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番外編2
11.愛しい人 Side オリヴァ ※
しおりを挟むSide オリヴァ
小声で言った言葉はどういう意味? 抱きしめる以上のことをしても? ユウナギはそれを望む? ユウナギ、本当に?
「抱きたい。ユウナギが嫌でなければ」
「オリヴァ、のバカ。そんな言い方」
私の胸に額を擦りつけて、ぐずるように文句を言うのが可愛らしく、思い切り抱きしめて笑った。
恥ずかしがっている? 私には恥ずかしがるのか? だから言わない?
「なぜ、私に恥ずかしがる?」
「だって、カッコいいから、私なんかじゃ釣り合わないし、恥ずかしい」
「私にはユウナギしかいないのに」
「……それは、だって、私しか触れないから、…………仕方がない」
「……ユウナギ、なぜ、そんなこと」
俯いた顔を無理矢理上げさせると潤んだ目をしていて、痛みがジワリと広がった。
なぜ? 踏みにじったから? 私が大切にしなかったから? だから、仕方がないと思われているのだと考えるようになった?
私はいったい何をしているんだ? 唯一の、大事な人を傷つけて。
「私の女神、ただ一人の人、あなたがいないと生きて行けない。理由はいらない。他の誰にも興味がない。ユウナギだけが目に留まった。ユウナギ、ユウナギだけが欲しい」
この気持ちを伝えたくて、必死で吐き出した言葉はすべて上滑りして消えてしまい、黒い水底に淵が覗いたまま揺らめいていた。
どうにもできず、どうにかしたくて、ただ愛しさを伝えたくて、頬に触れ、まぶたに口付けた。黒い水を吸い取って私のものにしてしまいたい。唇で、指先で伝わりますように。
震えるユウナギの唇にそっと触れる。その柔らかさに、秘めやかな熱い吐息にクラクラした。微かな動きがもどかしくて愛おしい。もっと奥に行って繋がりたいのに、繊細な感情が壊れてしまいそうで躊躇してしまう。
あなたの濡れたまつ毛がすぐそばで震える。艶やかな黒が光をまとって輝き、初めて触れたときのように胸が痺れた。
ユウナギの唇が少し開いて私を啄む。
こんなふうに優しく触れてもらえるなんて思いもしなかった。触れ合うことが、こんなに甘く胸を震わせるなんて。
全部あなたが教えてくれた。
「あなたを、愛しています」
私の全てを込めて。
頬に指先で触れ、唇を舌先でそっとなぞり粘膜との境目へ進む。開いた口の中へ舌を差し込みしっとりした頬肉に触れた。濡れた歯茎からつるりとした歯へ辿る。上顎にも触れ、あなたの全ての形を確かめたい。
温かく弾力のある舌が私を迎えて絡みつく。こうして絡み合って吸い付くと、お互いに求め合っていると感じられて、喜びが湧き頭まで鳥肌が立つ。
黙り込んで引き結ばれる唇の奥を知りたいと思っていた。話す時に開いた口から零れる歯のその奥へ行きたかった。こうして濡れた舌を絡ませ合う恍惚に憧れていた。
一度味わうともっと欲しくなる。私に抱き付いたあなたの後頭部を引き寄せ、角度を変え、深く深く口を合わせる。
舌全体を口に咥えて吸い付いた。流れ落ちてきたあなたの唾液を飲み込む。あなたの全部を味わいたい。
あなたの喉から漏れる甘い声で体が熱くなる。肌を粟立てて、体を捩るあなたに誘われる。
ひと時も離れたくないけれど、もっと近づくために口を離し、夜着を脱がせる。恥ずかしそうに身を縮めるあなたに誘われて抱きしめた。そうすると、あなたからも抱き返してくれる。
私を誘わないのではなくて、恥ずかしくて誘えなかった? でも待っていた。いつも私のことを待っていた?
恥ずかしそうに目を伏せて小さく頷いた。
それがどれだけ私の心を震わせるか、この喜びをなんと言えば良いかわからない。
抱き合って体を摺り寄せて、肌と肌が触れ合う心地良さを味わう。幸せだ。全てはこの言葉の中に含まれてしまう。
抱き合ってあちこちを撫でた。私の手で形を変える乳房の上に、硬く粟だった乳首が揺れる。指先で触れると、口の中に吐息が流れ込んだ。
喘いで震える舌を絡め取って、その震えを味わいたい。私の指が起こした刺激で溢れ出す甘い声を、余さず飲み込みたい。私の手が起こす刺激で跳ねる身体を受け止めて、抱きしめたい。
乳首を口に含むと声に艶やかさが加わって、頭の芯まで痺れてしまう。
ユウナギの声が私の名を呼ぶ。妻のあなたしか呼べない名を。私はあなただけのものだから、あなたが呼んでくれないと途方にくれてしまう。お願いだから、私を呼んで。
硬く敏感な突起を舌で弾くと、あなたの手が私の髪を掴んで私を求めるのがわかる。
柔らかな胸はその柔らかさで私を誘い、硬くなる一点が可愛らしくて、夢中になってしまう。指と舌で味わっていると、ユウナギの足が張り詰め、仰け反って絶頂の声を上げた。
荒く息をついているユウナギの内腿まで舌で辿り、膝裏を押し上げて秘されている部分を夜気にさらした。濡れそぼった陰部がロウソクの灯りをチラチラと照り返している。
ヒクヒク動いて私を待ち焦がれているそこから、溢れた蜜が肛門まで滴り、ユウナギの興奮を教えてくれた。滴る水滴を全て舐め取ってから、窪みに湛えられた蜜を啜ると、香り立つユウナギの匂いに頭が痺れる。
足を突っ張らせて揺れる腰を押さえ付け、花びらを一枚一枚丁寧になぞり、小さな花の種をそっと舐めた。途端に、揺れていた体が力強く跳ねる。私の愛撫に反応して悶える様が愛おしい。下腹の疼きが増して堪らないが自分の興奮は抑え付け、可愛らしく繊細な種を微かにくすぐるように舌先で触れていく。叫び声が徐々に高くなり、私に押し付けるように仰け反って達した。
私の舌で達するあなたがどうしようもなく愛おしい。さっき啜った蜜がもう溢れ出している。そんなにヒクついて、私が欲しい? ユウナギ。
「欲しい。ずっと欲しかった。会えないあいだずっと。オリヴァお願い、私に与えて」
一筋の涙を流し私を見上げる夜空のようなあなたの目に、星が瞬いている。
私も、ずっとあなたが欲しかった。身が焦げるほど、おかしくなりそうなほど。
ユウナギのヒクつきに先端をあてがうと、咥えられ少しずつ引き込まれていく。喜びと快感の眩暈で体が震えた。熱い体内が私を迎え、潤って蠢く粘膜が私を包み込む。
ゆっくりと飲み込まれ最奥へ到達し、もっと奥へ行きたい貪欲さのまま、腰を掴んで押し込んだ。吸い付かれる快感に陶酔し、何度も押し込むと締め付けが強まって私を絞り上げる。
その刺激で魔力が暴発したように腰が痺れ、ユウナギの中へ私の熱が迸った。
ユウナギの声と私の声が共鳴し、途切れ、荒い呼吸が部屋を満たす。
「オリヴァ、嬉しい」
私の手を握り、涙を流してそう呟くユウナギを滲んだ視界で見つめた。
引き寄せられるように口付けると、蠕動がおさまりきる前にまた中がヒクつき出す。私も、嬉しくて幸せで、たまらない。
体中の熱が暴れまわって、ユウナギの中へ出ていきたいと騒ぐ。
ユウナギの熱と私の熱があふれ出して、結合部のまわり中を濡らして汚した。
私達の手足は互いの体に絡みつく。中も外も絡め合って何度も一緒に頂にのぼった。汗ばんだ体は貼りついて私達をいっそう分ち難くさせ、触れ合える喜びは快感となって私達を飲み込んだ。
何度目かの絶頂で、意識を失ったユウナギがそのまま眠ってしまった。体を拭いて布団にくるみ、だいぶ汚れてしまったシーツを変えてから寝かせる。自分の体も拭き、布団に入ってユウナギを抱きしめた。
ずっと会いたかった。会えないあいだ、惨めでたまらなかった。
その気持ちをユウナギに味わわせたのは私だった。
胸が酷く痛い。
約束を破られるたびに味わっただろう失望を想像する。許すたびに繰り返された裏切りを。踏みにじられた痛みを押し殺して笑うあなたを、私は欲望のまま抱いていた?
……最悪だ。
もうしない。二度としない。
暖かな体を抱きしめて髪に口付けをした。ユウナギのこめかみに鼻を押し付けると、私が贈った化粧水の香りがした。私が作った香りを身にまとうユウナギを想像すると、ゾクゾクするような欲望が湧き上がる。
他の夫に抱かれるときも私の香りを身に付けているのだろう? あなたに香りを付けられるのは私だけだ。
あなたの特別でいたい。私だけのものにならないのなら、せめて特別でありたい。
眠るユウナギの体中に赤い跡を付けていく。
私の愛しい恋しい人。
空が晴れ渡り窓に霜の花が咲く冷えた朝、火鉢に炭をおこし、運んでもらった湯でユウナギが体を洗った。私の化粧水を付け、ヘルブラオから贈られたクリームを塗るのを眺めながら、新しく作るクリームの材料を思い浮かべる。早目に作って贈ろう。私が作ったものだけでユウナギを磨けるように。
ユウナギに髪を結ってもらい、ヘルブラオの部屋へ行った。
「おはよう、エーミール。髪を梳かすの久しぶりだね」
「グラウのせいでな」
「すまなかったな」
「頭でも打ったのか? お前が素直に謝るとは」
「今回は色々と協力してもらったからな。お前のときにも協力しよう」
「私はお前のような阿呆ではない」
片眉を上げたヘルブラオはそう言い、ユウナギは可笑しそうに笑った。
森番の家まで飛び、口付けを交わす。またこうして口付けることができる喜びを噛み締めた。
「また、明日」
「ああ、明日に」
ドアが閉じられるまで見送り、ヘルブラオの部屋へ戻った。
「何か用か」
「礼を言おうと思って。お陰で助かった」
「わかったなら良い」
「お前は全ての約束を守っているのか? 破ったことは?」
「ない。破りそうな約束は最初からしないからな」
「そうか、そうすればいいのか。今度からはお前を見習おう」
「嫌な感じだな。私を巻き込むなよ。とばっちりは御免だ」
「私がいないとユウナギは神殿にこれないんだから、お前は必然的に巻き込まれることになる。まあ、二度としないけどな。約束しなければいいとは、良いことを聞いた。はははっ、聞かれたらヘルブラオに教えてもらったと言おう」
「私が言ったのはそういう意味じゃない。変な解釈をするな」
私の冗談に憮然とするヘルブラオを笑い、自分の部屋へ戻った。これから職場に行き、クリームをどうするか考えよう。チンキの仕込みもしなくては。
ユウナギから私の香りが立ち昇るさまを夢想して口が緩んだ。
_____________
明日が最終回です!
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