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最終章 罰
【始SIDE】逃げる事の出来ない片道切符を手に取って
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「なるほど……この町に住んでいる人間全員がその友人の事を忘れていて、君達も友人に関する記憶が所々無くなっていると」
「そうなんです。あいつの苗字だって、あいつと斬琉ちゃんが兄妹って情報が無かったら思い出せなかった」
甘い匂いと様々な談笑が聞える綺麗な店の中、俺は皆の記憶から居なくなったあいつの事を一ノ瀬さんとヘルちゃんに伝えていた。
正直、かなり現実味の無い様に思える事だから一ノ瀬さん達がこの話を信じてくれるかどうか少し不安な所があったけどー
「ココロ、ココロ」
「ああ。これは当たり引いたかもしれへんな」
目の前の座席に座る二人はこの話を信じないどころかむしろ強い興味を持って、静かに情報を咀嚼しながら俺の話を聞いてくれた。
「な~んかさっきからコソコソ喋ってるけど、気になる所とかあったらちゃんと教えてよね。僕達は君達から貰える情報を当てにするしかないんだから。それこそ、霊能力者繋がりで『牛草霊能事務所』の事とか知らない?」
ぶっきらぼうにそう言った斬琉ちゃんはストローでアイスコーヒーをグルグルと回しながら一ノ瀬さんをじろ~っと見ている。
目線がヘルちゃんに向いていないのは、きっと斬琉ちゃんなりの気づかいなんだと思う。
「その霊能事務所ってのは知らんけど……町の人達が牛草くんの記憶を忘れた件については心当たりがあるで」
「え……それ本当ですか!!」
気づけば俺はその場で立ち上がっていた。
その際ガシャンと大きな音を立ててしまったようで、店の至る所から俺に視線が向けられている。
斬琉ちゃんは「気持ちは分かるけど落ち着いて」と言いながらトントンと俺の肩を叩く。
俺はいったん大きく呼吸をして席に座った。
「ごめん、つい。大きな音立ててビックリさせちゃったな」
「び、びっくりした……けど、気持ちは分かる……私もアルゴスの死を知った時はびっくりした」
「アルゴス?」
ヘルちゃんが俺を励ましてくれた言葉の中にあった知らない名前に意識が持っていかれる。
しかもさっき……死んだみたいな事をー
「アルゴスってのはヘルちゃんの友達で、牛草君の記憶を君達から消した可能性がある存在や」
ヘルちゃんが突然口にしたその名前について、間髪入れずに一ノ瀬さんのフォローが入る。
あいつの記憶を俺達から消した可能性があると言う言葉を聞いたからなのか、全身に妙な緊張が走る感覚があった。
「僕達は元々、このアルゴスの死因を調べてこの町に来たんや。そんで、アルゴスが死ぬ直前に牛草って名前の人間と会ってる事が分かった。だから僕達は君達と話をしに来たんや。僕達の探してる牛草が、君達の話してる牛草くんと一緒かどうか確かめるためにな」
「アルゴスは凄くて、色々な事が出来るんだけど……アルゴスは人間を操って自分の式神にすることが出来るの、そうすれば意識も記憶も好きに操れる」
「たぶんアルゴスはこの町の人間全員を操ってたんやろな。そして、なんらかの理由から牛草くんの記憶を消去したんやと思う」
この町全員を操る……そんな大掛かりな事があったなら俺達が気づかないはずない、と普段は息巻いている所だが。
記憶が無くなっている現状を考えればなにも不思議な事は無いはずだ。
じっさい、登場人物の記憶がない所で非現実的で大掛かりな事件が起こったなんてゲームではよく見る展開だ。
チラっと隣に座る斬琉ちゃんを見る。
斬琉ちゃんは俺より地頭が良いし、一ノ瀬さんたちの話を聞いて何かを感じ取ったのかもと思ったのだ。
「これは……当たりだね」
斬琉ちゃんは驚いた顔のままポカーンと一ノ瀬さん達を眺め、小さく何かを呟いていた。
いつも元気な斬琉ちゃんらしくないけど……ずっと暮らしていた兄の記憶が無くなった事や、その核心に今迫っている事を考えたらこうなるのも仕方ないのかもしれないな。
ここは俺がガンガン話に踏み込んでいくべきなんだろうな。
「一ノ瀬さん、ヘルちゃん、そのアルゴスって人はどうして牛草に、あいつに会っていたのか分かりますか?」
「ご、ごめんなさい。それは私にも分からないんです。分かっているのは、アルゴスは仕事をしている最中に牛草と会って、そして命を落としたって事だけです」
「それならその仕事の内容だけでも教えてくれないか?」
「えっとたしか……ファナエル・ユピテルって堕天……じゃなくて、女の人を探してたはず」
ファナエル・ユピテル?
また知らない名前がー
########################################################################################################################################################################################################################################################################
「ッツ、ああぁぁ」
「ちょ、始っちいきなりどうしたの」
「頭が……痛い」
ガリガリと誰にも聞こえない音を立てながらノイズが脳を走る妙な感覚に襲われる。
そのノイズが何かを襲う度、壊す度、今まで思い出せなかった記憶が噴水の様に湧き出てくる。
教室のドアが開いた瞬間、皆の目線を独り占めした特別な魅力を持つ女性の姿。
彼女が渡したクッキーを食べて、皆がゲロを吐いた衝撃的なシーン。
彼女に対するクラスメイトの気持ちが好意から恐怖に移行している空気。
そんな状況で彼女と親しくしていた##の姿。
「思い……出した」
「思い出したって何を?」
「さっき話に出てたファナエル・ユピテルって人は……いや、ファナエルさんはあいつの恋人だったはずだ」
俺の友人であり、斬琉ちゃんの兄である牛草##はファナエル・ユピテルと言う女性と付き合っていた。
そのファナエルさんはヘルちゃんの知り合いであるアルゴスって人に追われていて……しかも、そのアルゴスって人はもう死んでいてー
「もしかしたらアルゴスって人はおにぃの記憶じゃなくて、ファナエル・ユピテルって人の記憶を消したかったのかもね」
「え?」
「だって、さっきの話を聞かなかったら始っちはファナエルって人の事思い出せなかったじゃん。おにぃの記憶も一緒に消してる事については、おにぃがファナエルさんの味方だったからとか、ファナエルさんを守りたいあまりおにぃがアルゴスを殺しちゃったとか、考えればいくらでも理由は出るとでしょ?」
腕を組みながら得意げに斬琉ちゃんはそう話した。
ヘルちゃんは「ファナエルさんと付き合う人間が居るなんてありえない」とでも言いたげな複雑な顔をしていて、一ノ瀬さんは心の奥に秘めた喜びが顔に出ないよう必死に隠している。
「まぁどちらにせよ、これで僕らの探してる牛草と君達の探してる牛草君が同一人物だったって事は確定や。しかも牛牛草霊能事務所って言うゴールまで分かってる状態……これを活用せん訳にはいかんよなぁ」
一ノ瀬さんはニヤリと笑ってそう言うと、「これ、僕の携帯番号」と言いながら電話番号が映ったスマホをテーブルの中心に置いた。
「二人の時間が空いてる時そこに電話をかけてほしい。お金も牛草霊能事務所に向かうまでのルートも僕達が保証するから、この4人で一緒に牛草君に会いに行かんか?」
「それは嬉しいですけど……どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「簡単な話や、魂持った生きた人間が二人おってくれた方が都合がいいからな」
俺達二人がいる事で一ノ瀬さん達にどう都合がいいのかは全然分からない。
ちょっと冷静に考えれば一ノ瀬さんの言い回しはおかしいし、いくら何でも怪しすぎる状況だ。
でも、この時の俺にはこれ以上の手がかりに縋らない選択肢は無い。
チラっと隣を見れば斬琉ちゃんも乗り気な顔をして俺に相槌を打っている。
今の俺達にとって一ノ瀬さんの提案を断る選択肢なんてどこにも無かった。
「そうなんです。あいつの苗字だって、あいつと斬琉ちゃんが兄妹って情報が無かったら思い出せなかった」
甘い匂いと様々な談笑が聞える綺麗な店の中、俺は皆の記憶から居なくなったあいつの事を一ノ瀬さんとヘルちゃんに伝えていた。
正直、かなり現実味の無い様に思える事だから一ノ瀬さん達がこの話を信じてくれるかどうか少し不安な所があったけどー
「ココロ、ココロ」
「ああ。これは当たり引いたかもしれへんな」
目の前の座席に座る二人はこの話を信じないどころかむしろ強い興味を持って、静かに情報を咀嚼しながら俺の話を聞いてくれた。
「な~んかさっきからコソコソ喋ってるけど、気になる所とかあったらちゃんと教えてよね。僕達は君達から貰える情報を当てにするしかないんだから。それこそ、霊能力者繋がりで『牛草霊能事務所』の事とか知らない?」
ぶっきらぼうにそう言った斬琉ちゃんはストローでアイスコーヒーをグルグルと回しながら一ノ瀬さんをじろ~っと見ている。
目線がヘルちゃんに向いていないのは、きっと斬琉ちゃんなりの気づかいなんだと思う。
「その霊能事務所ってのは知らんけど……町の人達が牛草くんの記憶を忘れた件については心当たりがあるで」
「え……それ本当ですか!!」
気づけば俺はその場で立ち上がっていた。
その際ガシャンと大きな音を立ててしまったようで、店の至る所から俺に視線が向けられている。
斬琉ちゃんは「気持ちは分かるけど落ち着いて」と言いながらトントンと俺の肩を叩く。
俺はいったん大きく呼吸をして席に座った。
「ごめん、つい。大きな音立ててビックリさせちゃったな」
「び、びっくりした……けど、気持ちは分かる……私もアルゴスの死を知った時はびっくりした」
「アルゴス?」
ヘルちゃんが俺を励ましてくれた言葉の中にあった知らない名前に意識が持っていかれる。
しかもさっき……死んだみたいな事をー
「アルゴスってのはヘルちゃんの友達で、牛草君の記憶を君達から消した可能性がある存在や」
ヘルちゃんが突然口にしたその名前について、間髪入れずに一ノ瀬さんのフォローが入る。
あいつの記憶を俺達から消した可能性があると言う言葉を聞いたからなのか、全身に妙な緊張が走る感覚があった。
「僕達は元々、このアルゴスの死因を調べてこの町に来たんや。そんで、アルゴスが死ぬ直前に牛草って名前の人間と会ってる事が分かった。だから僕達は君達と話をしに来たんや。僕達の探してる牛草が、君達の話してる牛草くんと一緒かどうか確かめるためにな」
「アルゴスは凄くて、色々な事が出来るんだけど……アルゴスは人間を操って自分の式神にすることが出来るの、そうすれば意識も記憶も好きに操れる」
「たぶんアルゴスはこの町の人間全員を操ってたんやろな。そして、なんらかの理由から牛草くんの記憶を消去したんやと思う」
この町全員を操る……そんな大掛かりな事があったなら俺達が気づかないはずない、と普段は息巻いている所だが。
記憶が無くなっている現状を考えればなにも不思議な事は無いはずだ。
じっさい、登場人物の記憶がない所で非現実的で大掛かりな事件が起こったなんてゲームではよく見る展開だ。
チラっと隣に座る斬琉ちゃんを見る。
斬琉ちゃんは俺より地頭が良いし、一ノ瀬さんたちの話を聞いて何かを感じ取ったのかもと思ったのだ。
「これは……当たりだね」
斬琉ちゃんは驚いた顔のままポカーンと一ノ瀬さん達を眺め、小さく何かを呟いていた。
いつも元気な斬琉ちゃんらしくないけど……ずっと暮らしていた兄の記憶が無くなった事や、その核心に今迫っている事を考えたらこうなるのも仕方ないのかもしれないな。
ここは俺がガンガン話に踏み込んでいくべきなんだろうな。
「一ノ瀬さん、ヘルちゃん、そのアルゴスって人はどうして牛草に、あいつに会っていたのか分かりますか?」
「ご、ごめんなさい。それは私にも分からないんです。分かっているのは、アルゴスは仕事をしている最中に牛草と会って、そして命を落としたって事だけです」
「それならその仕事の内容だけでも教えてくれないか?」
「えっとたしか……ファナエル・ユピテルって堕天……じゃなくて、女の人を探してたはず」
ファナエル・ユピテル?
また知らない名前がー
########################################################################################################################################################################################################################################################################
「ッツ、ああぁぁ」
「ちょ、始っちいきなりどうしたの」
「頭が……痛い」
ガリガリと誰にも聞こえない音を立てながらノイズが脳を走る妙な感覚に襲われる。
そのノイズが何かを襲う度、壊す度、今まで思い出せなかった記憶が噴水の様に湧き出てくる。
教室のドアが開いた瞬間、皆の目線を独り占めした特別な魅力を持つ女性の姿。
彼女が渡したクッキーを食べて、皆がゲロを吐いた衝撃的なシーン。
彼女に対するクラスメイトの気持ちが好意から恐怖に移行している空気。
そんな状況で彼女と親しくしていた##の姿。
「思い……出した」
「思い出したって何を?」
「さっき話に出てたファナエル・ユピテルって人は……いや、ファナエルさんはあいつの恋人だったはずだ」
俺の友人であり、斬琉ちゃんの兄である牛草##はファナエル・ユピテルと言う女性と付き合っていた。
そのファナエルさんはヘルちゃんの知り合いであるアルゴスって人に追われていて……しかも、そのアルゴスって人はもう死んでいてー
「もしかしたらアルゴスって人はおにぃの記憶じゃなくて、ファナエル・ユピテルって人の記憶を消したかったのかもね」
「え?」
「だって、さっきの話を聞かなかったら始っちはファナエルって人の事思い出せなかったじゃん。おにぃの記憶も一緒に消してる事については、おにぃがファナエルさんの味方だったからとか、ファナエルさんを守りたいあまりおにぃがアルゴスを殺しちゃったとか、考えればいくらでも理由は出るとでしょ?」
腕を組みながら得意げに斬琉ちゃんはそう話した。
ヘルちゃんは「ファナエルさんと付き合う人間が居るなんてありえない」とでも言いたげな複雑な顔をしていて、一ノ瀬さんは心の奥に秘めた喜びが顔に出ないよう必死に隠している。
「まぁどちらにせよ、これで僕らの探してる牛草と君達の探してる牛草君が同一人物だったって事は確定や。しかも牛牛草霊能事務所って言うゴールまで分かってる状態……これを活用せん訳にはいかんよなぁ」
一ノ瀬さんはニヤリと笑ってそう言うと、「これ、僕の携帯番号」と言いながら電話番号が映ったスマホをテーブルの中心に置いた。
「二人の時間が空いてる時そこに電話をかけてほしい。お金も牛草霊能事務所に向かうまでのルートも僕達が保証するから、この4人で一緒に牛草君に会いに行かんか?」
「それは嬉しいですけど……どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「簡単な話や、魂持った生きた人間が二人おってくれた方が都合がいいからな」
俺達二人がいる事で一ノ瀬さん達にどう都合がいいのかは全然分からない。
ちょっと冷静に考えれば一ノ瀬さんの言い回しはおかしいし、いくら何でも怪しすぎる状況だ。
でも、この時の俺にはこれ以上の手がかりに縋らない選択肢は無い。
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