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最終章 罰
砕いた常識の先で幸せを
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「こんなに玉ねぎが美味しいなんて‥‥‥」
「すっかりピザより夢中だね」
テーブルの上に乗っている茶色い玉ねぎのステーキにがっつく俺の姿を見てファナエルが微笑んでいる。
ピザ、パスタ、肉のポワレに魚のソテーなどの名だたる名料理が並んでいる中、俺の心を掴んで離さなかったのは玉ねぎのステーキだった。
前菜なんだろうなと軽い気持ちで食べた瞬間に広がる甘くて濃厚な味。
玉ねぎに対する認識とその味のギャップが俺の凝り固まった常識を壊していく。
「そんなに気に入ったなら、今度私がいくらでも作ってあげるよ」
「本当か?!」
「材料は普通のスーパーで買えそうだし、さっき店員の心を読んでレシピも覚えたから」
ファナエルは得意げにそう言いながらテーブルの上にある料理を口へ運ぶ。
動作の上品さには彼女と初めて出会った時を彷彿とさせる美しさが、 俺を見つめるその顔には旅に出てから見る様になった可愛さが詰め込まれている。
「どうしたのアキラ、そんなに嬉しそうな顔して」
「いや、初めてファナエルと出会った時の事ふと思い出してさ」
「へぇ……ところでアキラは私との思い出を振り返って何を思ったの?私、アキラの言葉で直接聞きたいな」
俺の心なんてとうに聞こえてるだろうに。
早く聞かせてと言わんばかりの目でこっちを見つめてくる。
「別に大したことじゃないよ。俺の彼女が可愛すぎて助かってるって話だから」
ファナエルの可愛さが俺の常識を破壊して世界を広げてくれたとか、あの時ひねくれてた俺がこんなに変われたのはファナエルの可愛さのお陰だったとか……全部全部を言葉にするのはやっぱり恥ずかしくて、声に出そうとするのも難しい。
何とか口を開いて出たのは要点だけをまとめた言葉だった。
「ふ~ん。まぁ一番聞きたかった言葉は聞けたし、可愛い照れ隠しだったから良しかな」
ファナエルは少しだけ頬を赤く染めていた。
こんな彼女の姿が見れるのは今や俺だけの特権‥‥‥出来ればこれから先もずっとずっと俺だけに色んな顔を見せてほしい。
そんな事を考えていると、斜め前の座席から歓声がわ~っと上がる。
そこに居たのはさっき電車で勝手に心を覗いたカップルだった。
どうやら、プロポーズが成功したらしい。
「‥‥‥私さ、幸せを見つけることってすごく難しいと思ってるの」
経験則だけどねと続けて口にするファナエルの視線の先には今から家族になろうとしている幸せそうな二人が写っていた。
「一人ぼっちじゃ幸せになれないし、他人との関わりが全部自分を幸せにしてくれる訳じゃない。最初から手探りで自分にピッタリ合う幸せを探すのは限りなく途方もないから多くの人が幸せに感じるもの、幸せそうに見えるものを概念にして道標にする」
「結婚したり、恋人作ったりみたいな感じ?」
「うん、でもそれだけじゃないよ。きっと生物の遺伝子に埋め込まれてる本能も、いつの間にかなんとなくインプットされてる倫理観も、全部普通の幸せを手に入れるための道標。この世界は普通の存在が幸せになるための構造で出来てる……だから私は弾かれたんだと思う」
ファナエルの心から聞こえてくるのは昔誰かに言われたであろう拒絶の言葉。
両親に心を消されかけたり、人間に怖がられて距離を取られたり、自分の血を混ぜたクッキーを目の前で吐かれたり、そんな少し前までのファナエルの日常が心の声から透けて見える。
「だから今、こんなに私を思ってくれる人と一緒に居るのが夢みたいで……心のどこかで私には遠い世界だと思ってたあんな幸せが目の前にある事が奇跡だと思ってるの」
彼女の視線が左手につけているお揃いの腕輪に移る。
『アキラは私のクッキーを食べてくれたあの時に私の陰鬱な常識を壊してくれた。今まで無理かもしれないと思いながら手を伸ばしていた日常は、アキラの心が私から離れてしまわない為に足を動かす毎日に変わった。私がこの幸せを手に入れられたのは、全部全部アキラのお陰なんだよ』
腕輪を見つめるその表情は彼女が遠い過去を語ってくれたあの時の顔と似ているけど本質は全然違う。
今のファナエルの姿を見るだけで俺の心臓は馬車馬の様に動き、体を溶かすような熱が湧き上がってくる。
その表情は俺の心を仕留めることに特化した凶器そのものだった。
「楽しかった事でも思い返してた?」
「ん~どうしてそう思ったの?」
「すごく幸せそうな顔してたから。ファナエルの言葉で何を考えてたのか聞きたいなと思って」
ちょうどいいからさっきのお返しをしてやろうとそんな質問を投げてみる。
今俺の理性を溶かしてる彼女の心の声を直接口できけば、心の高鳴りに身を任せてしまうことだって出来るんじゃないかと期待しながら。
「別に大したことじゃないよ。私の彼氏が似た者同士で嬉しいってだけの話だから」
さっきの仕返しだよと言わんばかりの声色で答えた彼女は人差し指を口の前でピンと立て、白い歯を見せながら悪戯に笑った。
「まぁ、その顔が可愛いから良しだなぁ」
「お互い恋人に甘い所は今後の課題だね」
二人で微笑みあいながら互いの目を見つめ合う。
このテーブルの上が世界の全てであるような錯覚を覚えながら、永久にも思えるディナーは続いてゆく。
相手を思う心をバレバレの照れ隠しで覆って、他愛のない会話をして……
『あれはアルゴス様が追っていた堕天使……どうして此処に?何はともあれこの事を天界に伝えないと』
『あいつの情報を天界に与えて手柄を立てれば俺様にも今以上の力が……イヒヒ』
この幸せな空間を壊しかねない害虫達の心にー
『#################……#######?##################』
『###########################……###』
何食わぬ顔でノイズをかけて消去しながら、ディナーは続いていく。
「そう言えばファナエル、今晩どこで宿を取るのか決めてる?」
「全然決めてないよ。この店を出てから泊まれる所を探す予定だけど」
『あれ?私、何しようとしてたんだっけ?』
『あれ?俺、何企んでたんだっけ?』
「……できれば今日は広い所で寝泊まりしたい」
『そうだ、あの堕天使を矯正しに行こうと思ってたんだ』
『あぁ……有名になってる堕天使ぶっ殺してもっと強くなるんだったなぁ』
「俺が全力で動いても窮屈さを感じないぐらい、広い所が良い」
「すっかりピザより夢中だね」
テーブルの上に乗っている茶色い玉ねぎのステーキにがっつく俺の姿を見てファナエルが微笑んでいる。
ピザ、パスタ、肉のポワレに魚のソテーなどの名だたる名料理が並んでいる中、俺の心を掴んで離さなかったのは玉ねぎのステーキだった。
前菜なんだろうなと軽い気持ちで食べた瞬間に広がる甘くて濃厚な味。
玉ねぎに対する認識とその味のギャップが俺の凝り固まった常識を壊していく。
「そんなに気に入ったなら、今度私がいくらでも作ってあげるよ」
「本当か?!」
「材料は普通のスーパーで買えそうだし、さっき店員の心を読んでレシピも覚えたから」
ファナエルは得意げにそう言いながらテーブルの上にある料理を口へ運ぶ。
動作の上品さには彼女と初めて出会った時を彷彿とさせる美しさが、 俺を見つめるその顔には旅に出てから見る様になった可愛さが詰め込まれている。
「どうしたのアキラ、そんなに嬉しそうな顔して」
「いや、初めてファナエルと出会った時の事ふと思い出してさ」
「へぇ……ところでアキラは私との思い出を振り返って何を思ったの?私、アキラの言葉で直接聞きたいな」
俺の心なんてとうに聞こえてるだろうに。
早く聞かせてと言わんばかりの目でこっちを見つめてくる。
「別に大したことじゃないよ。俺の彼女が可愛すぎて助かってるって話だから」
ファナエルの可愛さが俺の常識を破壊して世界を広げてくれたとか、あの時ひねくれてた俺がこんなに変われたのはファナエルの可愛さのお陰だったとか……全部全部を言葉にするのはやっぱり恥ずかしくて、声に出そうとするのも難しい。
何とか口を開いて出たのは要点だけをまとめた言葉だった。
「ふ~ん。まぁ一番聞きたかった言葉は聞けたし、可愛い照れ隠しだったから良しかな」
ファナエルは少しだけ頬を赤く染めていた。
こんな彼女の姿が見れるのは今や俺だけの特権‥‥‥出来ればこれから先もずっとずっと俺だけに色んな顔を見せてほしい。
そんな事を考えていると、斜め前の座席から歓声がわ~っと上がる。
そこに居たのはさっき電車で勝手に心を覗いたカップルだった。
どうやら、プロポーズが成功したらしい。
「‥‥‥私さ、幸せを見つけることってすごく難しいと思ってるの」
経験則だけどねと続けて口にするファナエルの視線の先には今から家族になろうとしている幸せそうな二人が写っていた。
「一人ぼっちじゃ幸せになれないし、他人との関わりが全部自分を幸せにしてくれる訳じゃない。最初から手探りで自分にピッタリ合う幸せを探すのは限りなく途方もないから多くの人が幸せに感じるもの、幸せそうに見えるものを概念にして道標にする」
「結婚したり、恋人作ったりみたいな感じ?」
「うん、でもそれだけじゃないよ。きっと生物の遺伝子に埋め込まれてる本能も、いつの間にかなんとなくインプットされてる倫理観も、全部普通の幸せを手に入れるための道標。この世界は普通の存在が幸せになるための構造で出来てる……だから私は弾かれたんだと思う」
ファナエルの心から聞こえてくるのは昔誰かに言われたであろう拒絶の言葉。
両親に心を消されかけたり、人間に怖がられて距離を取られたり、自分の血を混ぜたクッキーを目の前で吐かれたり、そんな少し前までのファナエルの日常が心の声から透けて見える。
「だから今、こんなに私を思ってくれる人と一緒に居るのが夢みたいで……心のどこかで私には遠い世界だと思ってたあんな幸せが目の前にある事が奇跡だと思ってるの」
彼女の視線が左手につけているお揃いの腕輪に移る。
『アキラは私のクッキーを食べてくれたあの時に私の陰鬱な常識を壊してくれた。今まで無理かもしれないと思いながら手を伸ばしていた日常は、アキラの心が私から離れてしまわない為に足を動かす毎日に変わった。私がこの幸せを手に入れられたのは、全部全部アキラのお陰なんだよ』
腕輪を見つめるその表情は彼女が遠い過去を語ってくれたあの時の顔と似ているけど本質は全然違う。
今のファナエルの姿を見るだけで俺の心臓は馬車馬の様に動き、体を溶かすような熱が湧き上がってくる。
その表情は俺の心を仕留めることに特化した凶器そのものだった。
「楽しかった事でも思い返してた?」
「ん~どうしてそう思ったの?」
「すごく幸せそうな顔してたから。ファナエルの言葉で何を考えてたのか聞きたいなと思って」
ちょうどいいからさっきのお返しをしてやろうとそんな質問を投げてみる。
今俺の理性を溶かしてる彼女の心の声を直接口できけば、心の高鳴りに身を任せてしまうことだって出来るんじゃないかと期待しながら。
「別に大したことじゃないよ。私の彼氏が似た者同士で嬉しいってだけの話だから」
さっきの仕返しだよと言わんばかりの声色で答えた彼女は人差し指を口の前でピンと立て、白い歯を見せながら悪戯に笑った。
「まぁ、その顔が可愛いから良しだなぁ」
「お互い恋人に甘い所は今後の課題だね」
二人で微笑みあいながら互いの目を見つめ合う。
このテーブルの上が世界の全てであるような錯覚を覚えながら、永久にも思えるディナーは続いてゆく。
相手を思う心をバレバレの照れ隠しで覆って、他愛のない会話をして……
『あれはアルゴス様が追っていた堕天使……どうして此処に?何はともあれこの事を天界に伝えないと』
『あいつの情報を天界に与えて手柄を立てれば俺様にも今以上の力が……イヒヒ』
この幸せな空間を壊しかねない害虫達の心にー
『#################……#######?##################』
『###########################……###』
何食わぬ顔でノイズをかけて消去しながら、ディナーは続いていく。
「そう言えばファナエル、今晩どこで宿を取るのか決めてる?」
「全然決めてないよ。この店を出てから泊まれる所を探す予定だけど」
『あれ?私、何しようとしてたんだっけ?』
『あれ?俺、何企んでたんだっけ?』
「……できれば今日は広い所で寝泊まりしたい」
『そうだ、あの堕天使を矯正しに行こうと思ってたんだ』
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