【完結】俺の彼女はセイジョウです

アカアオ

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最終章 罰

世界を揺るがす災厄

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 「へぇ……こんなに開放的な気分なんだ。私初めて知ったなぁ」

 巨人の女はぐらりと立ち上がる。
 彼女の独り言はこの町に響き渡るほど大きく、その全長もこの町の中にあるどの建物よりも大きい。

 まるでそれが彼女の正装だと言わんばかりに巨人の身体を覆っている緑色の苔は、人間では敵わない何かがそこに居ると言う恐怖を植え付けるのにうってつけのファッションだった。

 「アルゴスは今の私を見て怒るかな……でもこれは仕方の無い事なの。だって私は今からアルゴスを殺した人間に報復するんだから」

 巨人はその手を空に向ける。
 雲を両手で掴み、世界を覆う天幕をその手で引き裂いていく。

 「冥界の支配者である私が命令します。この世とあの世の境界を引き裂いて、現世を侵食し顕現しなさい」

 空が赤く染まる。
 良く晴れた日の真昼間だったというのに、世界は暗くどんよりとした雰囲気に飲み込まれていった。

 「これは……あの時見た冥界の景色と同じなのです」

 氷雨が冷や汗をかきながら外を見る。
 地上では亡者ともいえる存在が周囲を闊歩し、周囲の人々を襲っている。

 『この町の人間……全員コロス。そうすればいつか……牛草にたどり着ける』

 「こいつ等、確実に俺を殺す為にこの町の人間全員殺す気か」

 ふと俺の頭をよぎったのはアルゴスと戦ったあの日の事だ。
 あれも町全体を巻き込む大掛かりな物だったけど……あくまでアルゴスがしていたのは洗脳だ。

 こいつみたいに周囲の人間に直接的な被害は出していない。
 
 あの巨人は狂ってる……今の俺と同じだ。
 何が目的なのか、そんなことは分からない。
 
 だけど、その目的の為なら世界を滅ぼしても構わないという気概を持っている事だけは確実に分かる。
 
 「あのヘルって神様、アキラの顔は知らないみたいだよ」

 そんな巨人を観察しながらファナエルは口を開いた。
 今ならまだ二人で逃げれるかもと言いたげな顔をして。

 どれだけ俺の事を信頼していても、『戦う』と言う俺の意思を尊重していても、やっぱり怖いんだろう。
 あの巨人はどうしてもファナエルでは敵わないほど強大で、そんな恐ろしい物に最愛の人が挑もうとしているんだから。

 実際、俺だってファナエルがアルゴスと戦っていた時は気が気じゃなかった。
 気持ちは痛いほど分かる。

 「仮にこの場から逃げられたとしても、彼女は君達を探し続けるだろう。それはすなわち、君達が別の町に行くたびに彼女がその町を滅ぼす最悪のルーティーンが起こるという事だ」
 「私は他の人間がどうなったって良いの。アキラと二人でさえいられればそれでー」
 「でも、そうなれば君達二人は確実に人間社会から拒絶される。まともな生活なんて出来なくなると思うけどね」

 琴音は静かな声色でファナエルに釘を刺す。
 彼女の瞳からは大量殺人を誘発する行動は絶対にさせないという強い意思を感じさせた。

 「現状あれに対抗できるのは俺だけだ。幸い、あいつのターゲットも俺なんだ。目の前にでも出てやれば周囲の人間を殺すなんて真似しなくなるだろう」

 『おいおいちょっと待て!!確かにアレを倒すにはそれしかないが、この状況でお前等災厄がぶつかり合ったらどれだけの被害が出ると思ってる!!』

 「……悪魔の癖に優しいんだな」

 『俺は正義が大好きな悪魔なんだよ。だからこそ『シンガン』の仲間になってる。と言うかそもそもお前は元々人間なんだろ、見知らぬ誰かを殺す事に抵抗ないのか?!』

 「人を殺す事に抵抗が無いと言ったら嘘になる……でも、ファナエルの為にこの手を汚す覚悟はとっくの前に出来てるんだ」

 俺は事務所の中に置いてある、禁斧キンフチェレクスを内蔵した本を開く。
 開かれた本が赤く発光し、俺はそこからぬるりと血の跡が残る大斧を引き抜いた。

 『この刃は万物を切り裂く呪いの刃。代償として切り落とした物は二度と元に戻る事はない。その代わり、代償に見合う力を与えよう』

 自分の左手をそっと禁斧キンフチェレクスに当ててー

 『この刃は万物を切り裂く呪いの刃。代償として切り落とした物は二度と元に戻る事はない。#####、############』

 その能力の本質を捻じ曲げる。

 「あの災厄も倒して、この町にも被害は一つもありませんでしたなんて大団円は作れない。だから、せめて俺が素早くあいつを倒して被害を抑えるしかないだろ?」
 「……いや、あるのです。その大団円を実現させる方法」

 俺が窓から外に飛び出そうとしたその時だった。
 今までずっと静かに考え事をしていた氷雨が口を開く。

 「今この町は冥界と同化しているのです。だったらあの時と同じように夢の世界を冥界を通じて現実世界に繋げる事が出来るのです。そうすれば、私の能力でこの町に降りかかる被害を全て防ぐことが出来るのです」

 『あ~確かにそれなら……って、その作戦はいくら何でも無茶すぎるって』

 「氷雨、分かってるのかい。その作戦は君の体を仮死状態にしなければ実行できない。あまりに危険だ」
 
 「無茶は承知の上なのです。元より相手は人知を超えた災厄、仮死状態になるぐらいのリスクですむなら安いのですよ」

 氷雨はそう言って、事務所の床で横になり目を閉じる。
 そんな彼女を琴音は苦しそうな表情で見つめていた。

 「……分かった。月光氷雨の身柄は私が守る」
 「ファナエル」
 「私とクロノの力があれば氷雨を仮死状態にとどめる事は可能だ。だけど、その間彼女を守る存在が居ない……これが懸念点なんでしょ」

 ファナエルは琴音の心の声を読み上げながらゆっくりと氷雨が寝ている所まで歩み寄った。

 「君が私に協力するなんて、どういう風の吹き回しだい?」
 「彼女が一般人を守ってくれるなら、アキラも余計な事を考えずに戦える。それに、アキラが頑張ってるのにただ見てるだけなんて嫌なの」

 ただそれだけ。
 そう言ってファナエルは頭上に割れた光輪を顕現させ、氷雨の体を床から寝やすいソファーの上に移動させた。

 そんな状況をみて、観念したようにため息を吐いた琴音は氷雨の額にそっと両手を置いた。

 次の瞬間、氷雨の体がビクンと跳ね上がる。
 彼女の息遣いは荒くなり、体中から汗が吹き出し始める。

 『ハァ……ハァ……苦しい……でもこれなら』

 そんな彼女のうめき声が心の声として聞こえたその時、まるで幽体離脱でもするかの様に氷雨の肉体から彼女と瓜二つの何かが這い出る。
 その何かは小さな右手の上に十字架を模したハンマーを生成して、俺に近寄った。

 「とりあえず、成功したって事でいいんだな」
 「ええ。あの災厄を止めに行くのですよ」
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