シンデレラは落とせない

流風

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シンデレラの告白

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「私、男ですから」

義姉のお下がりのボロのワンピースは、前のボタンで止めるタイプだ。そのワンピースの胸元のボタンを外し、シンデレラは真っ平らな、どこからどう見ても男の胸をさらした。

「「「はあぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

ジョシュアと護衛騎士達の悲鳴が室内に響き渡る。従者は叫ぶ事を忘たかのように静かに、しかし目玉がこぼれそうなほど目を見開く。

真っ赤な顔になったジョシュアは慌てて回れ右をした。

「し、しかし、そなたはまだ成長途中。まだ成長していないだけでは?!」

確かにシンデレラは13歳。まだこれから膨らんでくる可能性はある。

本当の最悪な最後の一手をここで出すしかない。
シンデレラは追い詰められた気持ちのまま、赤面している王子殿下や、未だ呆けている従者を無視し、苦笑気味に事態を見守っていた騎士団長らしき壮年の男性を指名して物陰へと連れて行った。

物陰でそっとシンデレラの男の象徴を見せる。それを確認した騎士団長は、何故かシンデレラの頭を撫で「すまなかったな」と一言残し、そっと殿下の元へ戻って行った。

「殿下、間違いなく彼は男ですよ。女にはないモノをちゃんと持っていました」

その一言を聞いた王子殿下は、顔を真っ赤にしたまま叫んだ。

「どういう事だ!そんな格好して、俺をだましたのか?!この……」

パンッ!!!!

憤慨し叫ぶ王子殿下の言葉を遮るように手を叩く音が室内に響く。静まり返った室内で音のした方を見ると、お婆さんが口角は上がっているが目が怒っている何とも器用な表情をして立っていた。

「この子に罪を押し付けないように。そもそも、王族という立場ある身でありながら、身辺調査もせずに婚姻の申し込むなど軽率すぎです」

「それは……!」

いまだ赤い顔のまま反論しようとしているジョシュアの言葉を遮り、お婆さんは続けます。

「それに、王族は立場ある身。外交や貴族と接するためには完璧な礼儀作法が必須。だからこその伯爵家以上の身分が婚姻の条件となっているはず」

「それは知っています。しかし、勉強すれば……」

「貴族の娘達が幼少の頃から学んでいる事を?なかなか厳しい事を要求するわね」

「……。」

「それと、王族の言葉は『命令』と同義。平民のこの子に婚姻を申し込むのなら、出奔して王族位を捨ててからプロポーズするくらいの気概は見せなさい。情けない」

「くっ……」

シンデレラは最初、このお馬鹿な王子に苛立っていました。平民が納めた税で生活している分、それなりの言動が求められるはず。それを無視して自分に婚姻を申し込むなど愚かとしか言いようがないと。
しかし、目の前で完全にお婆さんにやり込められているジョシュアを見ていると、若干の同情がわきます。

「この子に謝罪なさい」

お婆さんはジョシュアへシンデレラに謝罪するよう言います。

(おいおい、王族が平民に頭を下げるなんてないだろ。勘弁してくれ。下げるな、下げるなよ。王子殿下)

王族の謝罪など、受けた所でどう対応したらよいかシンデレラにはわかりません。しかも忠誠を誓った騎士の前。やめろ!やめてくれぇ!と青い顔をしながらシンデレラは願います。

「………申し訳ない」

謝ったぁぁ!シンデレラはガックリ項垂れながらもそっと騎士達の顔色を伺います。全員、苦笑い。セーフ?セーフなのか?背中に嫌な汗がつたうのを止められません。

「しかし、なぜそのような格好を?男の服装なら俺も勘違いしなかったはず。その……そういう…趣味か?」

「違います!」

自分は女装家ではない。誤解されないようシンデレラは現在の自分の状況を説明しました。

「俺の服も父の服も全て売却されてしまい、買う金もないため服がなかったのです。髪は散髪費用もなく、自分で切ると失敗するし……それでこの格好です」

「そんな……着る服がないなど……」

「ありえるでしょう?良い親ばかりではないですからね。俺の場合、継母達からはむしろ死ねと思われてるでしょうし。今、生かされてるのは、成人してから死なないと自分達の財産にはならないからです」

「そんな……そんな事…」

俯き、何やら思案しているかと思いきや、突然顔を上げ、

「すまなかった」

真剣さを滲ませた声でシンデレラに対し、不意に告げたのです。

(また王族が謝罪など……この人は真っ直ぐな人なんだなぁ)

俺とはとは、全然違う。

シンデレラはふとそう思うと、胸の中とか、腹の奥とか、体の内側に黒い何かが渦巻くような気がした。

この気持ちは、いったいなんなのだろう?

「本当に申し訳なかった。俺の軽率な行動で嫌な思いをさせた。すまない。でも3年前、そなたが父親と王城へ来た時、初めて見たあの時、本当に一目惚れしたんだ。小さい身体で堂々とした立ち居振る舞いをしていたそなたが本当に美しくカッコいいと思ったんだ。その気持ちが暴走しすぎた。お詫びに俺にできる事は何でもやろう。何か希望はあるか?」

相手の心を読むことはできないけれど、きっと、目の前の王子殿下の言葉や想いには、打算などないのだろう。真面目で、尊く、清廉で、他人のためだけを考えての言葉だ。

それに気付いた時、シンデレラは自分の気持ちがなんなのか、わかった気がした。

美しく真っ直ぐな人を前にして、自分の醜さが滑稽さが浮き彫りになった。美しい人に、醜い自分を晒すのが、恥ずかしくて。

(ああ、こんな気持ち、わかりたくなかった)

シンデレラの中に渦巻いていたのは、羞恥だ。

逆境に挫けるなと自分に言い聞かせながら、こんな恥ずかしい格好をしてまでも必死に生きている。それはシンデレラの素晴らしさではあるのだけれど、それでも生まれて初めて、シンデレラは自分という人間を、酷く恥じたのです。

「いえ、こんな紛らわしい格好している俺が悪いんです。気持ち悪いですよね。男のくせにこんな……」

「ヴィー、自分を卑下しないで。未成年のあなたにそんな思いをさせている大人がわるいのですから」

「お婆さん……」

シンデレラの本当の名はヴィルヘルムと言います。亡き母がつけてくれた名前らしいのですが、この家でその名を呼ぶ者はもういません。

「さて、甥の子が嫌な思いをさせてしまって申し訳なかったわね。私からも謝罪させて」

「いえ、それはもう大丈夫です」

これ以上の謝罪は受け止められません。

「お詫びはまた後日させてもらうとして、次は私の用事を済ませましょうか」

「用事?」

「ええ、ヴィーあなたを私の養子にしようかと思って」
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