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39.今後の予定
しおりを挟むミカちゃんちで晩ご飯の後、二人で籠を編んでたら、グラウ様が訪れた。森番の家でエーミールが待っているらしい。ミカちゃんと手を繋いで外に出ると、一人ずつしか運べないと言われ、先にミカちゃんが連れていかれた。すぐにグラウ様が戻り私の手を掴む。
嫌だった。触られるたびに肌が粟立つのが、腰がゾクリと震えるのが、嫌だった。私の中を一瞬で書き換えられてしまうのが、その感触に支配されてしまうのが嫌だった。
顔を上げることもできず、握られた手が起こす嵐を歯噛みして耐える。移動した先で手が離れるまで、俯いたままだった。
手が離れた後、顔を上げると眉間に皺を寄せたアルと困った顔のベルとミカちゃんがこっちを見ていたので、アルの隣に行き手を繋ぐと固い声で話した。
「魔法使いからの提案だ」
にこやかに椅子に座っているエーミールを見やる。
「月に一度じゃ足りなくなったんだ。私の部屋にも何日か来て欲しくてね」
「・・・それだけ?」
「小指の婚約者についても教えて欲しい。私は夫なのだから、聞けるはずだ」
「・・・・・いない。婚約者はいない」
ため息をつきながら答える。何日も泊まりたくないし、これ以上、夫は欲しくない。
「では、ユウナギの夫は四人で五人目は未定ということか?」
「そう」
「なぜ、指輪を?」
「求婚されないように。良い人がいればこちらから声を掛けようかと思ってて、それまでは求婚されるの面倒だから」
そう、当初はその予定だった。なんで、エーミールなんかと婚姻して面倒なことになってるんだろう。
「探しているのか?」
「・・・探し中だ」
エーミールが片眉を上げて聞き、アルがポツリと答えた。私の条件に合うような人は難しいから見つからないのだろうと思う。宿題していないことを親に問い詰められる子供みたいだ。そういえば、親子くらいの年齢差だった。うわお。
「私が夫になったから、下手な奴を引き入れると面倒なんだ。私の方でも探しておこう」
「うげ」
「なんだ、嫉妬か?」
「いや、全然。これ以上(お前みたいな奴が)増えるのが面倒だと思って」
「この国に住む以上は仕方ないことだ。婚約期間が長すぎると突っつかれるからな、さっさと見つけた方がいい」
エーミールは肩をすくめてそう答えると、いい笑顔で見つめてきた。
うわあ、すげえ、企んでそうな顔。この顔に騙される奴いるんかな。それとも、わざとこんな顔してんのかな、脅すために。酷くない?妻にユスリタカリとか。
「ちょっと待って、変な人は嫌だよ」
「変、とは何だ?希望は聞くだけ聞いておこう」
「健全な精神と健全な嗜好の人が良い」
「そんな奴はいない。夢を見過ぎだ」
「なるべく!なるべくで良いから」
慰めに時間かかる奴とか、いじける奴とか、腹黒い奴とか、これ以上は遠慮したい。けど、口にすると俺達のことかっってなっても困るから、具体的に言えない。屈折してる人はもう十分ですよ。自分も含めて。かと言って、脳筋系も遠慮したい。熱血は相容れない。
メンヘラはうつるって言うし、まともな人と一緒に居たら、私にもまともがうつるかもしれないじゃないですか!
「そんなことより、私の部屋に泊まりに来る話だ。10日ぐらいでどうだ?」
そんなこと呼ばわりかよ!夫だぞ!俺はそいつと寝なきゃいけないんだぞ!?お前は誰でも寝れるかもしれねーけどな、俺はヤル気だすの大変なんだよ!くそっ!そん時はお前も参加させるからな!強制参加だからな!ケツ貸せよな!
荒れ狂う脳内でエーミールのケツを目標に定め、お泊りをお断りする。
「・・・嫌だ。長過ぎる。減らして」
「ユウナギはここに住んで、森番達とずっと一緒だろう。私だってユウナギに会いたいんだ。夫はもうちょっと平等に扱え。何日なら良いんだ?」
「エーミールだって昼間は仕事でしょ?部屋にずっと居てもすることがなくて暇だし。5日くらいなら」
「では、私の部屋に泊まる間は毎日グラウに送り迎えを頼もう。5日間だな。明日の夜迎えに来る」
「いきなりか」
にこやかなエーミールと仏頂面のグラウ様は帰っていった。
「なんか、つむじ風みたいだよね。ビュッと来てビュッと帰る。夫探しごめんね、私に合う人いないんでしょう?」
「・・・難しい。ユウを紹介したくない」
「・・・それは、ごめん。本来は親の仕事だもんねぇ。でも、ありがとう。大事にしてくれて」
アルに抱き付いてお礼を言うとアルが抱きしめ返してきた。
「夜だから、ミカの家に行くのは危ない。今夜はうちで眠ろう」
顔中にキスをして来る。おやおやおや、これはひょっとして?
「交尾したいの?」
「明日から5日もいないんだ」
「今日はミカちゃんの日だよ」
「俺、いいよ。三人だと婚姻の日を思い出すね。それに昼間いるなら、俺、会いに来れるし」
「そうだな、婚姻の日だ」
アルとミカちゃんは嬉しそうに笑い、そんなアルを見てベルは微笑んでいた。
そのあと、三人は代わる代わる私と交わり、キスの雨を降らせた。
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