ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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94.夫会議

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今晩は夫会議。ユウを参加させないため、全員で森番の家に集まった。
夫だけで集まるのは初めてのことだ。
緊張の面持ちでミカが口火を切る。

「ユウが泊まりに行く日にちを相談したいんだ。最初から決めてあればユウを困らせたりしないでしょ」

困らせた記憶のある夫、つまりミカ以外の全員は神妙に口をつぐんだ。
ミカがユウと話し合った生理のときと、5日間ごとに泊るという内容を告げる。

「私は難しいな。時間ができたときじゃないと」
「うーん、じゃあ、筆頭は時間ができたときに入って、次の夫はうしろにずれるってことでどうかな?」
「ああ、そうしてくれ。」
「みんなもそれで良い?」

他の夫達も頷く。すんなり決まって、ミカはホッと息を吐いた。

「明後日から森番の家に泊まりに行くね。その次が俺で、俺の次が魔法使い。取り敢えず、筆頭は抜かして順番にするから」
「・・・わかった」

なぜ自分が最後なのかと多少腹立たしく思ったが、年下の前で言うのも大人げなくて恥ずかしく、小さく頷くオリヴァ。に、呆れた目線を送り、ため息をついたあとエーミールが話を切り出した。

「私からも話がある」

エーミールがしかつめらしい顔で静かに声を出し、何事かと全員が目を向けた。

「ユウナギのことだが、あまり我儘に付き合わせないように」

何の話か分からずオリヴァは訝し気に眉を寄せ、ミカはきょとんとした顔をしている。

「ユウナギは我儘を言わないだろう?自分から願いを口にすることもない。我々から尋ねれば答えてくれるが、それは言わせているだけだ。いつだって我々が簡単に出来そうなことを選んでいる」

それぞれ思い当たる節があるのか、黙りこくって考え込んでいる。

「ユウナギのあれは、なんていうか習い性だな。自分に価値を置いてないんだ。頼らない理由もそうだ。自分のことを必要ない人間だと思っている」
「・・・なぜ、そんな風に?」
「さあな、育ちか性質か知らんが、捨て子や売られ子なんかによくいる」

オリヴァも森の夫達も眉を寄せ、痛ましいような顔をして宙を見た。

「今はお前達の我儘に付き合っているし平気だろうが、一方的な関係は長続きしない。早晩破綻するぞ。ユウナギがもたない。そういう結末は嫌になるほど周りで見てきた。お前達はユウナギの自己卑下に付け込んで好き勝手していることを自覚したほうがいい」
「・・破綻とは?」
「我儘に付き合いきれなくなって喧嘩別れしたり、精神的な不調を起こしたり、優しくて気遣いのできる他の相手を選んだり、色々だ。別れるのは構わないが、ユウナギの場合は精神的な不調になりそうでな」

あごを親指でこすり苦虫を嚙み潰したような顔で大きなため息をついた。

「このあいだもそうだったろう?倒れても一人でいた。ユウナギが自分のせいだと言うから何もしなかったが、森番は他の夫から排除されても仕方のないことをしたんだからな。お前達がきちんと教えていれば、ユウナギの行動も少しは違っただろうに。自分達の行いを少しは振り返れ」

アルとベルは唇を噛んで黙り込んだ。
オリヴァは冷たい目で双子を一瞥し、エーミールに向き直る。

「ユウナギはどうしたら甘える?」
「私に聞くな。自分で考えたらどうだ。だから人付き合いしろと言っている」
「ユウは甘やかすといいよ。俺に甘えるもの」

ミカの声に一斉に驚き、この一番若い穏やかに微笑む夫を見つめた。
ベルが驚いて声を上げる。

「えっ?ミカに?ユウが甘えるの?どうやって?」
「ふふっ、子供みたいな我儘言って可愛いよ」
「ええ、そうなの?ユウが?子供みたいに?」
「うん。ユウは捨て子で、怖がりだから安心させてあげなきゃいけないんだ」

年若い夫の持論を納得して受け止めたが、二人の関係性が少々羨ましく、エーミールはミカから目を逸らし小さく息を吐いた。

「・・・まあ、甘え先があって良かった。今のところ、私と炭焼きがユウナギの頼り先だ」
「お前が?」
「私は、どちらかというと話し相手だ。お前達みたく取り乱したりしないからな。相手によって付き合い方は変わるものだ。それより、間違ってもユウナギに、甘えろ、なんて迫るなよ。余計に気を遣わせるだけだからな」

そう言いながら、オリヴァ見据える。小声で『するか』と反論したオリヴァに、ため息をついて目を閉じた。

「私の話は終わりだ。他になければ炭焼きを送ってくれ。ユウナギが待っているだろうから」

エーミールが首をまわしながら言うと、オリヴァはミカに近寄り、肩に軽く手を乗せて家まで飛んだ。

家の前に着くと、窓からもれる灯りがぼんやりと夜を照らしている。ゆっくり揺れる灯火の光に静かな歌声が混じり、暖かな幸福が主を待ちわびているように見えた。
家の中ではユウナギが待っている。帰ってきた夫に子供のように甘えるのだろうか。酷く羨ましく、オリヴァは家から目が離せなかった。

「・・家の子になってからだよ。ユウが甘えたの。だから、魔法使いも優しくしながら待つといいよ。時間がかかるんだ」

穏やかに言われて我に返ると、手を肩に置いたままだった。急いで手と体を離す。

「・・・すまない」

随分な年下に穏やかに諭され、恥ずかしさで耳が熱い。ミカは静かに微笑んでかぶりを振っている。
この穏やかさに後押しされ、聞かずに後悔するくらいなら、と恥ずかしさを押さえて口に出した。

「・・・甘やかす、とはどのように?」
「ずっと一緒だって、好きだ、っていっぱい言うといいよ。優しく撫でたり、抱きしめたり、軽く口付けるのもユウは好きだよ」
「・・・わかった。ありがとう」

いたたまれなくなり下を向いてお礼を言った。

「怖がりだから優しくしてあげてね。おやすみ、魔法使い」

そう言って微笑み、家に向ってドアをノックした。

炭焼きは最後まで穏やかにユウナギのことを気遣った。ユウナギのことだけを。
他の夫に頼むなんて。

ドアが開いてユウナギの穏やかな声と炭焼きの優しい声が聞こえる。ドアが閉まると暖かさから締め出された気がして胸が痛んだのに、すぐドアが開いた。

「オリヴァ!」

笑顔のユウナギが顔を出し、駆け寄って抱きつかれた。幸福が迎えにきてくれたみたいで、切ない喜びとともに抱きしめる。

「送ってくれてありがとう。約束かなった?」

ああ、先に私のことを気にかけてくれる。
そのことに気がつき嬉しくて抱きしめる腕に力が入った。

「かなった。ユウナギ、ありがとう」
「よかった」
「ユウナギ、好きだ」
「・・・嬉しい、ふふふ」

そう言って、本当に嬉しそうに恥ずかし気に笑うので、震えが胸に溢れて鼻がツンとした。体を離して笑い掛け、柔らかな唇に唇で触れて挨拶をする。

「また明日の朝に」

笑顔のユウナギに手を振り、森番の家に戻る。家の中ではヘルブラオが苛ついていた。ユウナギと会ったと言うと、余計なことを話してないか疑うので、言い返す。

「お前とは違う。大体お前は説教臭いんだ」
「お前達が説教されるようなことをするからだろう」
「その説教でユウナギを詰めるなよ」
「ユウナギを詰めてるのはお前だろう。嫉妬も大概にしておけ」
「お前だって大概だ。ユウナギとの散策を邪魔して」

魔法使い二人は言い合いをしながら、双子に片手を上げて挨拶をすると消えた。

「・・・ユウって大変だね。あんな面倒な魔法使い達の相手して」

ベルがため息をつきながら言うとアルも頷いて同意した。

「・・ユウはさ、喧嘩する前はさ、少しだけど甘えてたよね?」

ベルが慎重に確かめるように言った。アルはそれに真剣な顔で頷き、同意を示す。
そう、前は、甘えていた。なぜ甘えていた?
その問いが二人の胸を叩く。

「ユウは、ユウはちゃんと俺達を家族だと思ってたのに、俺、酷いことしちゃった。こっちのこと教えなかったのは俺達なんだ。俺、俺、親と同じこと、ユウにしてたのかな」

ベルが項垂れて両手で顔を覆った。引き結んだアルの口から慰めの言葉は出ない。ベルと同じことをアルも思っていたから。


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