わたくしの誕生日を家族で祝いたい、ですか? そんな我儘仰らないでくださいな。

月白ヤトヒコ

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歌い続けて? 僕のために。愛しい愛しい僕の歌姫。




 それで、お医者がわたくしの歌を気に入ってくださって、妹を診ると仰ってくださいましたの。

 ふふっ、なにを仰っているの? お父様の人徳や人脈? いいえ? そんなもの、ありませんでしたわ。ええ、だってお医者が仰っていましたもの。わたくしの歌が聞けないなら、大金を支払えない我が家など往診対象にならない、と。

 そういうワケですので、妹の命の恩人であり、我が家へ治療費や薬代などを大変融通してくださったお医者様のご期待に応えるためにも。わたくし、誕生日のディーバデビューを失敗するワケには行かないのです。

 わかって頂けましたか? では、わたくしの誕生日を家族で祝いたいなどと、そんな我儘を仰るのはやめてくださいね?

 え? なぜ、そんな大事な日に家族である自分達を招待しない、と?

 そんなこと仰られても困りますわ? だって、お父様もお母様も、わたくしのことなんて一切興味が無かったではありませんか。更には、王女殿下のお友達にして頂いたと報告しても嘘吐き呼ばわり。わたくしの言葉なんて、なにも信じてくださらなかったではないですか。

 それに、わたくしの誕生日をお友達がお祝いしてくださると言ったときにも、ドレスは仕立ててやらないとも言っていたので。わたくし、伯母様に相談しましたの。

 そしたら、王女殿下が大層お怒りになって。わたくしの衣装を仕立ててくださると仰って、お父様もお母様も、今後一切わたくしの関わるコンサートに出入り禁止だと宣言されたのです。

 ああ、お父様? 言い忘れておりましたが、おそらくわたくしの誕生日当日。わたくしの離籍届けが受理されますので。

 以後は、わたくしと接触しようとするのはおやめくださいね? お母様も。お二人が、わたくしのことを娘、親族だと名乗ること、他者へ触れ回ることは、許されません。

 わたくし、王女殿下のお勧めする家に、養子に入ることになっておりますの。

 では、これまで放置して育ててくださってありがとうございました。

 あまりお世話になった記憶はありませんが、わたくしにこの声と歌の才能をくださったことだけは、心より感謝しておりますわ。もう、二度とお会いすることはないでしょうけど。

 妹が達者であることを心より願っております。では、失礼致しますね。

 さようなら。

♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫

 小さな頃は、あんなに家族からの愛情に餓えていたというのに――――

 いつからでしょうか?

 なにも感じなくなったのは……

 お母様に手を振り払われたとき? お父様に、我儘言うなと怒鳴られたとき?

 妹に、お姉様ばかり外で遊べてずるいと、泣きながら罵られたとき?

 お母様に頭を撫でてほしくて、お話を聞いてほしくてお願いしたら、そんなことで声を掛けないでちょうだい、と。冷たくて刺々しく拒絶されたとき?

 ああ、わたくしはそんなこと、なのかと。お母様、お父様、妹にとってわたくしは、取るに足らない、その程度の存在なのだと思い知って。深い絶望と諦念を抱いたとき?

 振り払われるから諦めて、さみしいのを我慢して我慢して。近付くことも、声を掛けることもやめたら……お母様に、自分に懐かない可愛くない子で困っている、と言われたとき?

 振り払われて、嫌われるのが怖くて諦めたわたくしが悪かったのかしら? 邪魔者だと言われて、冷たく邪険にされても諦めないでお母様に縋り付けばよかったの?

 そうしたら、わたくしの頭を撫でてくれましたか? わたくしを抱き締めてくれましたか? 優しく名前を呼んでくれましたか? 妹へ向けるように、わたくしへ微笑んでくれましたか?

 わたくしを、愛してくれましたか?

 そんな思いで一杯で――――

 そう……あのときも、わたくしは歌っていた。

 うちの敷地の森の中で。誰かに追い掛けてほしいと思いながら一人で入って。

 でも、誰もわたくしを追って来なくて……寂しくて、泣きながら歌を歌っていた。

 なのに――――

 『ふふっ、君が要らないと言ったんだ。だから、貰うことにしたんだよ』

 『「家族に愛されたい。けれど、この心が家族の邪魔になる。こんな気持ち、要らないのに」と。だから、君の歌を気に入った僕が丈夫な喉と引き換えに貰ったんだ。君の、家族へと愛情を渇望する心を』

 あら? 誰かの声がしたかしら?

 『ふふっ、もう僕の姿を見ることはできないか。声も、なにを言っているかもわからない』

 ? 気のせいかしら?

 『いいや、気のせいじゃないよ? でも、そうだね。君に恋人ができるのは、これからも邪魔するね? 結婚もさせないよ』

 そうね……家族の愛情を欲したくないと願ったのは、わたくしだったわね。

 『だって、君が僕を魅了したんだ。幼くても、愛されたいと強い渇望を乗せた歌声で』

 それから、もう両親や妹のことをあまり気にしなくなったんだったわ。

 『リャナンシーの僕を、ね? だから、僕が愛してあげる。だから、歌い続けて? 僕のために。愛しい愛しい僕の歌姫ディーバ

 なにかが優しく額に触れたような気がしたけど……? きっと、気のせいね。

 でも、なんだかとても気分がいいわ。今日はきっと、素敵な歌が歌えそうね。

 さあ、ステージの準備をしなくては♪

 『ああ、楽しみにしてるよ。君の歌声を』

 ――おしまい――

✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧


 読んでくださり、ありがとうございました。

 リャナンシー……芸術的な才能を授ける妖精。授けた相手を恋人として愛する。芸術を裏切ったり、他の恋人を作ったりしたら、怒って芸術的才能を取り上げてしまう。

 この話のリャナンシーは男だけど、ゲームなどでは才能を授けるサキュバスみたいな扱いされることもあるので、リャナンシーは女性として描かれることが多い。

 リャナンシーが芸術的な人間に魅了されるのか、人間が才能欲しさにリャナンシーに魅了されるのかは、卵と鶏の関係と似ているかも?(੭ ᐕ))?

 リャナンシーの恋人となった人間は若くして天才と称され、大成すると言われているが、生気を吸われて早世することが多いと言われている。

 また、若くして亡くなった天才アーティストがリャナンシーの恋人と称されることもある。

 多分、主人公ちゃんは世界的なオペラ歌手になるかな? でも、それから先どうなるかは、彼女の歌に魅了されたリャナンシー次第。歌が魅力的な限りは聞き続けたいと思ってる。

 なんかこう……愛情を欲しいと思う気持ち自体を手放したいと、子供のときにそんな風に思ったことを思い出したら浮かんだ話なので。仄暗い感じの話ですね。(*ノω・*)テヘ

 感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。

 妹ちゃん視点の話、『お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの?』を投稿しました。月白ヤトヒコのリンクから飛べます。よろしければどうぞ。(*>∀<*)

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みんなの感想(1件)

jolly
2025.09.24 jolly
ネタバレ含む
解除

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