社会科漫才師

青西瓜

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漫才の練習

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 今日は人前で漫才をする練習の日だ。
 クラスメイトの前で漫才をする前に、まずは先生方や麻衣ちゃんの友達の前で漫才することにした。
 先生方や麻衣ちゃんの友達の前なら野次を飛ばされることもないし、ダメでも怒らないでくれる……いやまあ内心、時間の無駄で怒っているかもしれないけども、表には出さないでくれるから。
「よしっ、じゃあそろそろかなっ?」
 担任の咲山先生が僕たちに話し掛けてきた。
 今日の場所は体育館。
 舞台上で漫才をし、舞台袖にはマイクを持った咲山先生、そして僕と豪太くん。
 目の前には、僕たちの漫才に付き合ってくれた先生6人と麻衣ちゃん、そして麻衣ちゃんが連れてきてくれた麻衣ちゃんの友達5人で合計12人だ。
 クラスメイトは全員合わせて30人いるから、その本番から比べるとだいぶ人数は少ないが、僕は十分緊張していた。
「大丈夫だ、練習した通りやれば絶対できるから」
 豪太くんが僕を励ましてくれる。そうだ、練習をしたんだ。
 あれからネタ作りと並行して、時には昼休みも一緒に漫才の練習をした。
 校庭の隅で練習していたので、たまに低学年の生徒たちに何だろうといった感じに見られたりしていた。
 でもその低学年の生徒たちの前でもネタの練習はできたし、その生徒たちにも少しウケて自信になっていた。
「じゃあそろそろ良さそうだね! それではっ!」
 と言いながら咲山先生が先に舞台上へ出て行き、僕たちの呼び込みを始めた。
「5年B組から生まれた漫才コンビ! ゴウタクです! それではどうぞ!」
「「はいどうも! よろしくお願いします!」」
 僕たちはランドセルを背負って舞台上に出てきた。
「俺はさ、社会科漫才師になりたいんだよね」
「いや社会派漫才師なら知っていますけども、社会科漫才師ってなんですか」
 まずここは大丈夫。前回もここまでは上手くいった。
「社会科の勉強を教える漫才師になりたいんだ、今日のテーマはなわふみ時代」
「多分縄文時代ですねっ、というか縄文の『もん』を『ふみ』て。絶対『ぶん』のほうが言い間違えやすいでしょ」
 ……出た! ちゃんと言葉が出せた! 豪太くんの言葉が続く。
「というわけで教科書を読みながら漫才をしましょうか!」
 と言いながらスムーズにランドセルからリコーダーを取り出した豪太くん。
 そこに僕がツッコむ。
「いやリコーダーいらないですよ、それとも笛吹かないと一旦区切れない体質なんですか」
「そんなサッカーの試合始まりと試合終わりの合図みたいな体質は無いよ、間違えただけ」
 すかさずツッコむ。
「間違えることないでしょ!」
「いやでも持ちやすかったから」
「そりゃ棒だからね! 棒は持ちやすいモノだよ!」
「こっちだな、こっち」
 そう言ってランドセルから教科書を取り出した豪太くん。
 ここから本格的に漫才が始まる。いわゆるここまでの部分が掴みというヤツだ。
 今のところ、うまくいっている。
 そして、そして、徐々に、無駄なことを考える余地が無くなり、淀みなく豪太くんと僕が交互にしゃべっていった。
「縄文時代はガリが主流だった」
「狩りですね! 寿司屋のショウガが主流ってどういう意味ですかっ!」
「クサミをとることが最良だったみたいな」
「まだクサミをとるという概念無いですよ!」
「でもイノシシとかそのまま食べると、クサいと言うじゃん」
「でもまだクサミをとるみたいな文化は無かったんですよ」
「俺はショウガ派かな、あと長ネギ」
「現代人だからですよ! ずっと現代人の話になっています! 縄文時代の話をして下さい!」
「あとはドングリのような木の実を集めていたみたいだな、木の実を召喚してバトル!」
「そういう育てたモンスターを闘わせるみたいなことじゃなくて! 食べるためです!」
「でもまあどのドングリも結局強さは同じだったみたいで、それがドングリの背比べということわざになったと」
「なってないですよ! 縄文時代由来のことわざは無いですよ! ドングリは粉にしてあく抜きして食べていたらしいですよっ」
「悪属性は抜きで闘うルールでやろうぜ」
「いやだからバトルみたいに言われても! 闘わせていませんから!」
「悪属性は渋いからな、子供は扱えない」
「そうかもしれませんけども、アクの渋いは大人向けという意味じゃないですから! あと縄文時代は栗を育てていたらしいですよ」
「あぁ、イガの投げ合いバトルな」
「だからそんなにバトルばかりしていませんでしたから! むしろバトルというか戦争は弥生時代からです!」
「何で弥生時代から戦争が始まったんだ? 体を温めたいからか?」
「そんなストレッチ感覚じゃないです! 今日の徒競走は本気出すぞぉ、じゃないですから!」
「じゃあ何でだろう、多分間違っているけどもこうか?」
「いやまあ言うだけ言ってみて下さいよ」
「水田が盛んになって自分の土地という概念が生まれたから、その土地の取り合いによって戦争になったからか?」
「いや合ってる! 急に完璧に合っている!」
「テレビで見た、パスタ作っていたけども」
「じゃあ料理番組! 歴史の番組見ていたんじゃないんですかっ!」
「いやもう頑なにパスタを作っていて、もうパスタはいいよ、と見ていて思ったな」
「そういう時は番組を変えるんですよ! パスタの回ならずっとパスタですよ! というかどこからどうその正解が生まれたんですか!」
「結局、神様のお告げ」
「そんな言葉の流れ無いですよ! 神様のお告げに”結局”という言葉足しませんよ!」
「何だかんだあったけども、いろいろあった結果、結局、神様のお告げ」
「それも頑なですね! パスタの番組くらい頑なですね! じゃあもういいです! それはそうと弥生時代はそうやって戦争が多くなってきたんですよね!」
「喰らえ! ドングリの粉を頭から掛けて白髪みたいになれ!」
「そんな可愛い戦争じゃないです! リスの喧嘩じゃないです! 弥生時代からは金属の加工も始まって!」
「何で加工が始まったんだっけ? ついに気付いたからかな」
「確かに不便に気付く瞬間はあったかもしれませんが、気付いて加工が始まったわけではないです!」
「えっと、どういう流れだっけな、確か朝鮮半島にはケツがたくさん埋まっていたんだよな、それで……」
「いやまずケツじゃなくて鉄です! ケツが埋まっているって何ですか! 勢いよく尻もちついた軍団がいたんですか!」
「そうそう、鉄な、鉄が埋まってて、それで朝鮮半島では鉄の加工が元々盛んで毎晩フィーバー!」
「そうかもしれませんが、毎晩フィーバーの記録残ってないですから! 毎晩フィーバーの記録は大体残しませんから!」
「朝鮮半島は戦争していて、そこから避難してきた朝鮮人によって、その技術が伝えられたんだよな、スマホで」
「まだその時代はスマホ無いです!」
「あぁ、パスタ巻いているなぁ、なんて言い合ったりして」
「いやスマホでパスタの番組見てる! 好きですね! みんなパスタの番組!」
「でもまあ俺は新潟県で生まれ育ったからお米のほうが好きだけどな」
「新潟県はお米の生産量日本一ですからね」
「米粉という新しい使い道も発明して、本当米粉って雪みたいだけども、雪?」
「米の粉と書いて米粉ですから! 降雪量と米平野の二段構えで米粉ナンバーワンの新潟県じゃないですよ!」
「でもまぁ米粉はアツアツだよな」
「どういうことですか! 炊いたり、調理したりしたならまだしも、米粉の段階では全然アツアツじゃないですよ」
「いやもう米粉でのバトルが熱いから。喰らえ! 米粉を頭から掛けて白髪みたいになれ!」
「米粉でのバトルは料理バトルであってほしいです!」
「リスの喧嘩みたいになっちゃった」
「全然なってないです! アホな新潟県人同士の喧嘩です!」
「スの喧嘩みたいになっちゃった」
「リスを略さなくていいですから! 業界でリスと言いすぎて略しちゃったノリいらないですから!」
「ズの喧嘩みたいになっちゃった」
「言いやすさを考慮して、なまっていった方言みたいになっちゃいましたねっ!」
「米酢で喧嘩」
「あっ! 全く別物になった! うちの米酢のほうがおいしいでしょ、みたいな喧嘩になりましたね!」
「米酢はお米で作る派・バーサス・米酢は水を勢いよく振れば作れる派の喧嘩」
「じゃあ前者! 前者の圧勝ですよ! 米酢はお米でしか作れませんから!」
「いやぁ、お米って何でも作れるなぁ、米酢に塩麹、水飴も作れるし、米粉でパンとかも」
「急にまとめにかかりましたね、まあ確かにお米の可能性は無限大ですね」
「あと米粉でパスタね」
「結局、パスタ大好きですねっ」
「結局、神様のお告げでパスタ」
「神様多分お告げでパスタのこと言及しませんよ!」
「神棚にパスタを巻きつける」
「せめて普通にお供えて下さい! 荒れ果ててツタが巻かれているみたいになってしまいます!」
「そして願い事を言う。弥生時代に戦争が無くなりますように」
「いやもう弥生時代、今から2500年前くらい! 終わっていますから! もういいです!」
 いつの間にか僕は、思考する間も入らず、漫才に没頭していた。それが一番の成功した証だった。先生方も麻衣ちゃんと麻衣ちゃんの友達も、みんな笑って楽しんでくれた。
 初めて人前で漫才が成功した瞬間だった。
「やったぁぁぁあああ!」
 屈託なく叫び、笑顔を見せた豪太くん。
 僕も嬉しくなって、その場に飛び跳ねてしまった。
 そんな漫才師なんていないだろうけども。
「できるぞ! できるぞ! 琢磨! この調子で頑張ろうぜ!」
 豪太くんが僕を見ながらそう言った。
「うん、僕、頑張るよっ!」
 そして僕たちの練習は終わった。その三日後、僕たちの本番が始まる。
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