6人の夫と巫女になった私が精霊作りにはげむ1年間の話【R18】

象の居る

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第一章 巫女ってなんなんですか

9.図書室でのヒソヒソ話

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 私の話を聞かないリーリエがどんどん話を進める。

「巫女、今夜から部屋を訪ってもよろしいですか?」
「え? もう? しばらく待ってほしいんだけど」
「でも3日産まなければ苦しくなるみたいですよ?」

 タイムリミットが3日って早すぎるだろ。初対面なのにもう寝るんかい。まあ、流れでそういうこともあるけれど、それとはちょっと違うしなぁ。

「神官とサミーは妖精族だろ? 繁殖期でもねぇのに抱けんのか?」
「繁殖期? 妖精族って繫殖期以外は繁殖しないの?」
「繁殖期以外はやりたくねぇらしいぞ。男も女もその気になんねぇどころか、嫌がるって聞いた」
「土妖精は明るいとダメなだけで繁殖期はねぇぞ。繁殖期があんのは緑妖精だ」

 ラルフの話をふんふん聞いてたら、サミーがムスッと口を挟んだ。

「ふーん。じゃあリーリエは繁殖期がきてからってこと?」
「いいえ、全ての精霊をまんべんなく産んでいただかなくてはいけませんから、繫殖期以外もきちんと参加します。大事なお勤めですから、しっかり役目を果たせるよう頑張るので大丈夫です」

 それは大丈夫だと言えるのか? お勤め命! みたいだから、自らを奮い立たせて勃たせるわけか。無理に頑張られてもねぇ。それだと私も嫌だしお互い良いことないよね。

「でも、嫌なら」
「嫌ではありません。名誉あるお役目に選ばれて嬉しいのです」

 お役目が嬉しい方の気持ちが勝ってるから、大丈夫ってか。どんだけ仕事好きなのか。そうか、じゃあ余計なことはしないで出すだけにしてもらうか。って、ヤル段取りを考えてるよ。あーもうこうなったら、やるっきゃナイト! ……邦キチはもう読めないのね。
 いや、なんで私がこんなことを考えなきゃいけないんだ。おかしいだろ。もうよくわかんない。

「ごちそうさまでした。私、部屋に戻るから図書室に行けるようになったら迎えにきて」
「はい」
「じゃあ、お先に失礼します」

 疲れたので軽く頭をさげて挨拶をし部屋に戻ってソファに寝転ぶ。
 いくら嫌だと言ったところでここでの生活はリーリエの手に握られてると思うと、気持ちが沈んだ。養鶏場のニワトリみたい。詰め込まれてエサを食べさせられて卵を産み続ける。
 また搾取されるのか。前の彼氏に尽くして貢いだあげく浮気されて捨てられたことを思い出した。もう二度と尽くさないし貢がないと決心したんだけど、またもや搾取される側に。
 もし神殿を抜け出したとして、……暮らしていけないよね。お金の単位もわかんないし、紹介者がいないと仕事につけない、とかだったら? 異世界の住宅事情ってどうなってんの? 手の甲に紋があるの見られたら神殿に通報されるか、テロ組織に殺されるかするんじゃない? いっそ開き直って酒池肉林する? でも別にみんな乗り気じゃないよね。リーリエだってやりたくないことムリヤリ頑張るって言ってるだけだし。私だってこんな気分じゃヤル気にもなんないわ。誰も喜ばない、なんという地獄。

 ウダウダ考えてたらリーリエがノックしながら入ってきた。意味ねぇだろそれ。私のプライベートはないのか。

「図書室の準備ができました。すぐに向かいますか?」
「うん」

 文句言う気力もなくて、おとなしくリーリエの後ろをついて歩いた。外に出ると剣を振ってるラルフがいた。
 朝より緊張が抜けたせいか諦めがでたせいか、周りの景色が遠くまで目に入る。敷地は広くて自然公園のような雰囲気があった。静かな風にのって白い花が咲く木から微かな花の香りが届いた。

「良い香り」
「レイルードの花ですね。この白い花を見ると春の訪れを感じます」
「綺麗だね」
「はい」

 リーリエが振り向いて怪しくない綺麗な顔で笑った。

 図書室は本殿にあり、儀式の部屋より奥にある扉を開けるとインクの匂いがした。私よりも背の高い棚が何列も並び、びっしりと本が詰まっている。背表紙を眺めて異世界の文字が読めることにホッとした。

「本は部屋に持って行けるの?」
「持ち出し禁止なので図書室で閲覧してください」
「じゃあ、二時間後くらいに迎えに来てくれる?」
「わかりました」

 リーリエと別れ、精霊産みに関係ありそうな精霊の本を探し棚から抜き出して中身を確かめる。そうしてしばらく経った頃、ヒソヒソ話す声が聞こえてなんとなく耳を澄ました。

「異世界の巫女ってちょっと、アレだったな」
「ルグラン様がお気の毒だな。妖精族以外とまぐわうなんて俺は無理」
「俺も。スピラ様みたいにましな人族もいるのに、あの巫女のはちょっと」
「ルグラン様は真面目だから頑張るだろうけど、お辛いだろう」

 あまりの衝撃に体が固まる。

「繁殖期以外はどうするんだろうな?」
「興奮剤でも使わないと無理だろ」
「選ばれるのは名誉だけど、それなりにキツイ仕事だよな」

 コソコソ話すその人たちが部屋からいなくなるまで動けずに息を殺していた。
 なんという酷い話。綺麗じゃないけどさ妖精族は規格外でしょ。比べないでよ。妖精族って自分たちが綺麗だから綺麗じゃないと体が受け付けないってことなの? もしかして妖精族じゃない人たちも、そう思ってんのかな。
 私だって強制されてるのに。物凄いダメージで泣きそう。なんで私なんかが選ばれたんだろ。もっとましな人が選ばれたら良かったのに。

 ルグラン様ってリーリエのことだよね? リーリエはお勤め命っぽいから張り切ってるけど、妖精族的にはかなり無理してるってことか。お勤め頑張るアピールは自分を励ましてるのかもしれない。自己暗示的な。そっか。リーリエに聞いても『頑張ります』しか言わないし、配慮してあげなきゃいけないのね。なんで私が? でも我慢しながら腰振られるより自分で動いた方が気が楽かも。自分で動いてさっさと終わらせればいいかな。事前準備を自分でしてもらえれば、もっといい。そうしよう。

 割り切るように考えてみても落ち込んだ気持は戻らなくて、集中できないままリーリエが迎えにきた。



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レイルード:造語です。花木。春になったら白い小さい花をたくさん咲かせます。桜のような位置づけ。
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