マリーゴールド 〜一瞬が永遠の異世界生活。生き延びて見せる、この世界で!〜

流風

文字の大きさ
49 / 51
第4章 フォルトゥナ

沈みゆく絶望の果て〜レイヴン視点〜

しおりを挟む



「レイヴン、なんだ?その様は」

 11歳で初陣。俺には戦闘センスがないとわかっていた。だから勉学に励んでいたが…。初陣で何の戦果も得られなかった。

 目の前の玉座で俺を見下す父。俺の隣で片膝をつき王に首を垂れながらも心配そうに見てくるジークフリート。
 何よりも驚いたのは、父の隣に座る女の存在。

 正妃ですら隣に座らせない父がよほど気に入ったのか連れ立って歩いている女。そして、その膝の上に座るまだ幼い弟。

 あぁ…俺の代わりも既にいるんだ。

 皮肉にも死はこちらの努力に関係なく嬉々として這い寄って来るものだと知った。

「戦で役に立たない塵に用はない」

 何の興味もないという表情のまま、父は玉座から立ち上がり、剣を抜きながら俺の前へ。ははっ…こんなにも呆気なく死ぬものなんだな。

 俺は静かに死を受け入れた。

「死ね」

 無情にも振り下ろされた剣。思わず目を瞑るが体を引き裂くはずの痛みが来ない。
恐る恐る目を開けると、左肩から大きく切り裂かれ大量の血を流しているジークフリートが目の前に立っていた。

「陛下、恐れ多くも申し上げます」

 ポタポタと血を流しながらも片膝をつき礼を取るジークフリート。

「レイヴンは勉学に励み膨大な知識を得ています。その頭脳は戦さにおいては軍師として、また政においても膨大な利を得るでしょう。何とぞ元服をお待ちください」

 血を流しながら俺を庇うジークフリート。何だこれは?

「………くくっ」

 死に繋がるほどの出血をしている息子を前に、父は玩具を見つけた子供のように嬉しそうに笑い出した。

「クハハハハッ!!珍しい!面白いな、ジークフリート!お前、俺に意見できたのか?!」

 くくくっ、と散々笑った後で下卑た笑みを浮かべながら俺は生きる許可を得た。

「いいだろう、お前の度胸に免じてレイヴンの事は許してやろう。早く手当てにでも行け。でないと死ぬぞ」

 俺は…王の、父の手下だと思っていた兄に命を救われた。







「何を考えてるんだ!」

 包帯を巻かれベッドに横になるジークフリートに俺は怒鳴りつけた。

「どうして僕を庇った?!下手したら死んでたんだぞ!!ただのボンボンだと思ってたが単なる馬鹿だったんだな!!」

「ははっ」

「何がおかしい!」

「いや、嬉しいんだ。ずっとレイヴンとこんな風に話したかったから」

 出血で青い顔をしながらも本当に嬉しそうに笑うから、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

「なんだよ…、本当に馬鹿だな。でも、ありがとう」




 それ以来、ジークフリートとは兄弟であり友達の様な関係になった。そこで初めて知ったが、ジークフリートは決して恵まれた生活を送ってはいなかった。

 真面目で優しいジークフリート。そんな性格が父の気に触るのか、事あるごとに折檻を受けていた。それはまるで、狂王の嗜虐心を満たすための玩具だった。

 元服してからはそれが顕著となり、王太子でありながらも戦場の最前線に立たされる日々。最前線に立つ王太子を守るため命を散らす者達を見て、真面目なジークフリートはどう思ったのだろうか。

「しくじればお前の首をもらうぞ。心してかかれ」

 父親から出陣する息子への声掛けがこれだ。おそらく何の戦果も得られなかったら王太子といえど首を刎ねられるだろう。何せ父には今、お気に入りの妻とその息子がいる。末の弟はあまり顔を合わせた事はないが、俺たちと父の態度が違うのは明らか。王位をこの弟に継がせる気なのではないかと俺含め使用人全員が戦々恐々としている。

 父からどれだけ追い詰められてもジークフリートを希望として縋る臣下を見捨てられず、弱い姿を見せる事もできず、ジークフリートは何度も大怪我をおい、そんなジークフリートを支えるため俺は医療を学んだが、ジークフリートは治療の時には必ず俺の所へと隠れるように訪れた。
 治療を受け、ベッドに横になりながら俺の研究の話を聞いていた。

「……なあレイヴン、霊鬼の載ってた歴史書を覚えてる?」

「あぁ、覚えているよ。実は霊鬼について研究中なんだ」

「そうなのか?なら…霊鬼を復活させ、野に放てばこの国は変わるのだろうか」

 珍しいジークフリートの弱音。無理もない。本来なら大切に扱われなくてはいけない王太子がこの扱い。それに加えて生涯玉座に縛り付けられ民のために不自由な暮らしを送らなくてはいけない未来しかない。
 不憫なものだ。

「ジークフリート……霊鬼はあくまで伝説の生き物だからね。俺はあらゆる生き物、特に魔物や精霊といった自己治癒能力の高い生き物を研究して医療に活かせないか研究していて、霊鬼についてはそのついでなんだ。でも、霊鬼についてもう少し研究してみるよ」

「うん、頼むよレイヴン」

「痛みで眠れていないみたいだね。鎮静剤をだすから、今はゆっくりおやすみ」

「あぁ…おやすみ」

 霊鬼を野に放ち、時代を変えるか。

 それをすると、俺たちの命もなくなる気がするが。ジークフリートは世間も自分の運命も終わらせたいのだろうか。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...