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第4章 フォルトゥナ
沈みゆく絶望の果て〜レイヴン視点〜
しおりを挟む「レイヴン、なんだ?その様は」
11歳で初陣。俺には戦闘センスがないとわかっていた。だから勉学に励んでいたが…。初陣で何の戦果も得られなかった。
目の前の玉座で俺を見下す父。俺の隣で片膝をつき王に首を垂れながらも心配そうに見てくるジークフリート。
何よりも驚いたのは、父の隣に座る女の存在。
正妃ですら隣に座らせない父がよほど気に入ったのか連れ立って歩いている女。そして、その膝の上に座るまだ幼い弟。
あぁ…俺の代わりも既にいるんだ。
皮肉にも死はこちらの努力に関係なく嬉々として這い寄って来るものだと知った。
「戦で役に立たない塵に用はない」
何の興味もないという表情のまま、父は玉座から立ち上がり、剣を抜きながら俺の前へ。ははっ…こんなにも呆気なく死ぬものなんだな。
俺は静かに死を受け入れた。
「死ね」
無情にも振り下ろされた剣。思わず目を瞑るが体を引き裂くはずの痛みが来ない。
恐る恐る目を開けると、左肩から大きく切り裂かれ大量の血を流しているジークフリートが目の前に立っていた。
「陛下、恐れ多くも申し上げます」
ポタポタと血を流しながらも片膝をつき礼を取るジークフリート。
「レイヴンは勉学に励み膨大な知識を得ています。その頭脳は戦さにおいては軍師として、また政においても膨大な利を得るでしょう。何とぞ元服をお待ちください」
血を流しながら俺を庇うジークフリート。何だこれは?
「………くくっ」
死に繋がるほどの出血をしている息子を前に、父は玩具を見つけた子供のように嬉しそうに笑い出した。
「クハハハハッ!!珍しい!面白いな、ジークフリート!お前、俺に意見できたのか?!」
くくくっ、と散々笑った後で下卑た笑みを浮かべながら俺は生きる許可を得た。
「いいだろう、お前の度胸に免じてレイヴンの事は許してやろう。早く手当てにでも行け。でないと死ぬぞ」
俺は…王の、父の手下だと思っていた兄に命を救われた。
◇
「何を考えてるんだ!」
包帯を巻かれベッドに横になるジークフリートに俺は怒鳴りつけた。
「どうして僕を庇った?!下手したら死んでたんだぞ!!ただのボンボンだと思ってたが単なる馬鹿だったんだな!!」
「ははっ」
「何がおかしい!」
「いや、嬉しいんだ。ずっとレイヴンとこんな風に話したかったから」
出血で青い顔をしながらも本当に嬉しそうに笑うから、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「なんだよ…、本当に馬鹿だな。でも、ありがとう」
それ以来、ジークフリートとは兄弟であり友達の様な関係になった。そこで初めて知ったが、ジークフリートは決して恵まれた生活を送ってはいなかった。
真面目で優しいジークフリート。そんな性格が父の気に触るのか、事あるごとに折檻を受けていた。それはまるで、狂王の嗜虐心を満たすための玩具だった。
元服してからはそれが顕著となり、王太子でありながらも戦場の最前線に立たされる日々。最前線に立つ王太子を守るため命を散らす者達を見て、真面目なジークフリートはどう思ったのだろうか。
「しくじればお前の首をもらうぞ。心してかかれ」
父親から出陣する息子への声掛けがこれだ。おそらく何の戦果も得られなかったら王太子といえど首を刎ねられるだろう。何せ父には今、お気に入りの妻とその息子がいる。末の弟はあまり顔を合わせた事はないが、俺たちと父の態度が違うのは明らか。王位をこの弟に継がせる気なのではないかと俺含め使用人全員が戦々恐々としている。
父からどれだけ追い詰められてもジークフリートを希望として縋る臣下を見捨てられず、弱い姿を見せる事もできず、ジークフリートは何度も大怪我をおい、そんなジークフリートを支えるため俺は医療を学んだが、ジークフリートは治療の時には必ず俺の所へと隠れるように訪れた。
治療を受け、ベッドに横になりながら俺の研究の話を聞いていた。
「……なあレイヴン、霊鬼の載ってた歴史書を覚えてる?」
「あぁ、覚えているよ。実は霊鬼について研究中なんだ」
「そうなのか?なら…霊鬼を復活させ、野に放てばこの国は変わるのだろうか」
珍しいジークフリートの弱音。無理もない。本来なら大切に扱われなくてはいけない王太子がこの扱い。それに加えて生涯玉座に縛り付けられ民のために不自由な暮らしを送らなくてはいけない未来しかない。
不憫なものだ。
「ジークフリート……霊鬼はあくまで伝説の生き物だからね。俺はあらゆる生き物、特に魔物や精霊といった自己治癒能力の高い生き物を研究して医療に活かせないか研究していて、霊鬼についてはそのついでなんだ。でも、霊鬼についてもう少し研究してみるよ」
「うん、頼むよレイヴン」
「痛みで眠れていないみたいだね。鎮静剤をだすから、今はゆっくりおやすみ」
「あぁ…おやすみ」
霊鬼を野に放ち、時代を変えるか。
それをすると、俺たちの命もなくなる気がするが。ジークフリートは世間も自分の運命も終わらせたいのだろうか。
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