ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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77.回復報告

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2話投稿 1/2


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私を包んでいた温かな体が動くのに気付いて、目を開けた。目が合うとミカは微笑んでキスをくれる。私は愛情を受けて幸せを感じる。アルを傷つけておいて、幸せを感じてしまう。

起きて身支度をした。ミカは水汲みに行く。私は竈の火を掻き起こし、残ったお水でお湯を沸かす。水瓶を洗い、トイレ用の葉っぱを摘みに行く。水汲みから帰って来たミカと体を洗う。お湯でしっかり洗えてサッパリした。体もスッキリ。だいぶ痩せてしまった。食欲がなくてほとんど食べてなかったから。皮膚も弛んだ感じがする。悲しい。
二人とも綺麗になって後片付けが終わったら、手を繋いで木の実を食べに行った。ミカは色んな木の実を知っている。酸っぱめの実を食べて、私が顔をしかめるとミカが楽しそうに笑う。少しだけ齧って味見した実を唇で挟んで、私の口に移してくれた。私も味見して、ちょっと酸っぱいのを知らないフリして口移ししたら、ミカが顔をしかめるので、二人で笑った。

朝はオリヴァの髪を結う約束をしてると話すと、知ってると言った。熱さましの薬草はオリヴァが毎日持って来てくれたらしい。私の顔を見たがってたけど、絶対家に入れなかったって。

「だって、魔法使いがユウを治療棟に連れて行くって言ったから。ただの風邪なのに。ユウに会わせたら攫われちゃうから」
「ちりょうとう?」
「神殿には病気とか怪我とかを診てくれる場所があるんだ。治療棟って言うんだよ」
「へー、そんなとこがあるんだ」
「そう。本当の病気になったら連れて行くけどね。魔法使い呼ぶ?はい、指輪返すね。指輪の場所に飛べるからユウから離しておいた」
「ふふっ念の入れようが凄い」
「だって、ユウを攫われたくないから」

ミカにギュッと抱きしめられる。腕の中にいるのが嬉しくて、ミカを見上げると、優しい微笑みで顔中にキスをされた。
嬉しくて幸せで、ミカが愛しかった。凄く、凄く、好きだった。ただ好きなだけでよくて、それだけで満たされた。ミカが好きで、好きなことが嬉しかった。好きな人に愛されて、幸せで笑った。

「ミカ、ありがとう」
「ユウ・・・ああ、俺、どうにかなりそう。魔法使い呼ばないで、ベッドに行こうよ。ユウ」
「ふふふっ、なあに?ミカ、どうしたの?」
「ユウは俺が好きなんだ。ユウは俺のこと、凄く好きなんだ。そんな顔した」
「そうだよ。顔に出てた?」
「うん。ユウ嬉しい。凄く、凄くだよ。本当に。ねえ、ユウ、俺、堪らない」
「ミカ、凄く好きなのは変わらないよ。オリヴァに薬草のお礼を言わなきゃ。髪を結って帰って来ても、ミカのこと凄く好きなままだよ」
「俺、ああ、ユウ。・・・わかった、待ってる。帰って来てね。俺のとこに」
「うん。ミカのとこに帰って来る」

そう言って、優しいキスをした。

オリヴァを呼ぶとすぐ現れた。焦燥にぬれた顔で私を見てる。歩み寄って抱きしめると、痛いくらい抱きしめ返された。

「薬草ありがとう。心配かけてごめんね」
「・・・良かった」
「うん。オリヴァの部屋で結おうか。ミカ、行ってきます」

ミカに振り向いて手を振ってすぐ、オリヴァの部屋に飛んだ。オリヴァは私を抱きしめたままだ。オリヴァの細い体がまた少し痩せたように感じる。私も痩せたので骨が当たって痛い。しがみつくオリヴァの背中を撫でて宥める。

「オリヴァ、大丈夫だよ。ただの風邪だったんだから。オリヴァはちゃんとご飯食べてるの?ちゃんと食べないと、私より病気になっちゃうよ。心配だから食べて」
「・・・食べさせてくれたら食べる」
「・・オリヴァってば。うーん、明日のお昼ならどうかな。聞いてみるよ」
「・・今日は?」
「今日はダメなの。今、部屋に何かないの?」
「ない」
「そうか。・・・じゃあ、髪梳かすから座って」

大人しく座ったオリヴァの頭に口付けると、私向きに座り直し、腰に抱き付いてきた。仕方がないので髪を持ち上げて梳かしていく。

「・・・すまない。私のせいで疑われて」
「何を?」
「ユウナギの不貞を。私が急に求婚したから。それで追い出されたんだろう?」
「理由はよく分からなかったんだ。そっか、不貞か。前から通じてたように見えたのか」
「すまない」
「もう起きたことだし、仕方がないよ。それに、私のせいだから、いいんだ。結うからうしろを向いて」
「・・・・・ユウナギのせいじゃない。なぜ、そんな風に言う?」
「んー、内緒にする?」
「する」
「オリヴァが好きだったの。最初から。一目見て、忘れられなかった。だから、私の不貞で間違いないの」

淡々と言葉が出た。
そう、だから私が悪いんだ。オリヴァのこと考えてたし、手が触れるたび喜びと疚しさがつのった。オリヴァに抱かれた幸せに酔った。酔って無自覚に傷付けた。無自覚ってタチ悪いよね。

「・・・・・最初から?」
「うん。軽蔑した?はい、結えたよ」
「・・・嬉しくて・・よくわからない」
「・・・嬉しくて良かった。エーミールのところ行こうか。オリヴァは部屋に戻ってね。終わったら呼ぶから。そんな顔してたら内緒にできないよ」
「・・・わかった」

オリヴァは私を抱きしめてキスをした。ゆっくりと深く潜って行く。唇を離すと濡れた目のオリヴァに見つめられた。きっと私の目も濡れている。

「ユウナギ、ずっと触れたかった。初めて手に触れた時から。もう、触れることができる」
「うん。妻だからね」

私もそうだよ。
オリヴァの手を取って頬に当てて笑う。オリヴァも嬉しそうに笑って、私の頬を撫でる。ひとしきり撫で合ってから、エーミールの部屋へ飛び、私を置いてオリヴァは自分の部屋へ戻った。

「エーミール、おはよう、久しぶり」
「熱は下がったのか。グラウがせっせと薬草を運んでたからな」
「うん、そうなの」
「?何をそんなに笑ってるんだ?」
「ぐっ、ぶふっ、だって、あはは、ふっ、オリヴァが、あはは」
「グラウが?」
「あはは、ははっ、だって、感動的なのに、ぐふっ、話の内容が、私の体目当てで、あははは」

なんか、ツボに入った。物言いがあからさまに体目当て過ぎてウケる。本人はそんなつもりないだろうけど、内容とセリフの切なさがギャップあり過ぎて。
しゃがみ込んで笑う。しばらく笑ってから、息を整えて立ち上がると、エーミールが呆れ顔をしていた。

「ユウナギ・・酷いぞ、グラウの気持ちをだな、」
「いやいやいや、分かってます。大事に思われてますし、大事に思ってます。ただ、雰囲気がとっても素敵なのに内容が体のみなものだから、ちょっと面白くなっちゃって」
「グラウは何を言ったんだ?」
「いや、それは二人の話だから言わないけど。ごめんごめん、さあ、髪を梳かそう。ぐふっ」

なんかテンション狂ってるな。病み上がりだからか?
エーミールの綺麗な金髪を梳かす。サラサラだね。

「まあ、睦言ってそんなもんだからな。素面になると可笑しいものだ」
「そうなの。急に素面になっちゃって。エーミールなら分かってくれると思った」
「分かるが、他所で笑われてると思うと言えなくなるぞ」
「エーミールの前だけだよ。エーミールも言って楽しむでしょ?睦言は私も好きだよ。無いと味気ない」
「まあな。分かってて楽しむのはいいが、本気で言ってるのに笑ってやるな」
「多分、この次、言われたら本人の前で笑うと思うわ。可愛い人をからかうのも楽しいよねぇ」
「・・・グラウが気の毒になるな。随分と元気になって良かった」
「うん、ありがとうエーミール」

うしろからエーミールに抱き付き、頭にキスをして首元に鼻を埋めた。

「・・・香水付けた?」
「ああ。・・・臭いか?」
「ぶふっ、ふっ、臭くないよ。まだ気にしてたの?」
「する。ユウナギは、もう少し私を気遣え」
「うん、気付いたらする。・・・香水は良い匂い。誘われる匂い」
「・・この香りが好きか。次に会う時はこれを付けよう」
「うん」

エーミールの首筋にキスをしてチロリと舐めると、エーミールが立ち上がり私を抱きしめる。

「私にも悪戯するのか。グラウにはどんな悪戯を?」
「二人の秘密。他の夫のことは話さない。だから、エーミールとのことも、二人のだけの秘密」
「二人の時間は二人だけの秘密なのか?」
「そう。私にできるせめてもの誠実。だから、エーミールも他の夫に私のこと聞いちゃダメだよ」
「ユウナギをどうやって喜ばしているか聞きたかった」
「ふふふっ、嘘。エーミールは十分、私を喜ばせてるし」
「十分か?」
「うん。分からない?」
「・・・・・そうか」
「さあ、帰ろうかな。オリヴァを呼ぶ」

エーミールが私の唇に、指を置いて滑らせた。エーミールの口元は笑ってるのに、目が少し悲しそうで困惑する。

「私を頼る気は無いか?頼りないか?」
「エーミールの邪魔はしないよ」
「最初から頼ってくれた方が心配しなくて済む」
「・・・言いたくなかった」

声が震えてしまった。泣いてしまいそう。湧いてくる涙を抑えていると、エーミールが頭を撫でて来た。

「そうか、ユウナギはまだ子供だな」

笑ってしまう。子ども扱いされて安心する自分に。瞬きで零れた涙をエーミールの指が拭った。

「心配かけてごめんね」
「元気になったのなら良い」

オリヴァに送ってもらって森に帰る。森ではミカが待っている。


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