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最初の試験編

逆転の一発

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「試験終了まで残り10分」

残りの試験時間がわずかしかないことを知らすアナウンスが響く。
一向に解決の糸口が分からない「考え抜く力」の試験。
そして、奏の味方であった理夜の暴走。
この状況がずっと奏を焦らせていた。
何とかしないといけないという焦りと、失敗したときの不安の乖離をあらわすように奏の腕に巻き付いている鎖の締め付けは段々大きくなっていき、ついには持っていた銃を落としていた。

「あ、しまった……どうしよう、どうしよう?!」

この絶望的な状況で致命的なミスを犯した影響なのか、奏は一気にパニック状態になり彼女の不安の声は口から漏れ出していた。
奏の心の中には諦めるという選択肢がほんの少しだけ湧き出ていた。
自分にはこの試験をクリアすることなんて夢のまた夢だったのだと。
そんな暗い気持ちに支配された彼女の心を救い上げたのは、現在虹色の煙に包まれている仲間の声だった。

「そんな不安がらなくても、大丈夫っですわ!!」
「大丈夫って言ったってもう時間が……それなのに私ぜんぜん動けなくて……」

奏は気づけば涙を流しながら声を上げていた。
それでも理夜は自身にあふれた声を上げ続ける。

「わたくしは最初にいいましたわ。わたくしが必死に動いてあなたを安心させると、あなたが動けないなら私が動くと!!だから大丈夫ですわ。あなたが動けない分わたくしが動く!そしてそれを見たあなたが敵の弱点を探す!これを続けていればきっと誰にだって負けませんわ!!」

その声を聴いてハッとする。
理夜がこの試験であんなに銃弾を撃ちこんでいたのはマインドの影響で動けない私のためだった。
奏ができないことを理夜がカバーしてくれていた。
今の理夜は少し前の、鎖に縛られて動けなくなった奏とおなじ状況でマインドの影響を受けて状況の正確な判断ができない。

(それなら、私がすることはただ一つ、状況を把握できない理夜さんを私がカバーする!!)

奏は呼吸を整えて大きな声を出した。

「理夜さん!!左の方向に恐竜がいるからそっちに突っ込んで弾を当て続けて!!その間に私が絶対この試験を攻略して見せる」
「了解ですわ。最もわたくしと奏さんがそろった時点でわたくしたちの試験クリアは約束されているようなものですわ!」

理夜はそう言いながら虹色の煙を纏いながら目の前の恐竜の元へと突っ込んでいく。
そして、恐竜と理夜の距離が虹色の煙が触れるぐらいのところまで縮まった時、今まで微動だにしなかった恐竜が初めて動きを見せた。
虹色の煙を避けたのである。
奏はその決定的な瞬間を見逃さなかった。

「さあこれで終わりですわよ!!今度は私の好きな食べ物の形を撃ちこんでやりますわ」

理夜はそう言って灰色の弾丸を乱射する。
虹色の霧の中を飛んでいく灰色の様々な食べ物の形をした弾丸は、奏の目には以上に目立って見えた。

(この部屋の配色、銃弾も恐竜も壁も天井も全部灰色だ。理夜さんの虹色の煙を見るまで気づかなかった)

それに気づいた理夜の頭の中には大量の疑問が思い浮かんできた。
そもそも、どうして食べ物をイメージした弾が全部灰色なのか。
この銃から放たれる弾が全部イメージしたものに変わるというのなら色まで変わらないのはおかしい。

(そもそも私たちは銃弾をどんな形にするかしか考えていなかった、色のことまで詳細に考えていなかったから銃弾に反映されていなかった?)

確証はない、でも今の状況を何か変えられるとしたもうこれしかない。
奏がそう考えた瞬間。腕をきつく縛っていた鎖の拘束が緩くなっていた。
奏は急いで自分が落とした銃を拾う。
照準を虹色の煙を吹きだす理夜から逃げている灰色の恐竜に合わせる。

「これでどうだ!!」

奏は引き金を引きながら必死にイメージした。
黄色い色をした星のイメージを。
そうして奏の銃から放たれた“黄色い色”の星の形の銃弾は恐竜の体躯にぶつかり「100ダメージ」という表記が表示された。


                      試験終了まで残り1分
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