8 / 51
第1章 召喚
怪しい影
冒険者としての活動で一番困った事、それは私の体力のなさだ。車や電車、バスに自転車と乗り物がたくさんあった日本と違い、この世界では移動は馬車か騎馬か徒歩しかない。
子供の頃からの生活習慣が違いすぎる。
まぁ私は精霊の協力があるから、魔物が近づけば教えてもらえるし、体力にさえ気をつけていれば問題なくぼっち冒険者としてやっていける。大金は稼げないけれど。
体力にしても精霊達のおかげで気づけば回復魔法をかけてくれてるので全く問題がない。
この精霊達によるチート具合がどうなのって感じだが、遠慮してる余裕はないので精霊の援助はありがたく受けている。
そうして毎日頑張って採取活動をしていて、今日は久しぶりに肉料理を食べようと心に決めていた。肉料理!そう、この世界に来てお金がないから食事は基本、森で採れた木の実や果物だ。やっと、やっと安定した収入が得られ始めたので、お店で食べようと決めている。
嬉しくなって思わず森の中にある湖の側で歌いながら採取していると、精霊がいつになく慌てふためいていることに気付いた。
精霊は基本、私の邪魔や不利になることはしない。
そんな彼らが私の袖を引いている。
なにがあったんだ?魔物?
精霊の視線の先を目を細めてみる。
一つの黒い影があって、それが凄い速さでどんどんこっちに近づいてくる。
精霊が私の周りを飛び回り、何事かを告げるが私は目の前の人物に気を取られてそれ所じゃなかった。
呼吸が乱れる。
手足が震える。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
忘れていた。
私を「殺せ」と言ってた人達がいた事を。
少しだけ…少しだけ幸せを感じたとたんに……。
この世は、なんて私に冷たいんだ。
影は近づき、私にその詳細を伝える。
彼は、召喚時に出ていくよう伝えてきた王子様っぽい人だった。
「子供……少年…いや少女か……。精霊の気配を追い、マグレイブまでやって来たが……。そうか、お前は……姿こそ違うけれど、あの召喚の場に居た者か?」
微かな戸惑いなのか、言葉を詰まらせながらも厳かに目の前の男性は口を開いた。
ーーー無表情
その無表情が怖い。人形のように綺麗な顔立ちのせいか、さらに恐怖心が湧く。
それでも召喚時の王族っぽい人達でしか見た事がない綺麗な紫色の髪が陽を浴び輝いて、空色の瞳はまるで宝石のように瞬いている姿に目が離せなくなってしまう。
そして、この人があのピンクドレスの少女を守りながら私を追い出した事を思い出す。
自分は捨てられた。
彼が守った少女はここにはいない。なのに何故ここに?
この世界に召喚され、着の身着のまま冒険者として活動している私はあの少女のような可憐さは一切ない。見窄らしい格好と、お金がないため、まともな食事を取っていなかったから肌もボロボロ。不健康に痩せた体は華奢とは言い難く、また目を見張るような美貌も何一つとして持ち合わせていない。
私は召喚時のエラーで紛れ込んだただのゾンビに過ぎないはずだ。
今は見た目が違う。顔はゾンビマスクで隠れていたからわからないはず。なら…
「何の話でしょう?人違いじゃないですか?」
どうしてこの男がここにいるのか判らないが、有効的な態度とは思えないし私はもう関係ない。
全て捨てた。
何も持たない私が…何もしなければただ死にゆくだけだった私が…家族も友達も女である自分も捨て生きて行くと心に決めたんだ。
私を召喚という名で拉致し遺棄した人達への恨みは忘れない。
その怒りを糧に生きて行くと。
恨みながらも、ここで冒険者として生きて……いつか、力をつけたら何故私がこんな目にあわなくてはいけなかったのか問いただしてやると。
知りたい。何故?何故?
最初こそ日本に帰る気でいたけれど、3ヶ月以上も経つといい加減帰れないと気づく。
両親には悪いと思うし友達も少ないがいた。皆んなに会えないのは寂しい。
でも、どうしようもない。
この人に帰り方を聞くという手もあるが、リスクが高すぎるし、頼りたくもない。
問いただしたい事はあるが、今ではない。今はまだ、私に力がない。今はただ、利用されるか抹消されるかなだけだ。
今はまだ…いつかまた……。
ニッコリと笑い、男の傍をすり抜け街に向かい歩く。
今日はさっさとギルドに報告してボロ宿に戻って寝よう。食事は……諦めだ。
足早に道を歩くが、後ろから続く足音に眉根を寄せる。
(ついて来てる)
ついてくるなんて生易しいものじゃない。隣に並び歩き、胸あたりまでしかない私の顔を覗くために上半身を屈めジロジロと見られる。露骨過ぎる。
「少女……だったのか。あの時はどうやってあの姿になっていたんだ?瞳はあの時と同じ焦茶色か。肌の色も透けるように白いが私達と同じ作りか」
「あっ!」
不意に帽子を取られ、中にしまっていた黒髪が風に揺れる。
「やはり、髪も綺麗な黒髪だ」
そして片手で顎を掴まれ男の方に強制的に向かされた。
完全な無視という形でいたのに手を出されたら無視なんてできない。
「やめて!!」
顔を掴んでいた手を払い帽子をもぎ取り足早に門に向かう。けど、後ろの気配はずっと付いてくる。
ーーー 怖い!
「お前は私を知らない風ではないな。あの時の格好はともかく、お前は『私が何の話をしているのか』理解しているんだろう?精霊に守られているということは、愛し子はお前のことだろう。愛し子ならば城で優遇する。だから逃げずに私と城まで来てくれないか?」
男から“いとしご”という言葉が出てきたところで私はダッシュを決めた。
「精霊さん、お願い!風を起こして土煙を。あの男を撒きたい!」
あなたにおすすめの小説
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。