ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

文字の大きさ
51 / 139

50.求婚

しおりを挟む

家の前に飛んだら、ドアが開いてる。恐る恐る、声を掛けた。

「・・誰ですか~」
「ユウっ!!!」

ドアからミカちゃんが飛び出してきて、勢い良く抱きしめられた。

「どうしたの?ミカちゃん、何かあった?」
「ユウっ、なんで濡れてるの!?・・えっ!魔法使い!?」
「・・・そうだ」

ミカちゃんは驚きすぎてフリーズするもすぐに回復し、すごい形相で私の二の腕を掴み揺さぶった。

「なんでっ!なんで、家にいないの?ずっと心配してっ!魔法使いといたの!?」
「池で飲んでたら酔って池に落ちたの。ごめんなさい。グラウ様は池にたまたま来て、助けてくれて、暗いから送ってくれただけ。・・・ごめん、ごめんね」

ミカちゃんの悲痛な声に胸がふさがる。胸に頬を寄せると強く抱きしめられた。背中に腕を回して抱きしめ返す。私の首に顔を埋めたミカちゃんの、大きな体が小さく震えていて、池に沈まなくて良かったなと思う。この優しい人からずっと離れた場所じゃないと。

顔を上げると、グラウ様と目が合った。この人はずっと眉間に皺が寄ってるな。

「・・・送っていただき、ありがとうございました」
「・・・ああ」

ミカちゃんがゆっくり体をずらして横から抱きしめる体勢になる。力入り過ぎて痛いんですけど。

「・・妻がお世話になりました」

めっちゃ低音ボイス。めっちゃ真顔。間男疑いが晴れていないとはいえ、親切にしてくれた人に対してその態度はいかがなものかと。ミカちゃんの服を引っ張って言う。

「ミカちゃん、グラウ様に迷惑かけたのは私だよ」
「・・ありがとうございました」
「・・・問題ない。手を」

エーミールの用事かな?と思いつつ、いつも通り左手を出すと、素早く手を取られ小指に指輪をはめられた。

「求婚の指輪だ。・・・あなたは私の唯一だ。受け入れてほしい。また来る」

そう言って、グラウ様は消えた。
驚き過ぎてぼんやりしてると家に連れ込まれベッドに押し倒された。真上には泣きそうなミカちゃん。悲しそうな苦しそうな、ミカちゃんの目。

「なんで求婚されるの?なんで、家にいなかったの?・・・俺の家に来なかったのは、魔法使いと約束してたから?」
「約束してないよ。会ったのは偶然。池でお酒飲んでたの」

ミカちゃんの頭を胸に抱きしめ、髪をゆっくり撫でたり梳いたりする。逃げ出したいと思った懺悔も込めて。
しばらくすると、くしゃみが出た。ミカちゃんがゆっくり起きて頬を撫でる。

「濡れた服、脱がなきゃね。体洗うよ」

服を脱がされ、外に出た。ミカちゃんは私の髪を丁寧に洗ってから、体を擦っていく。

「・・・なんで求婚されたの?」
「まったくわからない。けど、唯一って言ってたね」
「・・・なんで、手を差し出したの?」
「え、『手を』って、飛ぶときにいつも言うから出したんだけど。いきなり指輪されてびっくりしたわ。なんか、ダメなの?」
「っ!手をっ差し出すのはっ求婚を、求婚の指輪を受けるってことだよ!」
「えっ!?嘘。常識なの?アルもベルもミカちゃんも、そんなことしなかったよ」
「うっ・・・・・常識だけど、俺は指輪作ってなかったし、求婚も、だって、急だったし。・・・指輪欲しかった?」
「ううん、全然。自分のがあるからいらない」

しかし、グラウ様は何を考えてるんだ。・・・求婚か。

「・・・何の話したの?」
「何も。池に落ちたの助けてもらって、気を付けろって言われただけ」
「・・・そうなんだ。・・・なんで池に一人で行ったの?一緒に行くのに」
「一人で隠れてこそこそ飲むお酒は美味しいでしょ」
「そうなの?一緒に飲むほうが美味しいよ」

静かだ。気まずい。妻が一人でいると心配してきたらいなくて、いきなり他の男とびしょ濡れで現れて、求婚されるとか、うん、かなり浮気っぽい。120%そんな感じ。何言われても説得力なし。

「ありがとう。今度は私が洗うね」

石鹸を泡立てる。髪を洗うのは桶に頭を突っ込む土下座スタイルだ。風情がないけど仕方がない。
手で石鹸を泡立てて丁寧に体をこすっていく。首から肩、両腕そして背中。

「あのねぇ、ミカちゃんち行かなかったのは、ミカちゃんが嫌なんじゃなくて、一人になりたかったの。好きだけど、一人になりたいときもあるの。私、少し疲れた。襲われてケガして、なんか疲れちゃったんだ。だから、一人でお酒飲みたかったの」
「・・うん」
「それで、石を見ながら襲われたこと思い出してたら、石を池に落として、ついでに自分も落ちちゃって、偶然グラウ様が助けてくれたの。なんで彼がいたかは不明」
「・・・唯一って何?」
「・・エーミールから聞いたんだけど、グラウ様って誰にも触れないんだって。魔力量が多すぎて。でも、私は平気だから、多分それでだと思う」
「・・・そっか。・・ユウは求婚を受けるの?」
「そうだねぇ。グラウ様はミカちゃんみたいだから」
「なんで?」
「一人だから。私ができることは少ないけどさ、少しでも笑えるといいなぁと思って」
「・・・ユウ、俺、ユウがいなくて、怖くて、いなくなったと思って、怖かった。ユウ、いなくならないで。一緒にいて。ユウ、どこにも行かないで。俺を一人にしないで」
「うん」

私達は抱き合う。
どこにも行かない、とは言えなかった。逃げ出したいのは本当だから。でも、笑ってほしいのも本当。眠ったまま起きたくないのも本当。私はとても疲れている。

「ユウ、・・・・ユウの国に戻るの?戻ることが、できたら、戻る?」
「・・・わかんない。戻れるかどうかもわかんないし」

わからない。本当に。戻ったって同じだ。いつも逃げ出したいんだから。ミカちゃんの震える手を握り、俯いたせいで近くなったつむじに何度も口付ける。

「・・・俺も、俺も連れてって。ユウ、離れたくない。ユウ、お願い」
「・・・・・全然違う場所だよ。お金もないし、生活していくの苦しいよ」
「いい、離れるよりずっといい。お金ないのも、生活苦しいのも今と同じだし」
「あー、まあ、そうね」
「ユウといたら、幸せだから」

そんな気持ちは長続きしないと思う。知らないでしょ。全然違う場所で、一人で何もできなくて、自分の役に立たなさに磨り潰される気持ちは。
・・・違う、これは私だな。ミカちゃんは違うか。なんせ、捨て子で、知らん場所で育ってんだから。ミカちゃんは勇猛果敢に立ち回り、好奇心いっぱいに楽しく明るく過ごすのかもしれない。こんなにあっさり異世界引っ越し宣言できちゃうしね。

「ふっ、そっかー異世界行っても良いんだ。そっかー、うん、ミカちゃんは優しくてカワイイから私の国に行ったらモテるよ、きっと。女の人はいっぱいいるし。素直だから仕事場でも可愛がられそうだし、ミカちゃんは凄いね」
「・・・一緒にいて良いの?」
「ミカちゃんが離れないならね」
「っ、離れない。一緒にいる」

ぎゅうぎゅう抱きしめられるのは嬉しいけど、ぎゅうぎゅう過ぎるよ、ミカちゃん。腕をペチペチ叩いて緩めてもらった。頬を両手で挟んで覗きこむと、ミカちゃんの目は揺れていて、堪らない気持ちになる。愛しさも罪悪感も優しくしたいのも逃げ出したいのもグルグル渦巻いて、見つからない言葉の代わりに、好き、と何度も囁きながら唇にキスをした。
ミカちゃんからも、好き、という呟きが何度もこぼれ、キスが深くなっていく。舌で口中を舐めまわし、唾液を啜って飲み込んだ。ミカちゃんの指は背中をそっと撫でさすり、ゾクゾクした痺れを背骨に注ぐ。
このままこの時間に酔っていたい。快感に潜り込んで溺れてしまいたい。没頭したいのに、なんで余計なことを考えてしまうのだろう。ミカちゃんの手は胸を揉みしだく。乳首を乳房に押し込んで揺らされ、もどかしいむず痒さに声を上げ仰け反った。

「ミカっ、ミカ、あああ、ミカちゃん、気持ちいいっ」
「ユウ、ユウ、好き」

乳首を咥えられ舌先でクニクニと舐め潰されると、足の間から蜜が漏れてくる。愛撫をしたくて、蜜にまみれた膣口をペニスに摺り寄せ腰を動かした。ミカちゃんの口から漏れる喘ぎ声が、余計に気分を昂らせ体の奥に熱が溜まっていく。

「ユウ、ユウっ、出ちゃう、ユウ、中に、中に入りたい」
「うん、きて、ミカちゃん、中に頂戴」

ミカちゃんの大きな手が、私の腰を掴み押さえつける。一気に打ち込み、奥に擦り付けると、ミカちゃんは呻き声を上げ熱を解放した。
荒い呼吸をしながら潤んだ目で私を見下ろすミカちゃんはとても色っぽい。覆いかぶさって、顔に鼻を擦り付けてくるところは甘えん坊だ。啄むようなキスをして腰を動かしてる。

「ユウ、もっと、しても良い?」
「良いよ。ベッドに行こうか」

体を流してベッドに戻る。
意識が途切れるまで、ミカちゃんは何度も中で果て、私は何度も浮かび上がった。


しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...