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番外編2
6.約束破り ※
しおりを挟む神殿から帰り、森で過ごす3日目に生理が来た。
生理中は森の家で休む、という決まり通りずっと家で寝てる。お風呂は神殿で借りるから、あちこち汚さないように気を付けた。
生理の3日目はいつもアルと2人で儀式をする。生理セックスとも言うけどさ。もう外で出来ないし神殿の浴室を借りてするのもなんだかな、と思っていたら、エーミールの帰りが遅い日がちょうどあったので、お風呂を借りてお泊りさせてもらうことにした。
お風呂からすぐ上がるわけじゃないから、送ってもらうわけにもいかない。なのでお泊まり。
一緒の部屋にいたがるオリヴァを今日はアルの日だからと説得して、自分の部屋に戻ってもらった。朝になるまで来ちゃダメだよと言い聞かせて。
今日はアルだけの日で、これは2人の約束の儀式だから他の人は入れられないの、とまでは説明していない。なんか面倒くさくからまれそうで。
アルと2人で浴室に入り、血があちこちに飛ばないように排水溝の近くで体を洗う。少しだけ痺れるような怠さが付き纏う体をアルが優しく洗ってくれる。血が流れ落ちる足元に屈み、手でそっと撫でて洗ってくれた。
「ユウ、寝て」
目を潤ませたアルが私を見上げて手を引いた。床に横たわると、熱い息を吐いて唇を貪られ、性急な舌が入り込む。いつもより荒い呼吸と口の中を掻き回す水音が頭の中を占領した。これから始まる蹂躙を思って、不安と欲望が入り混じり、体の奥が震えた。
固い手のひらで乳房を潰すように揉みしだかれ、背筋がゾクゾクする。興奮のまま、アルの髪の毛をくしゃくしゃと撫でながら舌を絡めた。
乳首を潰されて体が跳ね、私の口からも荒い息が漏れる。足の間が疼いて腫れぼったく感じ、乳首を押し潰されながら揉まれる快感に揺れそうな腰を、抑え付けて耐えた。これは償いだと念じて緊張させないと、体が快感を追い掛けてしまう。感じてはいけないと思うのに、感じてしまう後ろめたさが背中を震えさせた。
甘いため息をついたアルと見つめ合い、欲望でぬれた目に射すくめられる。
私は獲物で、アルに狩られる。アルがそう望み、私もそう望んだ。
償いの儀式を重ねるごとに、興奮と高揚への酔いが深くなるみたい。2人で手を繋ぎ、深く潜り込んでいくように。
両膝を押し上げられて広がった足の間がヒクつき、生温いものが流れ落ちる。
震える息を吐いたアルの指が侵入し、血だまりを掻き回して溢れさせた。両手で目を覆っていても、アルの指が血をまき散らしていくのがわかる。
血塗れにして満足したのか、アルの硬く熱いものが呻き声とともに侵入してきた。焦れて飢えた私の下腹は刺激を欲しがって貪欲に吸い付いてしまう。
最奥を叩いてすぐに、長い長い呻きが2人から漏れた。
体を震わせたアルがすぐに動き出し、息を切らしながら甘く問いかける。
「ぁあ、ユウ、ユウナギ、ユウも欲しい? 肉の中に、俺を」
「アルフレート、アル、欲しい」
「ユウ、ああ、俺のユウナギ」
うっとりしたアルが歌うように私を呼び、私もアルを呼んだ。
微かな血の臭いが漂う静かな浴室を、肉を打ち付ける音と溢れ出す水音が満たす。
目を爛々と輝かせたアルに、捕食者の笑みを浮かべて見つめられ、体の底がザワついた。力強い手に腕を掴まれて痺れた背中がしなり、抑えられない嬌声が漏れる。
乳房に歯を立てられて、2人一緒に何度目かの絶頂を迎えた。
余韻が漂うぼんやりした頭に、叫び声が聞こえた。
「何してるっ! ユウナギっ!」
「……オリヴァ、なんでもない」
「こんなに血が出ているのにっ!?」
血相を変えたオリヴァがすぐ近くに詰め寄るから、アルを抱きしめて庇った。アルは大丈夫だというように、そっと私を抱きしめ返す。
「月経の血だから。水で薄まって多く見えるだけ。大丈夫、出ていって」
「ユウナギ、なんで」
「出ていって、オリヴァ。来ない約束したのに」
「……出てこないから、心配で」
「お願い、出ていって」
約束を破られた怒りでトゲのある声が出た。アルの肩に額をつけたまま、オリヴァが出ていくのをじっと待つ。
「……大丈夫だ。もう、体を洗って出るから」
「……ああ」
見かねたのか、アルが落ち着いた声で告げると、ようやく浴室から出て行った。
アルの手が優しく私の背中を撫でる。
「ユウ、大丈夫か?」
「うん、ごめん」
「ユウのせいじゃない。心配だったんだろう。気持ちは分かる」
「でもアルは約束を守るでしょ?」
「ああ。約束だから」
静かに話しながら私の体を洗い流し綺麗にしてくれた。
「ユウは先に上がって。話をしたほうがいい」
「なんで?」
「怒ってるから」
微笑んで髪を拭くアルの手は優しい。なんか諭されてるみたい。
だって、オリヴァが悪いんでしょ、そーでしょ。他人のプライベートを覗くとか。そりゃあ、神殿に泊まらせてもらうけどさ、でもエーミールの部屋だよ?
体を拭きあげて布を当て、冬用のパジャマを着て部屋に入る。暖炉の前に座っていたオリヴァが私に気付き、速足で近付いて抱きしめようとするから体を後ろに引いて拒否した。
オリヴァが酷く傷付いた顔をするから、胸が一気に苦しくなる。約束破ったのはオリヴァでしょ。
「……約束破った」
「すまない、でも、心配で」
「こっちの部屋にこない約束だったでしょ?」
「眠る前に挨拶を」
「私との約束は、どうでもいいんだ?」
自分の言った言葉が決定的だった。それで腑に落ちた。どうでもいいから、気にしない。口だけで返事して、私のことは尊重しない。そうか、そうなんだ。
目から溢れる涙は止められないけど、喉にこみ上げた何かは歯を食いしばって抑えつけた。
「……帰る。送って」
「ユウナギ、ユウナギ、すまない、そんなつもりじゃない」
「いい。送って。家に帰りたい」
「行かないでくれ。このまま帰らないで」
「帰るから送って。今日は話したくない」
オリヴァの顔を見ないまま片腕を突き放すように伸ばすと、ヒヤリとした細い指に掴まれる。
「ユウナギ」
「送って」
固い声で告げると、一拍おいて家の前に飛んだ。
「ありがとう。お休み」
力の入らない指先から手を抜き、早口でお礼を言った。雪に囲まれた小さな木の家のドアを叩いて帰りを告げる。どうしたの? と穏やかに迎えてくれたミカの脇をすり抜けて家の中へ入り、すぐにベッドへ潜り込んだ。
びっくりしてるベルに何も言わずに抱き付くと、何も聞かずに抱きしめてくれた。
話し声が途切れて玄関のドアが閉められる。戻って来たミカが私の隣に寝転んで髪を撫でてくれた。
「魔法使いと喧嘩したの?」
「約束破った」
「ユウはそれで怒ってるの?」
「うん。……私との約束なんて、どうでもいいんだよ」
また涙がじわりと浮かんだ。
背中にミカがくっついてお腹をゆっくり撫でながら、静かに話す。
「魔法使いは夢中になり過ぎるから、困るよね」
「……うん」
「お仕置きするといいよ」
「うん」
「お仕置きって何するの? 俺にも怒ったらする?」
「何しよう? ベルに怒ったときは、また考えるよ」
2人に挟まれて温まり、穏やかなミカの声を聞いてると気持ちが落ち着いてくる。少しあとに帰って来たアルと4人で、子犬のようにくっついて眠った。
暗い暗い考えが頭をよぎる。私は、私の考えは尊重されるような価値がないと、そんな暗い考えに淵へ引き摺り込まれそうになる。
助けて欲しくてミカに抱き付き、抱き返された暖かい腕の中で震えた。
知ってる。これは私の問題だって。私の考え方の問題だって。だから誰に頼っても無駄なんだ。
深呼吸して眠りがやってくるのを待つ。今は1人じゃない。そう、1人じゃないし、大事にしてもらってる。だから大丈夫。
そうしてみんなの寝息に意識を溶けこませた。
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