122 / 139
番外編
9.夫達の反省会
しおりを挟む「ユウっ!?」
叫んで達したユウナギがしばらくしても麻痺したまま動かず、双子とミカが慌てだした。それを宥めるようにエーミールが声をかける。
「大丈夫だ。快感が強すぎると麻痺したりするんだ」
「ホントっ!?ホントに大丈夫?」
「ああ。私のときも麻痺したことがあるから、初めてじゃない」
「ええっ筆頭、ユウが麻痺するまで交尾してるの!?」
「え、いや、いつもじゃない。感度が良い日にそうなったことがあるだけで。膣と尻の両方を刺激すると、そうなる女性がたまにいて、ユウナギはそれなんだ」
「筆頭はユウが麻痺するって知ってて森番に教えたの?」
「いや、確実ではないが、まあ、そうなることもある、というぐらいで」
慌てている双子とミカを落ち着かせようと説明したのに、逆にミカに責められ始め、バツが悪そうに頬を人差し指で掻きながらエーミールが言い訳をした。麻痺するくらい感じさせることは自慢の類になる神殿と違い、逆に非難されてしまい狼狽える。
「俺たち全員の相手して大変なのに、ユウがそうなるって知ってて教えたんだ」
「いや、森番も経験できるだろうから」
「森番だって、二人いっぺんじゃなくたっていいのに、欲張って」
「だって、ユウだって嫌がらなかったし」
「ユウは断れないんだよ、俺達に優しくしたいんだから」
憤慨するミカにベルも語尾が小さくなり、アルは俯いた。知ってたら止めたのにと情けなさそうに眉を下げるミカに、三人とも罪悪感が刺激されてしまう。
ため息をついて気持ちを切り替えたミカは、意識のないユウナギを抱きあげた。
「ユウを洗ってあげなきゃ」
「俺、手伝うよ。袋も洗わなきゃ。筆頭、これどうやって洗うの?」
「石鹸で洗い流してくれ」
「わかった」
「筆頭、濡れた布団はどうする?」
「洗濯に出すから、汚れた部分だけ水洗いしておいてくれ」
「わかった」
ベルとアルも自分達のやることを見つけて動き出す。
ベッドに腰掛けたまま、まいったなと呟くエーミールをオリヴァがねめつけた。
「・・・ヘルブラオ、お前、よく私に偉そうに言えたな」
「・・・失敗したな。教えなきゃよかった」
「・・っは、はははっ、お前の顔、ははっ、見ものだったぞ」
「まいったな」
「お前は随分、楽しんでたようだし良いんじゃないか」
「お前こそ」
失敗した、と情けない顔のエーミールを、オリヴァが上機嫌に笑い飛ばした。
しばらくすると、綺麗に洗われて布を巻かれたユウナギが戻って来た。ベッドに寝かせたユウナギの静かな寝息に安心して、全員の気分が和らぐ。
「綺麗になったな」
「うん。浴槽って使いやすいね」
「お前達は外で水浴びしているんだろう?もう寒いだろうから、こっちの浴室を使ったらどうだ?」
「ありがとう、ユウが喜ぶよ、きっと」
「俺達は冬のあいだ水浴びしなくてもいいんだけどさ、ユウは嫌がるしね」
ベルが当然のように言った、『冬のあいだ水浴びはいらない』の言葉に、庶民との衛生観念の違いを感じ、エーミールがたじろぐ。ユウナギが可哀想だし、ユウナギが薄汚れるのもごめんだった。
「・・・いや、まあ、私も実家にいる間はそうだったがな、ユウナギが可哀想だから入っておけ」
「そういえば、筆頭もユウに臭いって言われたんだよね」
「ぶふっふっは、はははっ、ヘルブラオ、ははっ」
「うるさい。ユウナギが過敏すぎるんだ」
「そうだよ、俺達みんな臭いって言われたんだから」
「お前達と一緒にされたくはない。私は一応、綺麗好きなほうだ」
自分だけが言われていないオリヴァがエーミールを見て噴き出した。笑うオリヴァと、ミカに余計なことを話したユウナギに腹を立てて言い返すと、ベルが肩を持ってくれた。しかし、ベルの言い分には同意しかねる。冬のあいだ中、水浴びしなくても平気な人間と同じ括りに入りたくない。
「ユウの国の人って匂い少ない人が多いんだって」
「そういえば、こっちにきてからニンニクと玉ねぎばっかり食べるから、自分が臭くなったって言ってたよ」
「ユウのスープは味が薄かったな」
「そうだな。ユウナギのスープは食べるのが楽だった」
ユウナギの国の話を全員でする。婚姻事情は双子が話し、教育についてはエーミールが話した。
ひとしきり、話をしたあとでミカが全員に向かって問いかける。
「今日は全員揃ったけど、どうだった?」
「たまには良いんじゃないか?可愛らしいユウナギが見れるし」
「そうだな。可愛らしいが物足りないからたまにでいい」
「そういえば、筆頭、教えてくれてありがとう」
「ありがとう、筆頭」
「あれは、たまにするだけにしておけ」
ミカに責められたバツの悪さが後を引くエーミールは、双子にも一応注意した。
「そうだよ、ユウの体がおかしくなったらどうするの。無理させたら、ユウにしばらく触らせてあげないから」
「・・・わかった、気をつける」
「筆頭もだからね」
「・・わかった」
注意したのに、結局自分も指摘を受けて、なんとも情けない気分を引き摺る。
「筆頭、指だったら大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないか?指だと麻痺したことはない。爪で傷つけないように気をつけろよ。ユウナギは治癒が効かないからな」
「そうだね」
雰囲気に構わず乗り気なベルに半分呆れつつ、欲望に忠実過ぎる姿勢に感心してしまう。
話がひと段落したところで、アルが真っ直ぐオリヴァを見て声を掛けた。
「魔法使い」
「なんだ」
「以前は、すまなかった」
「・・いい、済んだことだ」
今では自分のやり方にも問題があったと認めているオリヴァは、静かに謝罪を受け入れた。自分とのことで責められているのに、自分を頼れるわけがないと気付いたし、ユウナギが自分のことを想っていたことは内緒なのだから。
「あれはグラウにも非があるからな。森番は今日、どうだったんだ?」
「ユウが、大事にされてるから、良かった」
「ユウが可愛かったよ。俺も恥ずかしがるユウを見たい。どうしたらいいかな?」
「色々試してみろ、としか言えないな」
「筆頭は色々してるの?」
「いや、ユウナギの同意がいるしな、あまり、してはいない」
ベルの質問に動揺してしまう。うっかり何か言ったらミカに接近禁止を言い渡されそうで、余計な質問をしてくれるな、と心の中で願った。
ミカの観察するような視線に目が泳いでしまう。
「本当に?ユウはあんまり断らないんだから、気を付けてよ?」
「ああ、大丈夫だ」
「お前、何してるんだ?」
「お前に言う必要ないだろう。私とユウナギの話だ」
「違うよ。ユウはみんなのユウなんだから」
「・・わかっている」
「ぶふっふっ、良いざまだ」
「うるさい。お前だって散々ユウナギを振り回しているだろう。自分のことを反省しろ。まったく」
今度はオリヴァが余計なことを言ったせいで、また注意される。なぜ私ばかり、と思いつつ、ニヤニヤ笑うオリヴァに八つ当たりした。
今日は形勢が悪すぎるからここいらでお開きにしておこうと、撤退を決定して話を振る。
「ユウナギはここで寝かせるのか?お前達はどうするんだ?」
「心配だからユウは連れて帰るよ」
「ミカ、俺達の家に泊ってくれ。俺も見ていたい」
「うん、いいよ。魔法使い、森番の家まで送ってくれる?・・・魔法使い、ユウを抱っこできる?」
「・・・膝の上で抱くから大丈夫だ」
「魔法使いは細いもんね、仕方ないよ」
ミカに心配された上に、ベルにも同情されて憮然とするオリヴァを眺め、腹の中で笑った。他人のことを笑った罰だと、愉快な気分になる。
あらためて、森の夫達と自分達を見比べ、分野が違うと心の中で首を振った。他人のことは言いっこなしだ。
オリヴァが夫全員を送り、最後にユウナギを膝に抱き上げて森番の家に送った。
なんにせよ、無事に終わったと安堵のため息をつく。ミカに責められたせいか、解散できてほっとした。
双子と絡むユウナギは、なかなか倒錯的で楽しめたと思い出し笑いをしながら、シーツを変えたベッドに寝転んだエーミールは、心地よい疲れに目を閉じた。
____________
次話が番外編最終回です。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる