62 / 212
51
しおりを挟む目の前に奈落を思わせる渓谷が広がる。
こんなのはアレスの仕業に違いない。
あの「一閃」を放ちまくったならこうなっちゃうだろう。
見渡すと遥か向こうに橋があった。
「あれが、、お城?」
橋を渡った辺りの奥の方、ここからだと森の奥にもやもやと赤紫の霧の中にとんがった建物の先っぽみたいなのが見える。
「ああ、酷い有様だ、、」
トリスはため息混じりに答える。
「おっきいねー!」
レヴィが身を乗り出してくる。
落っこちないようにだけは気をつけて欲しい。
私はレヴィのベルトを掴んで、ちょっと待てをする。
ジェシーは瘴気に当てられて具合悪くなっちゃったから、町に馬車ごと預けてきていた。
私達は徒歩でとぼとぼと橋にむかって歩いている。
道、、というか渓谷のこちら側には朽ち果てた動物や帯剣した旅人の亡骸がちらほらとみてとれた、見つけるたびに一応簡単にお墓を作った。お疲れ様という意味で。
ワドウも手をあわせて冥福を祈っている様子だ。
橋は見えているのに近くなってる気がしない。
まるでセレスティアナの鉄壁みたいだ、、思い出したらまた切なくなってきた、、、。
「ぎゅ」
右手を握られて、はっとなった。
レヴィが心配そうに、ちょっと身を屈めて私を見つめていた。
「ありがとう、だいじょぶだよ」
私が言うとにっこりして、たたたっとトリスの後ろにくっつく。
ワドウはしんがりを慎重に来ている。心配性だなって思うけど、、。あんな経験したら当たり前か、、、。
歩き続けて暗くなってきた頃、生きている魔族と出くわした。
「引き返してもらおう」
トラの獣人が言う。
「城に用がある」
トリスは簡潔に告げる。
「それ以外にこんな所に人族が来る理由があるか?引き返せと言っている」
トラおじさんは、なおも引き返せと言う。
?って人族?
「トリス、ブレスブレス!」
私達は変身ブレスレットを着けていたから、おじさんからは人族に見えたんだよ!
「あ、、、」
トリスは相変わらず天然だ、ふふっ!
私達はブレスレットを外してみせた。
ふわりと私達の輪郭が揺らぎ真実の姿を晒す。
「おー!!なんだよ!ふざけんなよ全く!」
おじさんは、ははっと笑うと急に柔らかな表情になった。
「ん?そいつはなんだ?」
あ!ワドウは人族っぽいんだった(汗)
「そいつは薄くてな、、」
トリスがフォローする。
「あー、、かわいそうにな、まあ気にすんな!混ざりなんてみんなそんなもんだよ!」
バンバンとワドウの肩をおじさんが叩く。
「良かった、、」
ワドウはほっとしてみせる。
「交代だぜ!」
オオカミのおじさんが林から姿を現した。
「あれ?珍しいな、、まだ避難民がいたのか」
「あー、腕輪を使って上手く逃げてきたらしい」
トラおじさんの「想像フォロー」がなかなかに上手い。
「長旅だったが、、やっと落ち着けるよ」
トリスも設定にのっかった。
「じゃあ頼んだ」
トラおじさんがオオカミおじさんにひらりと手を振って林に向かう。
「おいお前ら、疲れただろう?休む所ならある、付いて来な!」
手招きされて、私達は一応顔を見合わせてから、トラおじさんについて林に入った。
林に入ると、程なく大きめのログハウスがあった。切り開かれた林の中にちょっとした畑や、洗濯物が干されているのも生活感をうかがえる。
トラおじさんはカギもかかってないドアを開けて中に入る。
「あら、ご苦労様!」
女の人の声がする。
「珍しく客だ」
「まあ!ほんとう?!」
なんてやり取りが聞こえてくる。
「おい!なにやってる!入れ入れ!」
おじさんの声に誘われて、私達は家?に入った。
中には料理をしているねこ獣人のおばさんと、すでにテーブルについて肩肘をついているトラおじさんがいた。
「まあ!女の子!!」
ねこおばさんは両手を合わせて喜ぶ様子をみせてくれている。
「腕輪を使って上手く逃げてこられたらしい」
トラおじさんの設定がでた。
「あー、、大変だったね、、、」
おばさんはさも自分の事のように切なそうに言う。
それから「座って座って」と私達を席に座らせると、スープをよそってみんなにだしてくれた。
私は、おばさんの姿を見てから、もうづっと泣きそうになっていた、、、。
忘れもしない、私の親友。ミーシャのうちもねこ獣人だった。
笑顔を絶やさない。
元気でいないと。
そう思って、自分にいい聞かせて来た。
けど、スープを口に運んだ時ついに私のがんばりはぽきりと折れてしまった。
どうしてかって、おばさんのスープは、ミーシャのお母さんのスープとおんなし味がしたから。
「うっ、、く、、」
ぼろぼろと涙が溢れる。
スープに涙が入ったらいけない!
私は椅子が倒れるのも気にせずテーブルから離れて口をおさえた。
おばさんが駆け寄って抱きしめてくれた。
みんなスープを飲む手をとめて、黙って私が泣きじゃくるのを見守っていてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる