ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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57.初めての Side エーミール

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2話投稿 2/2


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Side エーミール

ユウナギが襲われた件の関係者を調査しているが、なかなか進展しない。ミアの夫達が協力したに違いないのに、みな口を噤む。前筆頭は王の不興を買って失脚したとはいえ派閥は大きいし、ユウナギへの襲撃は痴情のもつれだと言いまわられて、矮小化されたのも厄介だ。おこないを問題視しているのに論点のすり替えをしてくる。
前筆頭の派閥を少しずつ切り崩していたのに、この件で危機を感じたのか結束が一気に強まってしまった。 
私も焦り過ぎたのかもしれない。ユウナギの傷を見て頭に血が上ってしまったから。治癒が効かないのに、よりにもよって顔を傷付けるなんて。

神経をすり減らしながら根回しに奔走している間に、グラウが婚約者になっていた。
驚愕だ。
私が神殿で躍起になって、ユウナギに目を向ける時間がない間に、グラウに出し抜かれた。私に一言もなく。
一言あれば、いや、やはり求婚の許可は出さなかったかもしれない。五人目が決まったあとなら、頷いたかもしれないが。
しかも、いきなり婚約者だ。私の知らないうちに、何の相談もなく、ユウナギは求婚を受け入れた。グラウの必死な様子を見ると、グラウが一方的に執着しているのだろうと思う。なのに、私の気持ちはざわついた。
ユウナギの口調はいつも通りなのに目が違ったから。

愛し気な、慈しむような柔らかい目でグラウを見ていた。
私はユウナギのそんな目を見たことがない。他の夫が平静でいるのはユウナギのその目を知っているからだろうか。私だけが知らないユウナギの目。
夫の私を振り返りもしないまま、グラウを気に掛けるのが気に入らなくて、婚姻を伸ばすよう口出しした。我慢ができず、そのままユウナギを私のもとへ連れて帰る。

それなのに婚姻を伸ばされ意気消沈したグラウを気にかける。森の夫達のようにグラウも気にかけるのか?
私は?私だけが彼女の手から零れ落ちている。

ユウナギは私の仕事を気にかけてくれ、自分の傷も気にしないでいいと言う。私のせいなのに私を責めることもない。私はユウナギに何もできない上、何も望まれない。

どうしても私の方を見てほしくて甘えた。ユウナギにつつまれたかった。グラウを見ていた目じゃなくてもいい、欲望でいい、私を欲しがる目を見たかった。私は年甲斐もなく甘え、ユウナギは優しく受け入れて甘やかしてくれた。
私はユウナギの腕の中で暖かさにくるまれ、もう一人ではなかった。

ユウナギは唯一、振り向いてほしい相手。唯一、離したくない相手。今更、こんな感情を持つなんて。

朝になっても甘やかされたままなのが、嬉しくてくすぐったい。こんな気持ちになったのは初めての恋以来で、甘やかな懐かしさに胸が疼いた。

初めての恋の相手はいくつか年上で、そいつには恋人がいた。私は成人したばかりの見習いで、何人もの上役や同期から言い寄られて、あしらいきれず何人かと関係を持っていた。私のことを欲望に濡れた目で見るそいつらをバカにしつつ、自分が欲しいものを手に入れる手段として使っていた。

そいつは恋人を何の打算もなく大切に扱い、愛情にあふれた態度で接していた。恋人だけを見つめ心底愛しそうに語りかけ、恋人も幸せに満ちた表情で愛情を返していた。
私の相手達とは全然違う。あんな愛しそうな目は見たことがない。私は満たされたことなどなかった。

何年かしたらそいつと恋人は別れた。理由は知らなかったが、どうでもよかった。私もあの目で見つめられたいとずっと思っていたから。私はそいつに言い寄ったが、頷いてもらえなかった。私は相手達と手を切って、そいつに振り向いてほしくて必死だった。やっと頷いてもらえたときは、嬉しくて堪らなくて泣いた。そいつは泣いた私を、甘く優しく、壊れ物に触れるように抱いた。
それからずっと、そいつは優しかったし、私が望んだ愛情をくれた。愛しそうな目で私を見つめ、愛を囁き、私は満たされた幸福な日々を過ごした。

何年かすると、幸福は壊れ始めた。愛しそうな目は悲しそうな目に変わり、愛の囁きはため息になった。私は必死で縋った。わけを聞いても、君のせいじゃないと言うばかりで何にもならなかった。泣いて縋って責めて、やっと理由を聞き出すと、年齢のせいだと話した。私が成長し、少年の華奢さが消え、大人の体つきになったからだと。もう愛せないと言われた。事実、しばらく前からそいつは私を抱かなくなっていた。
体の成長はどうにもできない。私の体目当てだった相手達とそいつがどう違うのか分からなくなった。そいつの中から愛情は消え失せ、憐れみで私を見ていた。

私はそいつと別れ、言い寄ってきた相手達とまた寝るようになった。そいつはしばらくすると年若い恋人を作り、そのあとも何年かごとに恋人を変えていた。
そいつが恋人を見る時はいつでも愛情があった。それは相手じゃなく、その季節を愛しているのだと、だいぶあとになって分かった。私が感じた愛情は幻だった。
そのあとは打算と欲望しかなかったが、その方が楽だった。あんな幸福と絶望はもうごめんだったから。

今になってなぜ、ユウナギと婚姻したのだろうと自分でも思う。別にそこまでする必要はなかったのに。
忌まわしいとされる双子の森番と、歯牙にもかけられない炭焼きを夫にするのが面白かったのかもしれない。打算なく、愛情が見られると思ったのかもしれない。夫達を見る優しい目に魅かれたのかもしれない。
私はまだ、あの幻を望んでいるのかもしれない。

甘やかされる心地良い微睡みに浸りたくて甘えたままでいたら、初めてユウナギのほうから口付けをしてくれた。柔らかく私の手を握り、優しい唇が私を啄んで、温かな舌が私をなぞる。
ユウナギの意思で、私に振り向いて、私に触れた。
喜びで肌が粟立ち魔力が痺れた。強引に組み敷き、押し入って突き立てたい欲望が溢れそうになるのを、ユウナギの手を握って耐える。

ユウナギが体を離して、仕事のことを聞いた。私をこんなに昂らせて酷いことをする。私の懇願を聞くと優しい目で笑いながら私の体に舌を這わした。

ユウナギが、優しい目で私を見る。ユウナギが、自分から私に触れる。ユウナギが、優しく私に快感を与える。ユウナギが、私を飲み込む。もう、我慢ができなかった。魔力が蠢いて体が痺れ、熱が出口を求めて渦巻く。ユウナギの頭を押さえて欲望を吐き出した。

ユウナギに飲み込まれたことに興奮して夢中になり、自分だけで終わってしまったのに甘やかされたままで、それが心地よくてもっと甘えた。ずっとこうしていたいのに、ユウナギが帰ってしまう。幸せな時間が終わってしまうのが切なかった。

ユウナギはあっさりと私から離れ、帰っていく。心地よい甘やかしは寂しさに変わり、私は久しぶりにそれを味わった。


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