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【13 夏のハイキング】
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・【13 夏のハイキング】
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今日はハイキング・イベント。
七月中旬の山を楽しむ。
おにぎりやスープを用意して、荷物は私と吉四六で運ぶ。
ショタヌキが先導して、しんがりは怜那が担当する。
ショタヌキは結構草木のことを知っているので、花の名前を紹介しながら歩けるし、歩行ペースも遅めでまったりハイキングできる。
怜那は小さな子供の扱いなどが上手いので、ちゃんとついてこさせるには適任だ。
勿論私と吉四六は列を上下しながら、それぞれみんなの行動に目を光らせるわけだけども。
丘のラインでは、ヒメヒオウギズイセンが濃い橙色の花を咲かせている。
「葉っぱは先が尖っているので触らないようにね!」
とショタヌキが声を張り上げて、忠告している。
徐々に山へ向かっていくと、ヤマユリが全盛だ。六方向に伸びた白い花びらの真ん中に黄色いラインが入っていて、おしべは夕暮れ色で美しい。
「花粉が服に付いたら取れづらいので触れないように!」
とか、
「根っこは百合根と言って食べられるんですよー!」
とか言って、ショタヌキがいっぱい喋っている。
昔は人見知りしていたのに、今はこうやって人前で喋られるようになっている。
「ちょっとぉ、触っちゃダメって言ってたでしょ! ちゃんと人の話を聞かないとダメだよ!」
と怜那がヤマユリに触れそうになった子供を諫めている。
ちょっと前までは自分がイタズラのようなことをして、諫められる側だったのに大きな変化だ。
吉四六は言われた通りに周りの行動に目を光らせ、一番重い荷物を持っているにも関わらず、足取りは軽やかだ。
吉四六は何か、ずっと縁の下の力持ちだな。
怜那とイタズラしていた時もそうだし、こんなガキ大将のような見た目なのに、中身はどうやら子分肌のようだ。
私が吉四六へ、
「荷物の重さ、大丈夫?」
と聞くと、吉四六は余裕そうな笑顔で、
「全然余裕だよ! 卯愛さんの分も全部持てるくらいだぜ!」
とサムズアップして、それなら良かったと思った。
でもまあ半分くらいは自分で持たないと児童虐待の気(け)があると認定されるかもしれないので、私は私で持つけども。
ヤバイお姉さん出現、みたいには思われたくない、スマブラのCPU乱入の時のアラートみたいなモノが急に鳴ったら嫌だから。
森の草木と爽やかな風、新緑の香りは徐々に花の香りが混ざっていく。
もう少し経つと、熱波の匂いが私たちの水分を奪うような、八月が近くなってくる。
そうなったら逆にハイキングもできないので、今日がまあハイキング納めの日だ。あとは各々が好きにやってくれ。
後ろを振り返ると、カフェが若干小さく見える。
空は快晴で正直少し汗ばんできている。もうこの季節かなんて、そんなじゃないけどもまあ遠い日を思い出す。
祖父が腰をやってしまい、湯治に行くからカフェをやってほしいなんて言われて、人間は職せなアカンのでやることにして、そのあとは意外と順調で、コーヒーとか全然こだわっていない、存在しているだけのカフェで、人生相談と称して思っていることをただただ言っていたら人気にもなって、良い気になっていたら、ショタヌキが現れて、全然ダメっぽいショタヌキで、いや今も結局レジの前で座っているだけのショタヌキではあるんだけども、でも最近は感染対策とかしないといけないから、レジの度にアルコール消毒するのマジで面倒だったし、レジはレジ係として設置するのは本当に私得というか、あとまあ今はこうやってショタヌキが普通に喋ることもできているし、怜那と吉四六の最初はマジガッテムだったけども、まあこうやって今は手伝ってくれているし、別にいいし、なんやかんやキンタマありましたけども、今は平和で嬉しいなぁ……んっ?
「ヤマユリ、引っこ抜いちゃダメぇぇええええええええ!」
ショタヌキと怜那の声がユニゾンしている。
おやおや、おいたボーイ(orガール)がいるのかな? 声のほうへ近付くと、ガールだった。
「百合根って美味しいんでしょ!」
と言っているそのガール。
ショタヌキは自分が余計なことを言ったと思っているのだろう、大慌てで挙動不審になってキョロキョロしている。
怜那はガールの手について花粉を払いながら、
「服で拭っちゃダメだからね!」
と言えば即座にガールが自分の服で手を拭き、
「別にこれでいいでしょ」
怜那は叱るような声で、
「ダメだって! お母さんが大変でしょ!」
「どうせ洗濯機がするから」
「洗濯機じゃ落ちないこともあるの!」
私は大きな声で、
「この子の保護者のかたはー!」
と叫ぶと、なんと誰も手を挙げず。
いや子供一人でハイキングに送り出したということ? ま?
これは私がマンツーマンでやるしかないな、と思い、そのガールの近くに行って、
「じゃああともう少しだから一心不乱に歩きまくろうか、オールナイトテクテクしようかっ」
「意味分かんない、暇ぁ」
と首をへにゃりと回して、大きく口を開けた。
コロコロコミックならこの口に爆弾入れているなぁ、と思いつつ、
「じゃあおやつにする?」
「それなら食べてあげていいかもっ」
私はポケットからハーブクッキーを取り出した。
「こっちはローズマリーのクッキーで、こっちはヨモギのクッキーで」
と説明していると、そのガールは、
「何かこっち、葉っぱみたいなの入っていてキモッ、こっちにする」
と言ってヨモギのクッキーを手に取った。
両方葉は入っているし、葉がキモイならハイキングなんて来るなよ、とは思った。
確かにローズマリーのほうは乾燥の他にも、映えると思って生の若葉も少し入れたけども。
対するヨモギのほうは完全に混ぜ切っているので、全体が緑色なだけで、葉が入っている感は確かにしない。葉は入っているけども。
ガールはそのヨモギのクッキーを食べて、
「何か変な香りぃ、でも悪くないかもぉ」
とだらっと喋って、こういう子供にありがちな、急なだる喋りみたいなの苦手だなぁ、と思った。
「じゃっ、目標地点まであと少しだから行こうか」
と私が言ったところで、ショタヌキが物欲しそうな目でこっちを見ていることに気付いた。
「せっかくだし、祥太くんはこっちのローズマリーのクッキー食べる?」
「いいんですか!」
矢継ぎ早にそのガールが、
「えぇー、先生がおやつ食べるんだぁ」
するとショタヌキは、
「はい、大丈夫です」
と俯いて、また歩き出した。
いや別に先生でもおやつ食べるだろ、というかガールとショタヌキ、年齢同じくらいだろ。
もっと言えば、ガチ年齢の、高齢の先生でも普通におやつ食べるからな、高級なドライフルーツかじって屁こいてるからな。
ついに目的の場所に着いて……と言っても、ちょっとひらけているだけなんだけども、まあ見晴らしはいいし、ベンチもいっぱいある。
私と吉四六はテキパキとレジャーシートを広げて、
「ではランチタイムですよー!」
と自分で叫んだ時、脳裏にはエド・はるみの「ダンスタイムー!」の動きが浮かんでいた。
まずは私がカフェでしたためていたおにぎらずを皆様に配る。
豚肉を梅干しで炒めて、大葉を挟んだ、元気の出る栄養素たっぷりだ。梅干しのおかげで腐りづらいし。まだこの季節にその心配はギリギリ不要だろうけども。
たくさん用意した水筒の中には、温かいカレースープと冷たいハーブティーが入っている。勿論普通の麦茶もある。
皆様に御要望を聞きつつ、飲み物を渡していく。
届き次第、食べ始めるお客さんたち。全員一斉にいただきますとかは幻想というところがポイントだ。
「カレースープ、具もとろとろで食べやすーい」
そう、カレースープには事前に素揚げしてとろとろにしているナスやピーラーで薄くした人参くらいしか入っていないので、最悪そのまま飲める。
ハーブティーは勿論幼児に継続的に与えちゃいけないバジルなどは入っていない。継続的じゃないからまあ大丈夫だろうけども、念には念を入れておく。
あと麦茶最強説。結局麦茶の人気ヤバイ。日本人は麦茶に支配されている。
ランチタイム(お出かけお洒落にハンチングー! グーググーググーグーググーググー! コー!)も終わったところで、下山となった。
テレビの放送とかだと下山は丸々カットだけども、現実はしっかり歩く。
とは言え、足取りは軽やかだったりするわけだけども、実は下山のほうが危ないので、先導するショタヌキにはゆっくり歩いてもらっている。
まあ単純にショタヌキは早く歩くことができないし、調子乗って走るタイプではないからいいけども、問題は怜那のほうだ。
怜那は古典的な調子乗りなので、馬に乗っているかのように「ハイヨ! ハイヨ!」と言う危険性はある、と思っていると案の定、
「はいはい! 歩いて歩いて!」
と怜那が声をあげ始めた。
豚肉が美味し過ぎてハイになってるな、ブヒブヒ言いやがって、と思っていると、なんとあのガールが立ちもせず、地面に尻もちついて動かないのだ。
列はその怜那の声を気にしつつも、徐々に下山していき、ひらけた場所には怜那と私とガールと、そして最後尾で立ち止まってこっちを見ている吉四六がその場にいた。
私は即座に大声を出して、
「一旦ストップ!」
と声を掛けて、列は止まって、ゆっくりひらけた場所に戻って来るような感じになった。
私はガールへ、
「どうしたの? 足くじいたの? ケガしたの?」
「あぁ、そんな感じー」
とへらっと笑ったガール。絶対嘘だと分かった。
すると吉四六が、
「俺が背負っていこうか」
と言ってるそばから背負っていた荷物を私に渡しながらそう言うと、ガールが首をプイッと向けながら、
「デブは嫌だ!」
と言ったのでは私は即座に、
「いやこれはぽっちゃりマッチョという一番強いプロレスラーの体型!」
と言ったんだけども、吉四六は首を横に振って、
「いやいいんだ、そんな体型の話は。じゃあえっと、どうする? 卯愛さん背負える?」
「無理ごんすなぁ」
と、ついオードリーの春日のことを考えながら、そう答えてしまうと、ガールは駄々をこねるように手足をバタバタさせながら、
「簡単におりたぁい!」
困惑している私たちの元に、最前列にいたショタヌキが戻ってきて、
「どうしたんですか?」
するとガールがショタヌキを指差しながら、
「コイツにおぶってもらう!」
私は呆れながら、
「そんなん無理でしょ」
と言ったところで、ショタヌキが、
「戦闘変化すれば、いけるかなぁ……」
と言った時に、おっ、お尻とかオナラとか言い出さない、成長している、と思った。
ショタヌキの母親の件で、ちょっと好転したのか? と思っていると、割って入るように怜那が、
「でも実際祥太は戦闘変化の状態でしっかり動いたことある? 急に電池切れとかになったら危ないんじゃないの?」
そんな水を差すようなとは思ったけども、その通りではある。
ショタヌキはしゅんとこうべを垂らしてしまった。
さて、解決策は……無いわけではないか、この下山という形式を考えれば不可能じゃない。
私はショタヌキと怜那に小声で相談し、できるという了承を得たので、私と吉四六は先に、他のお客さんたちと一緒に下山することにした。
ガールは余裕そうに、
「ばいばぁーい」
と手を振って、私たちを見送っていた。
私と吉四六は無事下山し、吉四六が風の術で私の声を上まで届けてくれた、着いたってことを。
何か遠くで怜那が手を振って合図を送ってくれているような気がする。ショタヌキは小さ過ぎて分かんない。
お客さんたちは全員カフェの中に入ってもらって、とりまコーヒーでも出すか。
あとは任せるしかないし、と思っていると吉四六が、
「俺! ダッシュで見に行っていいっ?」
と言ったので、そこはもう普通に任すことにした。
コーヒーを全員に配ったところで(子供には甘めのカフェラテにした)私も裏口から山のほうを見に行くと、遠くから声が聞こえてきた。
「うわぁぁあああああああああああああああああああああ!」
ガールの声だ。恐怖なのか喜んでいるのか、それともその両方か、そんな声だった。
裏山には七月末旬なのに雪が局地的に降り、その雪をソリで少しずつ滑走している。
そのソリには勿論ガールが乗っている。滑り過ぎないように、雪で”もっこり”を作り、ちょっとずつ降りているようだった。
そう、怜那が雪を降らして、ショタヌキがソリに変化して。これならちゃんとショタヌキが背負っている状態でしょ?
無事、ガールが麓に着いた時は、少しへろへろになって疲れていた。いい気味だ。全然相手がガールでも私はいい気味と思うほうです。
「足ケガしたけども着いたね」
と私がガールに話し掛けると、黙ってその場にぐったりした。
さすがにこの距離なら、この丘くらいの角度なら、と思って私は背負って、カフェの中に押し込んだ。
まあつつがなく終了したし、いいってことにしておこう。
・【13 夏のハイキング】
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今日はハイキング・イベント。
七月中旬の山を楽しむ。
おにぎりやスープを用意して、荷物は私と吉四六で運ぶ。
ショタヌキが先導して、しんがりは怜那が担当する。
ショタヌキは結構草木のことを知っているので、花の名前を紹介しながら歩けるし、歩行ペースも遅めでまったりハイキングできる。
怜那は小さな子供の扱いなどが上手いので、ちゃんとついてこさせるには適任だ。
勿論私と吉四六は列を上下しながら、それぞれみんなの行動に目を光らせるわけだけども。
丘のラインでは、ヒメヒオウギズイセンが濃い橙色の花を咲かせている。
「葉っぱは先が尖っているので触らないようにね!」
とショタヌキが声を張り上げて、忠告している。
徐々に山へ向かっていくと、ヤマユリが全盛だ。六方向に伸びた白い花びらの真ん中に黄色いラインが入っていて、おしべは夕暮れ色で美しい。
「花粉が服に付いたら取れづらいので触れないように!」
とか、
「根っこは百合根と言って食べられるんですよー!」
とか言って、ショタヌキがいっぱい喋っている。
昔は人見知りしていたのに、今はこうやって人前で喋られるようになっている。
「ちょっとぉ、触っちゃダメって言ってたでしょ! ちゃんと人の話を聞かないとダメだよ!」
と怜那がヤマユリに触れそうになった子供を諫めている。
ちょっと前までは自分がイタズラのようなことをして、諫められる側だったのに大きな変化だ。
吉四六は言われた通りに周りの行動に目を光らせ、一番重い荷物を持っているにも関わらず、足取りは軽やかだ。
吉四六は何か、ずっと縁の下の力持ちだな。
怜那とイタズラしていた時もそうだし、こんなガキ大将のような見た目なのに、中身はどうやら子分肌のようだ。
私が吉四六へ、
「荷物の重さ、大丈夫?」
と聞くと、吉四六は余裕そうな笑顔で、
「全然余裕だよ! 卯愛さんの分も全部持てるくらいだぜ!」
とサムズアップして、それなら良かったと思った。
でもまあ半分くらいは自分で持たないと児童虐待の気(け)があると認定されるかもしれないので、私は私で持つけども。
ヤバイお姉さん出現、みたいには思われたくない、スマブラのCPU乱入の時のアラートみたいなモノが急に鳴ったら嫌だから。
森の草木と爽やかな風、新緑の香りは徐々に花の香りが混ざっていく。
もう少し経つと、熱波の匂いが私たちの水分を奪うような、八月が近くなってくる。
そうなったら逆にハイキングもできないので、今日がまあハイキング納めの日だ。あとは各々が好きにやってくれ。
後ろを振り返ると、カフェが若干小さく見える。
空は快晴で正直少し汗ばんできている。もうこの季節かなんて、そんなじゃないけどもまあ遠い日を思い出す。
祖父が腰をやってしまい、湯治に行くからカフェをやってほしいなんて言われて、人間は職せなアカンのでやることにして、そのあとは意外と順調で、コーヒーとか全然こだわっていない、存在しているだけのカフェで、人生相談と称して思っていることをただただ言っていたら人気にもなって、良い気になっていたら、ショタヌキが現れて、全然ダメっぽいショタヌキで、いや今も結局レジの前で座っているだけのショタヌキではあるんだけども、でも最近は感染対策とかしないといけないから、レジの度にアルコール消毒するのマジで面倒だったし、レジはレジ係として設置するのは本当に私得というか、あとまあ今はこうやってショタヌキが普通に喋ることもできているし、怜那と吉四六の最初はマジガッテムだったけども、まあこうやって今は手伝ってくれているし、別にいいし、なんやかんやキンタマありましたけども、今は平和で嬉しいなぁ……んっ?
「ヤマユリ、引っこ抜いちゃダメぇぇええええええええ!」
ショタヌキと怜那の声がユニゾンしている。
おやおや、おいたボーイ(orガール)がいるのかな? 声のほうへ近付くと、ガールだった。
「百合根って美味しいんでしょ!」
と言っているそのガール。
ショタヌキは自分が余計なことを言ったと思っているのだろう、大慌てで挙動不審になってキョロキョロしている。
怜那はガールの手について花粉を払いながら、
「服で拭っちゃダメだからね!」
と言えば即座にガールが自分の服で手を拭き、
「別にこれでいいでしょ」
怜那は叱るような声で、
「ダメだって! お母さんが大変でしょ!」
「どうせ洗濯機がするから」
「洗濯機じゃ落ちないこともあるの!」
私は大きな声で、
「この子の保護者のかたはー!」
と叫ぶと、なんと誰も手を挙げず。
いや子供一人でハイキングに送り出したということ? ま?
これは私がマンツーマンでやるしかないな、と思い、そのガールの近くに行って、
「じゃああともう少しだから一心不乱に歩きまくろうか、オールナイトテクテクしようかっ」
「意味分かんない、暇ぁ」
と首をへにゃりと回して、大きく口を開けた。
コロコロコミックならこの口に爆弾入れているなぁ、と思いつつ、
「じゃあおやつにする?」
「それなら食べてあげていいかもっ」
私はポケットからハーブクッキーを取り出した。
「こっちはローズマリーのクッキーで、こっちはヨモギのクッキーで」
と説明していると、そのガールは、
「何かこっち、葉っぱみたいなの入っていてキモッ、こっちにする」
と言ってヨモギのクッキーを手に取った。
両方葉は入っているし、葉がキモイならハイキングなんて来るなよ、とは思った。
確かにローズマリーのほうは乾燥の他にも、映えると思って生の若葉も少し入れたけども。
対するヨモギのほうは完全に混ぜ切っているので、全体が緑色なだけで、葉が入っている感は確かにしない。葉は入っているけども。
ガールはそのヨモギのクッキーを食べて、
「何か変な香りぃ、でも悪くないかもぉ」
とだらっと喋って、こういう子供にありがちな、急なだる喋りみたいなの苦手だなぁ、と思った。
「じゃっ、目標地点まであと少しだから行こうか」
と私が言ったところで、ショタヌキが物欲しそうな目でこっちを見ていることに気付いた。
「せっかくだし、祥太くんはこっちのローズマリーのクッキー食べる?」
「いいんですか!」
矢継ぎ早にそのガールが、
「えぇー、先生がおやつ食べるんだぁ」
するとショタヌキは、
「はい、大丈夫です」
と俯いて、また歩き出した。
いや別に先生でもおやつ食べるだろ、というかガールとショタヌキ、年齢同じくらいだろ。
もっと言えば、ガチ年齢の、高齢の先生でも普通におやつ食べるからな、高級なドライフルーツかじって屁こいてるからな。
ついに目的の場所に着いて……と言っても、ちょっとひらけているだけなんだけども、まあ見晴らしはいいし、ベンチもいっぱいある。
私と吉四六はテキパキとレジャーシートを広げて、
「ではランチタイムですよー!」
と自分で叫んだ時、脳裏にはエド・はるみの「ダンスタイムー!」の動きが浮かんでいた。
まずは私がカフェでしたためていたおにぎらずを皆様に配る。
豚肉を梅干しで炒めて、大葉を挟んだ、元気の出る栄養素たっぷりだ。梅干しのおかげで腐りづらいし。まだこの季節にその心配はギリギリ不要だろうけども。
たくさん用意した水筒の中には、温かいカレースープと冷たいハーブティーが入っている。勿論普通の麦茶もある。
皆様に御要望を聞きつつ、飲み物を渡していく。
届き次第、食べ始めるお客さんたち。全員一斉にいただきますとかは幻想というところがポイントだ。
「カレースープ、具もとろとろで食べやすーい」
そう、カレースープには事前に素揚げしてとろとろにしているナスやピーラーで薄くした人参くらいしか入っていないので、最悪そのまま飲める。
ハーブティーは勿論幼児に継続的に与えちゃいけないバジルなどは入っていない。継続的じゃないからまあ大丈夫だろうけども、念には念を入れておく。
あと麦茶最強説。結局麦茶の人気ヤバイ。日本人は麦茶に支配されている。
ランチタイム(お出かけお洒落にハンチングー! グーググーググーグーググーググー! コー!)も終わったところで、下山となった。
テレビの放送とかだと下山は丸々カットだけども、現実はしっかり歩く。
とは言え、足取りは軽やかだったりするわけだけども、実は下山のほうが危ないので、先導するショタヌキにはゆっくり歩いてもらっている。
まあ単純にショタヌキは早く歩くことができないし、調子乗って走るタイプではないからいいけども、問題は怜那のほうだ。
怜那は古典的な調子乗りなので、馬に乗っているかのように「ハイヨ! ハイヨ!」と言う危険性はある、と思っていると案の定、
「はいはい! 歩いて歩いて!」
と怜那が声をあげ始めた。
豚肉が美味し過ぎてハイになってるな、ブヒブヒ言いやがって、と思っていると、なんとあのガールが立ちもせず、地面に尻もちついて動かないのだ。
列はその怜那の声を気にしつつも、徐々に下山していき、ひらけた場所には怜那と私とガールと、そして最後尾で立ち止まってこっちを見ている吉四六がその場にいた。
私は即座に大声を出して、
「一旦ストップ!」
と声を掛けて、列は止まって、ゆっくりひらけた場所に戻って来るような感じになった。
私はガールへ、
「どうしたの? 足くじいたの? ケガしたの?」
「あぁ、そんな感じー」
とへらっと笑ったガール。絶対嘘だと分かった。
すると吉四六が、
「俺が背負っていこうか」
と言ってるそばから背負っていた荷物を私に渡しながらそう言うと、ガールが首をプイッと向けながら、
「デブは嫌だ!」
と言ったのでは私は即座に、
「いやこれはぽっちゃりマッチョという一番強いプロレスラーの体型!」
と言ったんだけども、吉四六は首を横に振って、
「いやいいんだ、そんな体型の話は。じゃあえっと、どうする? 卯愛さん背負える?」
「無理ごんすなぁ」
と、ついオードリーの春日のことを考えながら、そう答えてしまうと、ガールは駄々をこねるように手足をバタバタさせながら、
「簡単におりたぁい!」
困惑している私たちの元に、最前列にいたショタヌキが戻ってきて、
「どうしたんですか?」
するとガールがショタヌキを指差しながら、
「コイツにおぶってもらう!」
私は呆れながら、
「そんなん無理でしょ」
と言ったところで、ショタヌキが、
「戦闘変化すれば、いけるかなぁ……」
と言った時に、おっ、お尻とかオナラとか言い出さない、成長している、と思った。
ショタヌキの母親の件で、ちょっと好転したのか? と思っていると、割って入るように怜那が、
「でも実際祥太は戦闘変化の状態でしっかり動いたことある? 急に電池切れとかになったら危ないんじゃないの?」
そんな水を差すようなとは思ったけども、その通りではある。
ショタヌキはしゅんとこうべを垂らしてしまった。
さて、解決策は……無いわけではないか、この下山という形式を考えれば不可能じゃない。
私はショタヌキと怜那に小声で相談し、できるという了承を得たので、私と吉四六は先に、他のお客さんたちと一緒に下山することにした。
ガールは余裕そうに、
「ばいばぁーい」
と手を振って、私たちを見送っていた。
私と吉四六は無事下山し、吉四六が風の術で私の声を上まで届けてくれた、着いたってことを。
何か遠くで怜那が手を振って合図を送ってくれているような気がする。ショタヌキは小さ過ぎて分かんない。
お客さんたちは全員カフェの中に入ってもらって、とりまコーヒーでも出すか。
あとは任せるしかないし、と思っていると吉四六が、
「俺! ダッシュで見に行っていいっ?」
と言ったので、そこはもう普通に任すことにした。
コーヒーを全員に配ったところで(子供には甘めのカフェラテにした)私も裏口から山のほうを見に行くと、遠くから声が聞こえてきた。
「うわぁぁあああああああああああああああああああああ!」
ガールの声だ。恐怖なのか喜んでいるのか、それともその両方か、そんな声だった。
裏山には七月末旬なのに雪が局地的に降り、その雪をソリで少しずつ滑走している。
そのソリには勿論ガールが乗っている。滑り過ぎないように、雪で”もっこり”を作り、ちょっとずつ降りているようだった。
そう、怜那が雪を降らして、ショタヌキがソリに変化して。これならちゃんとショタヌキが背負っている状態でしょ?
無事、ガールが麓に着いた時は、少しへろへろになって疲れていた。いい気味だ。全然相手がガールでも私はいい気味と思うほうです。
「足ケガしたけども着いたね」
と私がガールに話し掛けると、黙ってその場にぐったりした。
さすがにこの距離なら、この丘くらいの角度なら、と思って私は背負って、カフェの中に押し込んだ。
まあつつがなく終了したし、いいってことにしておこう。
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