元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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4)林檎の身体検査

「早く」
「は、はい!」


 突然の申し付けに怯んだが、よく考えたら愛玩奴隷としての面接なのだから、ありえない話ではない。

 実際幼い頃主人に連れられて行った闇オークションでも、商品であった少年達は裸に近い露出の高い衣装を着せられていた。

 今の私は、あの時の少年達と同じだ。

 詩月様という主人候補の視線を浴びて、私は『自分という商品』を何とか魅力的にみせなければ……!

 私はご命令通りに服を脱いで、靴下と下着一枚だけの姿で彼の前に立った。



 裸体に自信があるかと問われれば、正直そんなことはない。
 けれど私は主人の言いつけに逆らうタイプではなかったので、少なくとも目立つ傷などはついていないはずだ。

 
「んー……」

 
 詩月様の真っ直ぐな視線を全身に浴びて、私の背中にはじわりと緊張の汗が滲む。
 
 心まで見透かすような彼の視線を受け止めきれず、ついおずおずと視線をそらす。

 その姿に何故か詩月様はクスリとお笑いになって、座っていたソファーの上で足を組み替えられた。


「ねぇ。下着も脱がなきゃ意味ないでしょ?」
「えっ」
「体だけ見てどうするの」
「あ……も、申し訳ございませんっ!」


 そう謝って、私は慌てて下着に手をかけた。

 主人候補とはいえ、明るい室内で初対面の人に全てを晒すことは強い羞恥を伴う。
 けれどここで自分に拒否権などないことは、さすがの私も理解していた。

 震える手で下着に手をかけ、何とかそれを両足から抜き取る。
 
 両手で股間を隠したくなる気持ちを必死に抑えて、縋るような気持ちで彼を見た。
 

 私の頬は羞恥でみるみる熱くなった。
 けれど詩月様は表情一つ変えることなく、私の全身にくまなく視線を落とされている。

 彼の考えるような仕草に、私はごくりと唾を飲み込んだ。
 


「……うん、さすが樫原。確かに悪くない」


 不意に彼のそんなつぶやきが聞こえて、私はホッと胸を撫で下ろす。けれども次の一言で、私は再び身を固くした。



「じゃあ次。その場でしゃがんで両足を大きく開脚してみてくれる?」
「え……」
「両足の間がよく見えるように」


 詩月様はソファの肘置きに肘をついたまま、何でもないことを頼むような口ぶりでそうおっしゃった。

 命じられた瞬間何を言われたのか分からず、ごく僅かな沈黙が生じる。
 ややあって命令の意味を理解した私の喉が、怯えと強い緊張できゅっと絞まった。


「……かしこまり、ました」


 かろうじてそう返事を返し、ゆっくりとその場にしゃがみこんだ。

 喉がカラカラに乾いている。
 心臓がバクバクと騒ぎ立て、色んな思考が駆け巡った。
 

 耳鳴りが聞こえる。 
 頭が、クラクラする。


 けれど。
 けれど――命令に従わねば。


 そう思うのに、強ばる指先がうまく動かない。

 私は感情を押し殺すように視線を床に落として、唇を噛んだ。
 

 きっとこれは、ただの身体検査だ。

 例えば、林檎を買うとき。
 不良品ではないか……傷んでいる箇所はないか。
 それを誰もが確認するのと、同じこと。
 
 そう自分に言い聞かせ、私はゆっくりとしゃがんで後ろに手を付く。

 毛足の長い柔らかな絨毯の感触が、指の間に触れた。

 私は詩月様に向かって、震える両膝を左右に大きく開いた。

 普段衣類に守られている部分に感じる、ひやりとした空気。それは私の中になんとも言えない心細さを芽生えさせる。
 
 だがそれを見た詩月様がこぼしたのは、クスクスという小さな笑みだった。
 こちらを見下ろす彼は、楽しそうに目を細めて私の反応を逃すことなく見ている。

 私は今、値踏みされているのだ。
 初対面の、このお方に。

 ぞわりと背筋に薄ら寒いものを感じた。
 この方にどう思われるかで、今後私の運命は大きく変わる。
 こちらのそんな追い詰められた状況すらも、きっとこの方は楽しんでいらっしゃるのだ。


 そんな私の考えをよそに、詩月様はこちらへ楽しげな視線を向けたまま、淡々とこうお命じになられた。


「なるほどね。じゃあ、次は後ろ」
「うし、ろ……?」


 この状況だから、詩月様の言う『後ろ』という言葉が何を指すのかが分からない私ではない。
 けれど、万が一違ったら……?


「そう。こっちにお尻を向けて。とか、どうかな」
「あ……」


 無邪気さすら感じる詩月様のその言葉に、私の中の小さな期待はあっさりと打ち砕かれた。
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