10 / 13
王子様の告白
しおりを挟む
ガッシャーンッ!!!
「シンデレラ!黄色の花なんて飾るんじゃないわよ!不愉快だわ!割れた花瓶も片付けなさい!この愚図!」
花瓶の割れる音とヒステリックな女性の声が響きます。
黄色は、第三王子の誕生日パーティで言い争っていた令嬢のドレスの色。
あのパーティで、継母達三人は、『堆肥』や『ウ○コ』など、散々な渾名を付けられました。
薬師のお婆さんに文句を言いにいくも、代金を払わず半ば強奪するように奪った物のため、むしろ犯罪者呼ばわりをされてしまい、憲兵に捕まりそうになったところを逃げ帰ってきたのです。
王子との婚約も失敗に終わり、近衛騎士との出会いもなく、怒りをシンデレラや物へと当たり散らしていました。
「あぁもうっ!イライラする!デブラ、カーミラ、こんな時は買い物に行くわよ!来なさい!シンデレラ!戻るまでにちゃんと掃除しておきなさい!」
室内を散々荒らし、継母達は出かけて行きました。
(やれやれ、やっと静かになったか。それにしても、わざわざ物に当たらなくてもいいじゃないか。あ~あ、花瓶が……もったいない)
シンデレラは深いため息を一つ吐き、箒を手に掃除を始めました。
継母達に壊された物をあらかた片付け終わった時、玄関から来訪者を告げる音がします。
「は~い……あれ?お婆さん、こんにちは」
そこには、薬師のお婆さんが、笑顔だけど少し困ったような顔で立っていました。
「ごめんなさいね、突然押しかけて」
「いえいえ、でも、今日も継母達は留守なんですけど。あ、それよりも『お婆さん』と呼んでも大丈夫ですか?なんて呼べば……」
思わずいつもの調子で話しかけてしまい、シンデレラは若干青褪めます。そんなシンデレラを見て「オホホッ」と笑いながらお婆さんは優しい笑顔を向けてくれます。
「いまさら態度を変えなくてもいいわよ。むしろ、変えられると寂しいわ。あなたは可愛い私の孫だと思っているんだから」
先日の王城での誕生日パーティへ行く馬車の中で、シンデレラはお婆さんの正体を聞かされていました。
このお婆さん、前国王の妹であり、現国王の叔母です。
前国王の時代、現役バリバリの頃は司法のトップの役を担っていました。しかも『氷の女王』と呼び名がつくほどの伝説の人です。
現国王に代替わりした時に国王と一緒に引退し、貴族位を捨て出奔に近い形で市井に降り、昔からの夢だった『静かで穏やかな空気の薬屋』を開店したのでした。
「イライザ達に用はないわ。今日はね、あなたにお客様を連れてきたのよ」
「私に?」
お婆さんが横へずれると、さっきまでお婆さんが立っていた場所に金髪碧眼の少年が現れました。
「こんにちは、少しお時間頂けませんか?」
「は?はい」
見た目・衣服・立ち居振る舞い。明らかに高貴な身分の少年を玄関先に立たせたままにするわけにはいかないと、家の中に案内します。
掃除したばかりの部屋へ案内し、飲み物を出すべきか身なりを整えるべきか、シンデレラが狼狽えていると、目の前の少年がおむもろにシンデレラへと近寄り、そっと片手を救うように手に取ります。
「驚かせてしまったようで申し訳ない。私はこの国の第三王子ジョシュアだ」
「第三王子様……?」
そういえば、先日のパーティ会場で金髪の王子様をチラッと見た気がする。しかしあの時は遠いうえに、肉食少女の壁が立ち塞がり、顔の確認までは出来なかった。
「そなたに頼がある。私の婚約者になってくれないか?」
「……………は?」
婚約者?婚約者?今、シンデレラの耳にはっきりと『コンヤクシャ』と聞こえた。いや、聞き間違いかもしれない。『コンヤクサイ(今夜臭い)』と言ったのかもしれない。いやいや、それはないだろ。会話が成立しない。いっやぁ~……わっかんねぇ。マジ何言ってんの?この王子様。
シンデレラの脳内は考えることを放棄しました。
「殿下、質問の許可を」
「許す」
平民の身でありながら、発言の前に許可を取り、ジョシュアの突然のプロポーズにも慌てる事なく対応している。
(やはり俺の目に狂いはない)
みすぼらし衣服を着ていても、隠しきれない見た目の美しさと綺麗な所作、ジョシュアは嬉しさに口角が上がるのを止められなかった。
「私の聞き間違いでなければ、婚約者……とおっしゃいましたか?」
「そうだ。婚約者だ」
「高位貴族の女性でなく、私にですか?」
「そうだ。受けてくれるか?」
シンデレラは困った。この目の前の少年は、シンデレラの身元確認もせず、また、王族なのに平民へ求婚している。
信じられない。
平民のシンデレラは貴族や王族の発言を無碍にできない。しかし、シンデレラにも受けられない事情がある。
シンデレラは昔見た本の台詞を思い出していた。
『誰にでも、人生の中で危機的状況は必ずやってくる』
今はそんな事を考えている場合じゃない。わかってはいるが、本の台詞が頭の中で反響する。あれは確か冒険物の本だった。S級冒険者として名を馳せた冒険者が、年齢等を理由に引退する際に、主人公である若い冒険者に言った台詞。そして、
『悪手を打っても生き残れ。足掻く事を忘れるな』
最後にこの台詞を言って去っていくんだったな。
確かに、今考えている方法はシンデレラにとって最悪の一手かもしれない。不本意とはいえ、この格好に慣れてしまい、このような状況を想定して対策を練らなかった自分が悪いとも思っている。しかし、矜持が真実を伝える事を拒む。
だが、こうなっては助かる手はこの一つしかない。このまま真実を伝えないでいる方がマズイ事になる事はわかりきっている。
しばし悩み、考え込んでしまい、シンデレラが返事をしないため、従者や護衛騎士達が返事を促すような目を向けている。
伝えても真実はなかなか受け入れてもらえないだろうな。言葉だけでは足りない。あきらかな“事実”を突きつけなければ。
「申し訳ありません殿下。殿下のお気持ちに応えることができません」
「なっ!」
平民であるシンデレラが王族からの望みを断るとは思っていなかった。ジョシュアにそのつもりはないのかもしれないが、身分差のある世界。本来なら王族の言葉は命令に近い。無意識にジョシュアは受け入れてもらえると思っていた。
それを断った。断った理由をシンデレラはきちんと言わないといけない。
「私、男ですから」
「シンデレラ!黄色の花なんて飾るんじゃないわよ!不愉快だわ!割れた花瓶も片付けなさい!この愚図!」
花瓶の割れる音とヒステリックな女性の声が響きます。
黄色は、第三王子の誕生日パーティで言い争っていた令嬢のドレスの色。
あのパーティで、継母達三人は、『堆肥』や『ウ○コ』など、散々な渾名を付けられました。
薬師のお婆さんに文句を言いにいくも、代金を払わず半ば強奪するように奪った物のため、むしろ犯罪者呼ばわりをされてしまい、憲兵に捕まりそうになったところを逃げ帰ってきたのです。
王子との婚約も失敗に終わり、近衛騎士との出会いもなく、怒りをシンデレラや物へと当たり散らしていました。
「あぁもうっ!イライラする!デブラ、カーミラ、こんな時は買い物に行くわよ!来なさい!シンデレラ!戻るまでにちゃんと掃除しておきなさい!」
室内を散々荒らし、継母達は出かけて行きました。
(やれやれ、やっと静かになったか。それにしても、わざわざ物に当たらなくてもいいじゃないか。あ~あ、花瓶が……もったいない)
シンデレラは深いため息を一つ吐き、箒を手に掃除を始めました。
継母達に壊された物をあらかた片付け終わった時、玄関から来訪者を告げる音がします。
「は~い……あれ?お婆さん、こんにちは」
そこには、薬師のお婆さんが、笑顔だけど少し困ったような顔で立っていました。
「ごめんなさいね、突然押しかけて」
「いえいえ、でも、今日も継母達は留守なんですけど。あ、それよりも『お婆さん』と呼んでも大丈夫ですか?なんて呼べば……」
思わずいつもの調子で話しかけてしまい、シンデレラは若干青褪めます。そんなシンデレラを見て「オホホッ」と笑いながらお婆さんは優しい笑顔を向けてくれます。
「いまさら態度を変えなくてもいいわよ。むしろ、変えられると寂しいわ。あなたは可愛い私の孫だと思っているんだから」
先日の王城での誕生日パーティへ行く馬車の中で、シンデレラはお婆さんの正体を聞かされていました。
このお婆さん、前国王の妹であり、現国王の叔母です。
前国王の時代、現役バリバリの頃は司法のトップの役を担っていました。しかも『氷の女王』と呼び名がつくほどの伝説の人です。
現国王に代替わりした時に国王と一緒に引退し、貴族位を捨て出奔に近い形で市井に降り、昔からの夢だった『静かで穏やかな空気の薬屋』を開店したのでした。
「イライザ達に用はないわ。今日はね、あなたにお客様を連れてきたのよ」
「私に?」
お婆さんが横へずれると、さっきまでお婆さんが立っていた場所に金髪碧眼の少年が現れました。
「こんにちは、少しお時間頂けませんか?」
「は?はい」
見た目・衣服・立ち居振る舞い。明らかに高貴な身分の少年を玄関先に立たせたままにするわけにはいかないと、家の中に案内します。
掃除したばかりの部屋へ案内し、飲み物を出すべきか身なりを整えるべきか、シンデレラが狼狽えていると、目の前の少年がおむもろにシンデレラへと近寄り、そっと片手を救うように手に取ります。
「驚かせてしまったようで申し訳ない。私はこの国の第三王子ジョシュアだ」
「第三王子様……?」
そういえば、先日のパーティ会場で金髪の王子様をチラッと見た気がする。しかしあの時は遠いうえに、肉食少女の壁が立ち塞がり、顔の確認までは出来なかった。
「そなたに頼がある。私の婚約者になってくれないか?」
「……………は?」
婚約者?婚約者?今、シンデレラの耳にはっきりと『コンヤクシャ』と聞こえた。いや、聞き間違いかもしれない。『コンヤクサイ(今夜臭い)』と言ったのかもしれない。いやいや、それはないだろ。会話が成立しない。いっやぁ~……わっかんねぇ。マジ何言ってんの?この王子様。
シンデレラの脳内は考えることを放棄しました。
「殿下、質問の許可を」
「許す」
平民の身でありながら、発言の前に許可を取り、ジョシュアの突然のプロポーズにも慌てる事なく対応している。
(やはり俺の目に狂いはない)
みすぼらし衣服を着ていても、隠しきれない見た目の美しさと綺麗な所作、ジョシュアは嬉しさに口角が上がるのを止められなかった。
「私の聞き間違いでなければ、婚約者……とおっしゃいましたか?」
「そうだ。婚約者だ」
「高位貴族の女性でなく、私にですか?」
「そうだ。受けてくれるか?」
シンデレラは困った。この目の前の少年は、シンデレラの身元確認もせず、また、王族なのに平民へ求婚している。
信じられない。
平民のシンデレラは貴族や王族の発言を無碍にできない。しかし、シンデレラにも受けられない事情がある。
シンデレラは昔見た本の台詞を思い出していた。
『誰にでも、人生の中で危機的状況は必ずやってくる』
今はそんな事を考えている場合じゃない。わかってはいるが、本の台詞が頭の中で反響する。あれは確か冒険物の本だった。S級冒険者として名を馳せた冒険者が、年齢等を理由に引退する際に、主人公である若い冒険者に言った台詞。そして、
『悪手を打っても生き残れ。足掻く事を忘れるな』
最後にこの台詞を言って去っていくんだったな。
確かに、今考えている方法はシンデレラにとって最悪の一手かもしれない。不本意とはいえ、この格好に慣れてしまい、このような状況を想定して対策を練らなかった自分が悪いとも思っている。しかし、矜持が真実を伝える事を拒む。
だが、こうなっては助かる手はこの一つしかない。このまま真実を伝えないでいる方がマズイ事になる事はわかりきっている。
しばし悩み、考え込んでしまい、シンデレラが返事をしないため、従者や護衛騎士達が返事を促すような目を向けている。
伝えても真実はなかなか受け入れてもらえないだろうな。言葉だけでは足りない。あきらかな“事実”を突きつけなければ。
「申し訳ありません殿下。殿下のお気持ちに応えることができません」
「なっ!」
平民であるシンデレラが王族からの望みを断るとは思っていなかった。ジョシュアにそのつもりはないのかもしれないが、身分差のある世界。本来なら王族の言葉は命令に近い。無意識にジョシュアは受け入れてもらえると思っていた。
それを断った。断った理由をシンデレラはきちんと言わないといけない。
「私、男ですから」
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
元婚約者のあなたへ どうか幸せに
石里 唯
恋愛
公爵令嬢ローラは王太子ケネスの婚約者だったが、家が困窮したことから、婚約破棄をされることになる。破棄だけでなく、相愛と信じていたケネスの冷酷な態度に傷つき、最後の挨拶もできず別れる。失意を抱いたローラは、国を出て隣国の大学の奨学生となることを決意する。
隣国は3年前、疫病が広がり大打撃を受け、国全体が復興への熱意に満ち、ローラもその熱意に染まり勉学に勤しむ日々を送っていたところ、ある日、一人の「学生」がローラに声をかけてきて―――。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる