97 / 139
96.後悔と焦燥 Side アル
しおりを挟む
2話投稿 1/2
___________
Side アル
ユウと会えた。
ユウと会って、抱き合った。
ユウが俺の名を呼んだ。また、ユウの名を呼べた。
柔らかさが減ったユウの体を抱きしめると胸が痛み、同時にほの暗い満足もあった。俺がユウに力を及ぼせたことに。
ユウが何も言わなかったわけが分かった。ユウが俺達に嫌われたと思ってたなんて知らなかった。ユウが俺達の家にいたいと思ってたことも。
嫌うなんてあるわけない。胸が痛くて苦しかった。俺の気持ちが伝わってなかったことも伝えてなかったことも、ユウの気持ちが分からなかったことも。
ユウに抱き付いて泣いた。ユウもベルも泣いてた。
ベルがそんなに寂しいのにも気付かなかった。
俺達を独占したいと言った。俺がユウを独占したいように、ユウもそう思ってくれている。聞いたときはすごく嬉しくて、体が熱くなった。
俺とベルはユウを愛していて、ユウも俺達を愛している。
朝、俺を見たユウは笑ってて、俺を好きだと言ってるような笑顔だった。今まで何度も見たことがある、俺に優しさをくれる笑顔だった。忘れていた。俺にもこうやって笑い掛けてくれてた。なんで、同情だと思ったりしたんだろう。
これからも、ユウが家にきて俺達と過ごしてくれる。嬉しいのに、俺はまだ許せないでいる。
関係が戻った今の幸せが覆い隠したその下に、あの時の怒りと悲しみの跡が残ったまま。それが棘のように俺を刺した。
ユウは謝ったし、ベルは許した。俺はもうユウを失いたくない。あのことはもう忘れなければと思うのに、傷はまだ痛み熱を持つ。
ユウとベルは屈託なく笑い、俺だけが影に囚われてるように感じる。
ユウは償いをすると言った。俺の望む償いを。俺が傷ついた分だけ。償いを望んで、取り戻した幸せは壊れないでいられるだろうか?
このまま、この気持ちを閉じ込めておいたらいつか忘れられるだろうか。
夫会議で筆頭に言われた。排除されても仕方がないと。俺もそう思った。
ユウに何も教えなかった。俺達に縛りつけたいから。ユウを閉じ込めておきたかったから。それなのに追い出した。何も言わずに。
自分のことしか考えてなかった。愛してると答えてくれることだけ望んでた。ユウの気持ちは何一つ知らなかった。
頼りたかったのは俺だと言っていた。最初にユウを見つけたから。俺達に頼れないからユウは倒れたんだろうか?
俺は何をした?俺はユウに自分だけを頼らせておいて、拒絶した。
・・・酷過ぎる。
ユウは今、何を思ってる?ユウは俺達の仕打ちをどう思った?ユウは謝ったのに、俺は許せなかった。自分のしたことなんて考えてなかった。それなのに、会いにきてくれたユウに愛を縋った。ユウに縋り付いてユウを欲しがった。
ユウはなぜ今も愛してくれるんだろう。俺は何ができるんだろう。
ユウは悲しみも押し殺してた。今も。少しだけ泣いてすぐ笑う。仕方がないって顔して。俺を見て辛そうな顔をする。こんな時でも俺のことを考えてくれる。そんなユウが悲しかった。自分の悲しみを感じないようにしているユウが。
競争と言って急に走り出したユウを、あっけに取られて見送ったら、ベルも走り出した。俺も遅れて走る。ユウが息を切らして、必死に走ってるのにそれでも遅くて、それがなんだか可笑しくて、笑った。ユウもベルも笑う。
こうして心を軽くして、やり直しできるって教えてくれる。
ユウが俺達を一緒に抱くために腕が足りないと言った。いつもそう、俺達を一緒に大事にしてくれる。
俺達は話をした。ユウと俺達、両方の。
ユウも俺達と似ていた。でも、ユウは一人で俺達は二人。それなのに俺達を慰めてくれる。ユウは一人だったから悲しまないようにしてきたのかもしれない。
ミカはユウが『怖がり』だと言っていた。悲しむことを怖がっているのかもしれない。
ユウに貰ってばかりだ。それなのに、俺は際限なく欲しがる。ずっと一緒にいたいのに、破綻したくないのに、足りなくて胸が苦しい。ユウを手に入れたい。どうしたらいいんだろう。愛されてると分かっているのに、なぜ?
空っぽの家を思い出す。ドアを開けるたびに味わった失望と怒りを。
俺は手放したまま何もしなかったのに、またユウをこの腕に抱けた。どうして捕まえておける?何もせず手に入ったのにどうやって留めておけるんだ?
狂おしく求めた愛情が、手から零れ落ちそうな焦燥に駆られ、胸を掻き毟った怒りの記憶が、まだ足りないと、狩りとれと叫ぶ。
ユウの愛情がいつのまにか手に入ったように、いつのまにか消えてしまいそうで怖い。
___________
Side アル
ユウと会えた。
ユウと会って、抱き合った。
ユウが俺の名を呼んだ。また、ユウの名を呼べた。
柔らかさが減ったユウの体を抱きしめると胸が痛み、同時にほの暗い満足もあった。俺がユウに力を及ぼせたことに。
ユウが何も言わなかったわけが分かった。ユウが俺達に嫌われたと思ってたなんて知らなかった。ユウが俺達の家にいたいと思ってたことも。
嫌うなんてあるわけない。胸が痛くて苦しかった。俺の気持ちが伝わってなかったことも伝えてなかったことも、ユウの気持ちが分からなかったことも。
ユウに抱き付いて泣いた。ユウもベルも泣いてた。
ベルがそんなに寂しいのにも気付かなかった。
俺達を独占したいと言った。俺がユウを独占したいように、ユウもそう思ってくれている。聞いたときはすごく嬉しくて、体が熱くなった。
俺とベルはユウを愛していて、ユウも俺達を愛している。
朝、俺を見たユウは笑ってて、俺を好きだと言ってるような笑顔だった。今まで何度も見たことがある、俺に優しさをくれる笑顔だった。忘れていた。俺にもこうやって笑い掛けてくれてた。なんで、同情だと思ったりしたんだろう。
これからも、ユウが家にきて俺達と過ごしてくれる。嬉しいのに、俺はまだ許せないでいる。
関係が戻った今の幸せが覆い隠したその下に、あの時の怒りと悲しみの跡が残ったまま。それが棘のように俺を刺した。
ユウは謝ったし、ベルは許した。俺はもうユウを失いたくない。あのことはもう忘れなければと思うのに、傷はまだ痛み熱を持つ。
ユウとベルは屈託なく笑い、俺だけが影に囚われてるように感じる。
ユウは償いをすると言った。俺の望む償いを。俺が傷ついた分だけ。償いを望んで、取り戻した幸せは壊れないでいられるだろうか?
このまま、この気持ちを閉じ込めておいたらいつか忘れられるだろうか。
夫会議で筆頭に言われた。排除されても仕方がないと。俺もそう思った。
ユウに何も教えなかった。俺達に縛りつけたいから。ユウを閉じ込めておきたかったから。それなのに追い出した。何も言わずに。
自分のことしか考えてなかった。愛してると答えてくれることだけ望んでた。ユウの気持ちは何一つ知らなかった。
頼りたかったのは俺だと言っていた。最初にユウを見つけたから。俺達に頼れないからユウは倒れたんだろうか?
俺は何をした?俺はユウに自分だけを頼らせておいて、拒絶した。
・・・酷過ぎる。
ユウは今、何を思ってる?ユウは俺達の仕打ちをどう思った?ユウは謝ったのに、俺は許せなかった。自分のしたことなんて考えてなかった。それなのに、会いにきてくれたユウに愛を縋った。ユウに縋り付いてユウを欲しがった。
ユウはなぜ今も愛してくれるんだろう。俺は何ができるんだろう。
ユウは悲しみも押し殺してた。今も。少しだけ泣いてすぐ笑う。仕方がないって顔して。俺を見て辛そうな顔をする。こんな時でも俺のことを考えてくれる。そんなユウが悲しかった。自分の悲しみを感じないようにしているユウが。
競争と言って急に走り出したユウを、あっけに取られて見送ったら、ベルも走り出した。俺も遅れて走る。ユウが息を切らして、必死に走ってるのにそれでも遅くて、それがなんだか可笑しくて、笑った。ユウもベルも笑う。
こうして心を軽くして、やり直しできるって教えてくれる。
ユウが俺達を一緒に抱くために腕が足りないと言った。いつもそう、俺達を一緒に大事にしてくれる。
俺達は話をした。ユウと俺達、両方の。
ユウも俺達と似ていた。でも、ユウは一人で俺達は二人。それなのに俺達を慰めてくれる。ユウは一人だったから悲しまないようにしてきたのかもしれない。
ミカはユウが『怖がり』だと言っていた。悲しむことを怖がっているのかもしれない。
ユウに貰ってばかりだ。それなのに、俺は際限なく欲しがる。ずっと一緒にいたいのに、破綻したくないのに、足りなくて胸が苦しい。ユウを手に入れたい。どうしたらいいんだろう。愛されてると分かっているのに、なぜ?
空っぽの家を思い出す。ドアを開けるたびに味わった失望と怒りを。
俺は手放したまま何もしなかったのに、またユウをこの腕に抱けた。どうして捕まえておける?何もせず手に入ったのにどうやって留めておけるんだ?
狂おしく求めた愛情が、手から零れ落ちそうな焦燥に駆られ、胸を掻き毟った怒りの記憶が、まだ足りないと、狩りとれと叫ぶ。
ユウの愛情がいつのまにか手に入ったように、いつのまにか消えてしまいそうで怖い。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる