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60.お出掛け
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何日かして、畑でスープに入れる野菜を収穫しているとオリヴァが現れた。眉間に皺を寄せて不機嫌そうだ。
「・・・明日、出掛けるそうだ。今日は泊まりにこれるか?」
「・・今日は行かない。明日の朝、迎えにきてもらっていい?」
「わかった」
「・・・どうしたの?」
「何でもない」
消えてしまった。
そうだ、別に私に愛想よくする必要なんてない。彼には不愉快になる理由があり、それは私の浅はかさから発している。彼は既に撤回の願いを口にしたし、私はそれを流した。今更、どうしようもない。
つまり、私は彼を怒らせて、途方に暮れている。
アルとベルに明日の予定を伝え、泊まりになるかもと伝えた。
朝、オリヴァが迎えに来てくれた。昨日に引き続き不機嫌な顔だ。
「おはよう、よろしく」
「・・・ああ」
オリヴァに手を差し出すと、手首を強く引かれ抱きしめられた。強く強く。私も抱きしめ返す。強く。抱き合って立ち尽くした。何度か深呼吸をして、ゆっくりと体を離す。少し悲しそうに微笑んで。
「待っている」
「・・・うん」
罪悪感で死にそう。
エーミールの部屋に着いた時、気持ちを切り替えるためにニッコリした。エーミールも私の顔を見てニッコリ。そして、出掛ける前にお茶を飲むと言ってオリヴァに席を外してもらっていた。
「ユウナギ、どうした?」
「・・・ごめん。自分の失敗に落ち込んで悲しくなった。少ししたら、平気になる」
「・・そうか。グラウの奴、婚約者を悲しませるような真似を」
「いやいやいや、違う違う。オリヴァは悪くないから」
「森の夫か?」
「ううん、全然。私の気持ちの問題。・・・エーミールさん、慰めてくださいますか?」
「ククッ、私の愛しい妻よ、こちらへ」
エーミールの側に行くと抱きしめられ、そっとキスをされた。優しく啄み、唇の端を舌が撫でていく。片手が乳房を柔らかく揉み始めた。
「・・・エーミールさん、慰めとはそういう慰めではないと言いますか」
「ん?優しい慰めだろう?私のところへ来たのに、他の男のことを引き摺っている妻を振り向かせるにしては」
いっやっみっ!そりゃ、私の気遣いが足りませんでしたよ。ええ、本当に。しかし、その優しいキスに嫌味が含まれていると知るのは、大変恐ろしいもんですよ。怖や怖や。
エーミールに強く抱きついて胸に顔をこすりつけた。
「夫が怖い。・・・おお、夫よ、いったい妻はどう許しを乞えばいいのでしょうか?夫の怒りを解くための生贄をお教えください」
「クククッ、妻よ、そなたの寛大な夫は、口付け一つで罪を許そう」
「なんと優しい夫なのでしょう。では、妻から寛大な夫へ、口付けを捧げます」
エーミールの頬を手で挟んでそっと口付ける。小さく啄んで唇の合わせ目からゆっくりと粘膜を舐めると、エーミールの口が薄く開いた。舌を差し入れて歯列をなぞると、後頭部を押さえられ、エーミールの舌が絡みついてくる。舌を絡めながら抱き合い、息が荒くなって腰が動き出したところで唇を離した。
「捧げものは終わりか?」
甘い声と悪戯っぽく笑う濡れた目が色気を纏って、私を惑わせる。熱を帯び始めた体でエーミールに寄りかかり、息をゆっくり吐いた。
なんか、段々と色っぽくなってる気がする。私にも分けてほしい。
「お出掛けだからね」
「そんな濡れた目をして外に出てはダメだ」
「エーミールこそ。色気垂れ流して」
「クッハハハッ、酷い言われようだ。ハハハ。ククッお茶を飲んで一息つこう」
二人でゆっくりお茶を飲む。
「出掛ける時は、ユウナギもローブと手袋を付けてくれ。魔法使いと魔法使いではない女性が一緒に歩くと目立つからな」
「はーい」
エーミールがオリヴァを呼び、送ってもらう。最初にエーミール、次に私。エーミールを送って戻って来たオリヴァに抱きつく。先に気持ちを伝えようと思った。私からオリヴァに何も伝えてない。
「・・・オリヴァ、あの・・私も婚姻したいと思ってる。もうすぐ、傷も治る」
オリヴァが一瞬固まったあと、抱きしめ返してくれた。良かった。嬉しくて、笑って見上げたら目が合って、オリヴァも笑った。ぎゅうぎゅう抱き合う。嬉しい。悲しそうな笑顔じゃない、普通の笑顔だ。良かった。
体を離して手を繋ぐ。笑いながら送ってもらった。到着したのはいつぞやの神殿だ。神殿から神殿へ。神殿はゲートだったのだ。古代遺跡だ。エーミールの側に行き笑いかける。振り向いてオリヴァに手を振る。オリヴァも笑顔で消えた。
「・・随分と楽しそうだな」
「笑ったから。笑って良かった」
ムスッとした顔のエーミールが私の両腕を掴み、強引にキスをした。舌を捩じ込んで口中を舐め回す。強引なエーミールの舌に応えて軽く吸いつくと、満足したのか唇が離れた。
「・・どうしたの?」
「妻の罪を許すには口付けが一つ必要だと言っただろう?」
「え、笑っただけなのに」
「私以外に気を取られるのが問題なんだ」
「一瞬たりとも気を逸らすなと、そう仰るわけですか」
「そうだ」
「・・随分と手厳しい夫ですね。それなら、楽しい散策に妻を連れ出してくださいな。妻は船を見たいのです」
「ああ、可愛い妻よ、出掛けよう」
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何日かして、畑でスープに入れる野菜を収穫しているとオリヴァが現れた。眉間に皺を寄せて不機嫌そうだ。
「・・・明日、出掛けるそうだ。今日は泊まりにこれるか?」
「・・今日は行かない。明日の朝、迎えにきてもらっていい?」
「わかった」
「・・・どうしたの?」
「何でもない」
消えてしまった。
そうだ、別に私に愛想よくする必要なんてない。彼には不愉快になる理由があり、それは私の浅はかさから発している。彼は既に撤回の願いを口にしたし、私はそれを流した。今更、どうしようもない。
つまり、私は彼を怒らせて、途方に暮れている。
アルとベルに明日の予定を伝え、泊まりになるかもと伝えた。
朝、オリヴァが迎えに来てくれた。昨日に引き続き不機嫌な顔だ。
「おはよう、よろしく」
「・・・ああ」
オリヴァに手を差し出すと、手首を強く引かれ抱きしめられた。強く強く。私も抱きしめ返す。強く。抱き合って立ち尽くした。何度か深呼吸をして、ゆっくりと体を離す。少し悲しそうに微笑んで。
「待っている」
「・・・うん」
罪悪感で死にそう。
エーミールの部屋に着いた時、気持ちを切り替えるためにニッコリした。エーミールも私の顔を見てニッコリ。そして、出掛ける前にお茶を飲むと言ってオリヴァに席を外してもらっていた。
「ユウナギ、どうした?」
「・・・ごめん。自分の失敗に落ち込んで悲しくなった。少ししたら、平気になる」
「・・そうか。グラウの奴、婚約者を悲しませるような真似を」
「いやいやいや、違う違う。オリヴァは悪くないから」
「森の夫か?」
「ううん、全然。私の気持ちの問題。・・・エーミールさん、慰めてくださいますか?」
「ククッ、私の愛しい妻よ、こちらへ」
エーミールの側に行くと抱きしめられ、そっとキスをされた。優しく啄み、唇の端を舌が撫でていく。片手が乳房を柔らかく揉み始めた。
「・・・エーミールさん、慰めとはそういう慰めではないと言いますか」
「ん?優しい慰めだろう?私のところへ来たのに、他の男のことを引き摺っている妻を振り向かせるにしては」
いっやっみっ!そりゃ、私の気遣いが足りませんでしたよ。ええ、本当に。しかし、その優しいキスに嫌味が含まれていると知るのは、大変恐ろしいもんですよ。怖や怖や。
エーミールに強く抱きついて胸に顔をこすりつけた。
「夫が怖い。・・・おお、夫よ、いったい妻はどう許しを乞えばいいのでしょうか?夫の怒りを解くための生贄をお教えください」
「クククッ、妻よ、そなたの寛大な夫は、口付け一つで罪を許そう」
「なんと優しい夫なのでしょう。では、妻から寛大な夫へ、口付けを捧げます」
エーミールの頬を手で挟んでそっと口付ける。小さく啄んで唇の合わせ目からゆっくりと粘膜を舐めると、エーミールの口が薄く開いた。舌を差し入れて歯列をなぞると、後頭部を押さえられ、エーミールの舌が絡みついてくる。舌を絡めながら抱き合い、息が荒くなって腰が動き出したところで唇を離した。
「捧げものは終わりか?」
甘い声と悪戯っぽく笑う濡れた目が色気を纏って、私を惑わせる。熱を帯び始めた体でエーミールに寄りかかり、息をゆっくり吐いた。
なんか、段々と色っぽくなってる気がする。私にも分けてほしい。
「お出掛けだからね」
「そんな濡れた目をして外に出てはダメだ」
「エーミールこそ。色気垂れ流して」
「クッハハハッ、酷い言われようだ。ハハハ。ククッお茶を飲んで一息つこう」
二人でゆっくりお茶を飲む。
「出掛ける時は、ユウナギもローブと手袋を付けてくれ。魔法使いと魔法使いではない女性が一緒に歩くと目立つからな」
「はーい」
エーミールがオリヴァを呼び、送ってもらう。最初にエーミール、次に私。エーミールを送って戻って来たオリヴァに抱きつく。先に気持ちを伝えようと思った。私からオリヴァに何も伝えてない。
「・・・オリヴァ、あの・・私も婚姻したいと思ってる。もうすぐ、傷も治る」
オリヴァが一瞬固まったあと、抱きしめ返してくれた。良かった。嬉しくて、笑って見上げたら目が合って、オリヴァも笑った。ぎゅうぎゅう抱き合う。嬉しい。悲しそうな笑顔じゃない、普通の笑顔だ。良かった。
体を離して手を繋ぐ。笑いながら送ってもらった。到着したのはいつぞやの神殿だ。神殿から神殿へ。神殿はゲートだったのだ。古代遺跡だ。エーミールの側に行き笑いかける。振り向いてオリヴァに手を振る。オリヴァも笑顔で消えた。
「・・随分と楽しそうだな」
「笑ったから。笑って良かった」
ムスッとした顔のエーミールが私の両腕を掴み、強引にキスをした。舌を捩じ込んで口中を舐め回す。強引なエーミールの舌に応えて軽く吸いつくと、満足したのか唇が離れた。
「・・どうしたの?」
「妻の罪を許すには口付けが一つ必要だと言っただろう?」
「え、笑っただけなのに」
「私以外に気を取られるのが問題なんだ」
「一瞬たりとも気を逸らすなと、そう仰るわけですか」
「そうだ」
「・・随分と手厳しい夫ですね。それなら、楽しい散策に妻を連れ出してくださいな。妻は船を見たいのです」
「ああ、可愛い妻よ、出掛けよう」
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