ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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番外編2

5.甘えて欲しい Side オリヴァ ※

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Side オリヴァ

 今日からまた3日間、ユウナギが泊まりに来る。浮き立つ気持ちで朝の送り迎えをした。ユウナギに夕食を聞き忘れたとヘルブラオに言われ、すぐ確認しに行く。森番の家のドアを叩こうと近付くと、ユウナギの声が聞こえた。

 聞いたことのない、甘えた声。
 舌ったらずな甘えた話し方も聞いたことがない。

 これは本当にユウナギが?
 炭焼きに甘えると聞いていたが、こんなふうに? こんな、甘ったるく?

 胸に痛みが走る。私の知らないユウナギ。私には見せない顔を炭焼きの前でしている。そして、ユウナギからベッドに誘った。甘ったるく強請って誘った。
 私は知らない。こんなふうに誘われたことはない。いつも私から誘ってユウナギが受け入れる。

 酷く驚いてぼんやりしていたら、ユウナギの濡れた声が微かに聞こえてきた。声が聞こえる壁際へ向かい、耳をそばだてて息を殺した。
 そして聞こえる、執拗に炭焼きをねだる声。狂おしいほどに求めるユウナギ。そのどちらも、聞いたことがない。

 愕然として、ふらふらになりながら自分の部屋へ戻った。
 動悸が酷く、貼りついたような口の中へ水を流し込み、深呼吸をした。

 ……私にも強請ったことはある。泣きながら。あの時は、すれ違いがあったから。初めてのときもユウナギから触れてくれた。口付けをして涙が流れた。

 私のことはどう思ってる? 今の私は?
 求められないのは、なぜ? 強請られないのは?
 ユウナギ。

 夕食の時、聞いてしまったことを知られ、拒絶された。話も聞いてもらえない。
 1人で冷えたベッドに沈む。火鉢の灰は白く、吐いた息も白かった。
 ユウナギの暖かな体を思い出し、胸が痛んだ。

 翌朝、ヘルブラオの部屋に行っても会えなかった。ユウナギが会いたくないと言っていると聞かされ、胸が苦しい。森へ帰らないからと伝言を頼まれたので、沈んだ気持で森番の家に飛び、出てきた炭焼きにユウナギが帰らないことを伝えた。

「なんで帰らないの? 何かしたの?」
「……私に会いたくないと……昨日の朝、ここに来て聞いてしまったから」
「聞いた? 昨日の交尾のこと?」
「たまたま聞こえて、……驚いて帰るのが遅くなっただけだ」
「ああ、驚いたんだ。ユウが甘えるから?」
「そうだ。……あんな、……聞いたことがない」
「俺も最近だよ。ユウがやっと慣れてきたんだ。今は一日中一緒にいるからね。魔法使いも焦っちゃダメだよ」
「…………強請るのもか?」
「ねだるのは前からだよ。たまにだけど。でも、今みたく甘えた感じじゃないから、やっぱり最近かな。魔法使いにはねだらないの?」
「……ほとんどないし、あんなに言わない」
「うーん、魔法使いってユウが寝込むまで交尾するからじゃない? ユウは寝込みたくないから、ねだらないんじゃない?」
「最近は寝込んでないし、もうそこまでしない」
「ユウはもうしないって知ってるの? 今してないだけで、これからもしないかどうかはわからないんだから。ユウにそこまでしないって言ったら? またしそうだから言えないの?」
「…………もうしないし、そう伝える」
「うん、そうしてくれないとユウの体がもたないからね。退屈だろうから、ユウの手仕事持っていってあげて。ゆっくりしてって伝えてよ」
「……ああ」

 炭焼きは事も無げにユウナギの荷物をまとめて私に持たせた。私なら、ユウナギに会えない原因を作った私を責めるだろうし、荷物まで気が回らない。
 ……胃が重い。

 ヘルブラオに炭焼きから預かった荷物を渡して仕事に向かう。集中できず、調剤が滞って同僚に嫌味を言われたが、言い返す気も起きない。
 夜にヘルブラオの部屋へ行ったら、明日の夜に話をするから悪かったことを考えておけと追い出された。

 話し合いの夜、酷く久しぶりに会ったように思えるユウナギは、緊張した顔をしていた。 聞いてしまったことを謝ると、今度からは速やかに立ち去るようにと言われた。

 それはわかった。でも、甘えるのは? 私にはなぜ甘えられない? ねだるのは? 私のことは欲しくないのか?
 焦燥に駆られて、ユウナギを問い詰めてしまった。無理矢理なんて意味がないのに。またユウナギを謝らせてしまった。私の我儘で。

 結局、夜は1人で眠ると言われた。許すと言っていても、一緒に過ごしたくないらしい。 部屋に戻り、ベッドに1人腰掛けると自嘲が漏れた。そうだろう、自分の我儘で問い詰めて緊張を強いる男と一緒にいたいわけがない。

 でも、ユウナギ、あなたに触れたい。

 私を受け入れてほしい。もうしない。甘えてくれるまで待つから。
 また今夜も1人で眠る。ベッドは冷たくて心細く、ユウナギが握ってくれた手を頬に当て、明日の朝、会えることだけを願って目をつぶった。

 朝になり、待ち切れず早目に向かう。ユウナギは困った顔で笑い、私の髪を結ってくれた。私もユウナギの髪を結う。久しぶりに触れる髪はほんのり冷えていて、サラサラした雪のように、私の手から滑り落ちた。

 ユウナギがヘルブラオに挨拶するのを待ち、差し出された手を握った。ユウナギは軽く握り返してくれる。手に触れて握り返してもらえる、ただそれだけで胸が震えた。

 ユウナギの荷物を持ち、手を握って飛んだ。私の部屋に。荷物を置いてユウナギを抱きしめる。

「オリヴァ……」

 呆れたような声を振り切って、ユウナギを抱きしめる。

「ユウナギ、会いたかった。……嫌わないでくれ」
「嫌わないよ。呆れてるだけ」
「もう言わないから、私に甘えないわけを教えてほしい」
「……オリヴァに甘える暇がないよ。オリヴァが甘えてくるし、オリヴァが抱きしめすぎるから、体力がもたないんだもん」
「私が甘えなかったら、甘えるのか?」
「押し倒すのも減れば変わるかもしれない」
「……嫌か?」
「嫌じゃないけど、体力が持たないんだってば。疲れてぐったりするから、それどころじゃないの」
「…………減らすし、もう寝込むまでしない」
「本当に?」
「本当に。……口付けても?」

 すぐあとに口付けを望むなんてバツが悪くて、顔を見れず小声になってしまった。可笑しそうに笑った息がユウナギから漏れ、俯いた頬を挟まれて唇にやさしく触れられる。
 受け入れられた喜びに胸が揺さぶられ、もっと欲しくて後頭部を引き寄せた。温かな口内に舌を捩じ込んで、柔らかい頬肉を、濡れた歯茎を、弾力のある愛しい舌を夢中になって味わう。

 欲しかった。ユウナギ、会いたかった。思い切り抱きしめたい。裸の体を。肌で触れ合いたい。許しを与えて欲しい。あなたの中に入る許しを。どうか。

 体の中で欲望の嵐が渦巻き、私を掻き乱す。

「ユウナギ、許して。お願いだ。私に与えてくれ。ユウナギ」
「……うん、きて、オリヴァ」

 許しを得てすぐ、ベッドへ押し倒した。滑らかな足を抱えて下着を剥ぎ取る。自分の下ばきを降ろし、蜜を湛えたユウナギの中へ沈み込むと、体の中を歓喜が駆け抜けていく。熱く蠢くユウナギの中はまるで私を待ち焦がれていたように吸い付いて離れない。そのことが私の頭を喜びで痺れさせた。すぐに放たれてしまうのに熱は引かず、欲望は膨らんだまま私を突き動かす。

「もう、一度だけ、ユウナギ」
「うん、オリヴァ、ちょうだい」
「ユウナギ、ユウナギ」

 私を欲しがって、ユウナギ。私があなたを欲しがるように。
 夢中になってユウナギの身体を貪り、溺れた。

 ユウナギが絶頂の声を上げ、私は喜びと共に熱を放つ。ユウナギは太腿を震わせて私の欲望を飲み込んでいった。

 放たれた熱の空白に昨日までの不安が顔を出し、か細い理性で私を引き戻す。体の動きを止めて、ユウナギを抱きしめた。
 抱き合ったまま荒い呼吸を繰り返し、少し落ち着いたユウナギが微笑んで私の唇を食む。

「送ってオリヴァ」
「……ああ」

 すぐに離れることを言われて落胆を隠せない私に、また困ったように笑った。

「本当は一日中一緒にいたいけど、オリヴァは仕事だし、私は心配かけたから帰らなきゃいけない。ゆっくりしたら、離れられなくなりそうだから」
「本当に? 休みを取ったら一日中一緒にいる?」
「今までもそうだったでしょ。これからもそうだよ」
「ああ」

 優しく笑って私の頬を撫でた。たったこれだけのことなのに嬉しくて、強く抱きしめる。小さく笑い合って身支度をし、森番の家まで送った。

 許されたことで気持ちが軽くなり、また次に会える日を思って心が浮立った。


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