ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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8.彼女について Side アル

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 Side アル

 森に女性が一人で居るなんてびっくりした。
女性はいつだって夫達と一緒だ。楽しそうな様子を眺めることも許されない。俺達と目が合うと、楽しそうな表情は消える。消えてしまうのを見たくなくて、いつも目をそらしていた。

 ユウと名乗った。ごく普通に! 双子だってわかるだろうに、ベルとも話していた。若干、楽しそうに。

 違う世界、遠い国から来たと言った。夫も婚約者も親もいないと。そして、俺達と楽しそうに話す。変わった物を食べる。すぐ歩き疲れる、俺達と違う体。

 静かに食事をした。スプーンを当然のように使った。あまり食べなかった。口に合わないのかもれない。変った物を食べる国みたいだから。

 彼女がいると違った。いつも俺達だけで、どこにもいけないような閉じられた家に、彼女がいると、窓ができた気がした。息が軽くなった気がした。一人増えたことが、とても嬉しかった。
女性と楽しそうにしていた夫達を思い出す。彼らは妻と席を囲み、楽しく食事をしてるのだろうか。こんな喜びに満たされてるのだろうか。

 高級そうなお菓子をくれた。怖々、口にすると美味しかった。俺達の顔を見て、嬉しそうに自分の分から一つずつ分けてくれる。
優しさを貰った。高くてこんなに美味しいものを、俺達が喜んだからって分けてくれる。嬉しそうに!

 住み込みで働きたいと言ったのを、ベルが難しいと諭せばあっさり結婚すると言った。条件は少し難しかった。職業や容姿を言われた方が探しやすい。俺達とは、皆あまり話さないから。
 条件に、俺達は入る。俺達は静かだ。嫌がらせを避けるために、静かに息を潜めているから。俺達は二人で生きるためにいつだって話し合ってきた。食事の仕方は実家で習った。失敗すると罵られたから、俺達は必死で覚えた。
 条件にあることは、できる。

 子供の話をすると難しそうな顔で、他の国のことを聞かれた。胸が痛んだ。この国にいたくないのか?子供ができるかどうかわからないから?
俺なら、俺なら気にしない。

 悲しそうな顔で笑って、体を洗って眠った。一つ一つお礼を言う。側に立つと良い香りがした。優しい花の香りが。毛皮の上で丸まって眠ってしまった。
ベッドで隣に寝てくれたら、どんなふうだろう。裸の肩が触れたら、どんな感じだろう。すぐそばで良い香りがしたら。

 ベルに婚姻したいか聞かれた。ベルは俺の気持ちを分かってしまう。

 ベルはいつからか、愛想よく振る舞うことを覚え、同情を買うようにしていた。そうすると、たまにはましな食事が貰えた。ベルはよく他人の顔を見るようになった。嫌がらせを回避するために。
 ベルはたまに使用人からお菓子を分けて貰って来た。必ず半分を俺にくれる。美味しそうにするベルを見て、俺のお菓子をまた半分にしてベルの口に入れると、嬉しそうに食べる。食べたあと、口を尖らせて『アルも食べてよ』と拗ねる。ベルは自分の喜びを半分、俺に分けてくれる。

 彼女は俺とベル、二人に優しさを分けてくれた。俺達、二人に。

 ベルが彼女に求婚した! 指輪も無いのに。彼女は驚いていた。当然だろう。
でも、ベルが求婚した。俺のために。俺だって、本当は諦めきれない。三人でテーブルを囲むと、それだけで胸が暖かくなる。

 森を歩きながら、ベルの考えを聞いた。
彼女の条件に合う相手を探すのは難しいと、この国のことを何も知らないなら俺達のことも気にしないだろうと、知らないうちに婚姻の約束を取り付けた方がいいと、指輪が欲しいと言われればあとから買えば良いと。

 騙してるみたいなのに、それでも良いほど、彼女を手放したくなかった。あの良い香りをそばで嗅げるなら罰はいくらでも受けれる気がした。
指輪がないから、せめて、俺にできることをしたくて美味しい鳥を狩った。これなら口に合うかもしれない。

 家に帰ると彼女が迎えてくれた。俺達を、迎えてくれる人がいるなんて。これだけで胸がはち切れそうな喜びを感じた。

 彼女が指輪をしているのを見て愕然とした。血が引いて息がうまくできなかった。彼女はあっさり自分で買ったと言った。見たことない値が張りそうな指輪をいくつも。そんなに裕福だと森には住めないかもしれない。住むのを嫌がるかも。否定して欲しくて裕福か聞くと失礼だと怒られた。裕福な育ちで高い指輪を買って貰えるのは、階級が示せて良いことなのに、彼女は違った。

 ベルが養うと話したのに興味なさそうだった。彼女は違う。働きたいと言っていた。俺達のできることじゃ、彼女を喜ばせることはできないのだろうか。

 羽むしりに付いてきて、一緒に座って、婚姻のことを聞いてきた。彼女の質問に答える。
そうだ、彼女は少なくとも拒否はしてない。俺は一度もきちんと話していない。何も言えないまま断わられたくない。俺にできることを伝えなくては。

 彼女が受けてくれた時、体中が弾けるみたいで、周りがすごく明るくなった。嬉しくて嬉しくて、頭がフワフワしてベルのところまで歩いた気がしなかった。
それからの彼女の行動全部が嬉しく愛しく感じた。三人での食事も楽しくて、鳥を美味しいと言ってもらえたのも、ベルを気にかけてくれたのも、全部が嬉しかった。

 そして、薬指をくれると言ってくれた! 意味が分かってなくたっていい。俺とベルに指をくれる。ひどく浮かれていたら、ベルが交尾の誘いをした。その途端、緊張で手が冷たくなる。あの、良い香りを嗅ぎたい。でも、彼女は拒否だってできる。それに、怖かった。豚の交尾しか見たことがない。
 彼女にどうやって触れたら良いのだろう?変な触れ方をして彼女に嫌われたくないのに、それ以上に触れたい。手だけでも。

 彼女は頭を抱えたあと、お酒を飲んで、教えてくれると言った。彼女に嫌われない触り方を。……彼女に触れることができる。

 彼女の言う通りにした。彼女に見られていると思うと恥ずかしかったけど、じっとして体を洗ってもらった。
 彼女が服を脱ぐと、初めて見る女性の体が俺の目の前に現れた。彼女の体が俺に触れる。俺の手を取って、柔らかな彼女の腰に回した。触っても良い、触れられるんだ。
 彼女の口が触れて、舌が、舌が、俺に触れた。これを、これを覚えたら、俺が彼女にしても良い。こんなことを!
 彼女の口が離れる。続きが欲しかった。体中の血がうねってるみたいだった。彼女の手は優しくて、優しくて、幸せで切なくて、おかしくなりそうだった。彼女の手の中で腰が動く。止まらないのに彼女は優しく受け止めて教えてくれる。

 俺はずっと、ずっと誰かに愛されたかった。俺達を愛してくれる人が欲しかった。
結婚してくれるって言ったんだ。彼女がその『誰か』なんだ。そうだって言ってほしい。俺は彼女がいい。だって、こうして抱きしめてくれるなんて。ずっと欲しかったものを与えてくれたんだ。
 彼女の名を呼んだ。彼女に愛されたかった。彼女が答える。
 ああ、俺は彼女のもの。彼女は俺のもの。こうして分け合うんだ、色んなものを。


 お湯を取ってきたらベルと話していた。一気に仲良くなったようで、悔しくて嬉しい。
彼女はベルの体で教えてくれると言った。今度は見て彼女の手の動きを覚える。さっきまで、俺もされていたのを思い出した。彼女の体のことも教えてくれる。
彼女はベルを触りながら俺も触った。そう、俺達に、二人に分け与えてくれる。ベルは彼女に見られてとても喜んでいた。俺を見て受け止めて欲しいと言えば、彼女は優しく受け止めてくれる。

 ベルが付けた傷も許してくれた。彼女はベルにも俺にも優しい。
一緒にベッドに入ると裸の肩が腕が足が触れる。彼女の香りと暖かさに心が満たされて、彼女の寝息に痺れるような幸福を感じた。


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