原を赤く染める。

「さて、お前ももう動けまい。あとはお姫様達を殺れば依頼は完了だ」
「やはり……」

戦士長は気づいていたのだろう。手を強く握り、痛みに歪んだ顔を更に歪ませる。

この馬車に乗っているのは、王国内でも次期国王候補と名高い三男と、王位継承権は低いものの、王都内に数々の人脈を持つ第一王女だ。

本来、王位継承権は一男、二男次いで三男の順なのだが、この中で最も才があるのは三男。
年齢は15とまだ若いながらも、その回転の早い頭で三度王国の危機を回避している。

国民や貴族達から指示を多く集めているのが三男。
故に、最も国王候補なのだ。

そんな2人が手を組むこと良しとしない輩など、一目瞭然。

一男と二男だ。
その差し金であることは、容易に推測がたった。

「お二人に……触れるな! 」
「あぁ? 」

剣を杖に立ち上がった戦士長を、容赦なく盗賊の男は蹴り飛ばす。
その勢いは強く、戦士長は近くにあった木に身体をうちつけた。

「カッ! 」

その衝撃で内臓に骨が刺さり、口から血を吐く。

「まぁ、精々死にゆく最中見守ればいい。
お前が、あの日ビル王子の誘いを断った事を後悔してな」

男がそう言い、馬車の扉を開こうとを伸ばす。
だが、それは叶わなかった。

「ちょっと待て」

その手は誰かに掴まれ、捻られた男は苦痛の声をあげながら馬車から離れた。

そして、突如現れたその男は馬車の扉を開いて言い放つ。

「万事屋だ。盗賊1人頭金貨100枚でこの状況を変えてやる」
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