ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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55.疲れたから甘えたい

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余りにも酷い自分の行動に茫然自失していると、呆れ顔のエーミールに手を引かれて我に返る。
ここはエーミールの部屋だった。他のことを考えてはダメだ。今はエーミールの時間だから。
無理矢理ニッコリしておく。

「ごめんね」
「・・・なぜ、そんなにグラウを気にかける?」
「・・・悲しそうな顔させちゃったから。ごめん、一人のときに考える」
「あいつは私が忙しい隙を狙って求婚したんだ。悲しい顔でもなんでもさせておけばいい。おまけに、隠れてユウナギを見に行っている。二度目と言っていたぞ。一度目は一体何をみたのやら。あいつは何をやっているんだ、まったく」
「ぶっ、ぅぐっ、ふふっ、ホントだ、何やってんだろうね、ブフッ、フッ」

冷静にツッコミをされると可笑しさが際立つな。よし、オリヴァにはちゃんと謝ろう。そうしよう。
気分が軽くなって、笑いながらお礼を言う。

「ありがとう、エーミール。」
「・・・そうして笑うほうがずっといい。さあ、こっちだ」

浴室まで手を引かれて服を脱がされ、簡単に体を洗った。ベッドで抱き込まれ唇だけのキスをする。

「ユウナギ、なぜ求婚を受けたんだ?」
「唯一なんだって。だからだよ」
「・・・ユウナギは可哀想な男が好きなのか。森の夫もグラウも、相手が見つかりそうにない。健全な精神とか言っておいて、かけ離れている奴を選ぶ」
「ホント、そうですね」
「まったく、私の計画が台無しだ。グラウに出し抜かれるとは思わなかった」
「ごめんね。色々考えてくれてたのに」

腰を引き寄せられ、体が密着する。こめかみに鼻先を摺り付けながら、甘えるように瞼や鼻を啄んで私の名を呼んだ。こんなに甘えるエーミールは初めてで、何だか驚く。

「ユウナギ、埋め合わせをしてほしい。私を見てくれ」
「エーミール、急にどうしたの?何かあったの?」
「・・・グラウに惚れたのか?見る目が私とは違う」
「好きになっちゃダメなんでしょ?気持ちの距離が変わるのは当然だと思うんだけど」
「ダメだ」
「・・・・・エーミール、すごく大変なんだね。派閥争い。すごく頑張ってるんでしょ?私のことはいいから、エーミールに丁度いい落としどころで決着したら?」
「・・私のせいだ」

悲しそうに眉を寄せ、頬の傷に張り付けた布を指でさわった。もう片方のエーミールの手を握って言い聞かせる。

「狂人の責任なんて取る必要ないよ。彼女が自分で取るんだから」
「すまない」

辛そうな、絞り出すような声で呟いた。

可哀そうな人だな。ストーカーに付きまとわれて自分のせいじゃないことまで謝って。派閥争いなんて死ぬほど大変なことしてさ。足の引っ張り合いで下手したら自分の身が危ないんでしょ。おまけに妻はのん気に相談もなく新しい婚約者を連れてくると。ごめんエーミール。
腕を伸ばしてエーミールの頭を抱きしめ、髪にいくつも口付ける。

「エーミール、大事な夫、許すよ。エーミール、ベッドの中でだけ愛して」
「ユウナギ、ユウナギ、抱かせてくれ」
「うん」

エーミールが強引なキスをする。舌を奥へねじ込み、舐めまわして吸い付く。手を私の腰のうしろに差し込んで背中まで撫で擦り、絶え間ない痺れを起こした。助けを求められているようで愛しく、その性急さに官能の火を付けられ、私の体はしなっていく。
乳輪ごと口に含み容赦なく乳首を吸い上げられ舌先で弾かれると、快感が集まって波の頂点へ向かい出した。エーミールの髪をくしゃくしゃにしながら、足を擦り合わせて快感に捩れる。

「エーミール・レオン、もう、良い、いいぅっ、くっ、ううぅあーーーー・・・・っく、ふっふぅ」
「・・・ユウナギ、私を中に」

色っぽい潤んだ目で訴えるエーミールに腰が痺れて下腹が疼いた。足を広げてエーミールの腰に巻きつける。エーミールを見つめながら、その白くて柔らかな頬を撫でた。

「ユウナギ、その濡れた目で、私を見てくれ」

中に入り込んだエーミールが、目を見つめながら、私の腰を押さえ込んで自身を打ちつけ始めた。エーミールの切なそうな顔と私を押さえ込む強引さに、粟立ちが背中を這い上がる。

「エーミール・レオン」

腰を抑えつけるエーミールの両手に手を添え、名を呼ぶと切なさが胸に広がり涙が目尻から落ちる。与えられた刺激は下腹部に満ちて背骨を駆けあがり、痺れは腰で弾けてエーミールに吸い付き蠕動した。

「っく、ユウナギっ」

エーミールは顔を歪めて呻き、強く早く打ち付け始める。呼吸音が大きくなり小さい叫びが漏れると、目をギュッと閉じて、腰を押しつけ体を仰け反らせた。吐き出し終わると荒く息をつきながら抱きついて、目尻に流れた涙の跡に優しくキスをして首に顔を摺り寄せる。甘えた様子のエーミールを抱きしめて、髪を梳いた。

「・・・すまない」
「うん。たまには甘えていいよ」
「・・甘やかされるのはいいな。ユウナギ、ユウナギは私にとっても唯一なんだ」
「唯一の甘え先?」
「ああ。・・・他にも」
「うん、わかんないけどわかった」
「まあ、わかってないだろうけど、覚えておいてくれ。さあ、眠ろう」
「お休み、エーミール」
「お休み、ユウナギ」

目をつぶった私の額に優しい口付けが落とされた。

ふと、目覚めるとまだ夜みたいだった。隣ではエーミールが寝ている。ベッドから抜け出して窓を覗くと、神殿の庭は青白い月明かりの中で静まり返っている。左手を月明かりにかざした。親指から薬指まで紋が焼き付いて、小指にはグレーの石がついた指輪。もうすぐ五人になる夫達、その関係、その気持ち。とても重いようにも、意味なんて無いようにも思えた。少し疲れてるのかもしれない。

私はまた失敗している?オリヴァを傷付けた。エーミールにも悪いことをした。アルとベルに私の気持ちはバレていないだろうか。ミカちゃんをないがしろにしてないだろうか。
全員に良い顔したいだけだ。そうして疲れてしまう。
オリヴァを傷付けたことに動揺してる。前言撤回して婚姻してしまおうか。

また、オリヴァのことを考えてしまった。ダメだ。あなたのことは後で考える。

エーミールは私に甘える。実験動物にいくら甘えたところで廃棄すれば誰にも知られない。自分の心も平穏だろう。実験動物は厳正な実験結果を得るためにきちんと体調管理される、可愛がって大事にして、実験が終わったら少し悲しそうに謝って終わりだ。

自分の失敗をうやむやにするのに、嫌な目に遭うことを想像しても意味ないな。私が他の場所で嫌な目に遭ったところで、オリヴァへの償いにはならないんだから。
ダメだ。考えがオリヴァへ戻ってしまう。

私はいったい何をしたいんだろう。

「どうした?」
「ごめん、起こした?」
「温かい体が隣からいなくなっていてな」

そう言って抱きしめられた。

「・・・あの女の人は恨んでるかな?私のこと」
「・・・・・逆恨みだ。気にすることはない」
「自由になったら仕返しにくるかな?」
「・・・行動制限は付ける」
「どんな仕返しすると思う?男に襲わせる?娼館に売り飛ばす?もっと暴力的で、刺したりとか?襲わせるのが一番手軽でバレにくくてダメージ大きそう。そういうことしてバレたらどうなるの?」
「そうだな、今より10年くらい強制労働の期間が延びるな」
「私が神殿にいるって知ったら、手出しするかな?そこまでしない?やってみる価値はありそう?」
「・・・ユウナギを囮にするのか?」
「今は監禁されてるんでしょ?夫達は抜け出すのを助けると思う?」
「自己保身の真っ最中だからな。ここで妻に手を貸すのは不利にしかならない、から、しないとは思うが・・」
「罠って難しいね」
「ククッ、ユウナギ、勇ましいな」

優しい手つきでエーミールが私の頬を撫でる。

なんだか思い出してしまった。私はあの女を痛めつけたい。直接的な暴力は恐ろしいのに、めちゃくちゃに殴りたいとも思う。殴ったってすっきりしないだろうに、衝動が渦巻いてモヤモヤする。自分の状況に対する苛立ちを、あの女に転嫁してるだけかもしれない。

「さあ、ユウナギ、私をもう少し寝かせてくれ。隣にいてくれないと寝付けない」

腰を抱き寄せられてベッドまで戻り、掛布に潜り込むとうしろから抱き込まれる。
エーミールの寝息を聞きながら目を閉じた。


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