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18)望んだ折檻
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「無理をする必要は無い。やめてもいいんだぞ」
「いえ、もう少しだけお時間を頂ければ、必ず」
「必ず……従う、と?」
「……ええ。ですがここで無理をすれば、粗相に繋がりかねませんので……どうぞ、もう少しだけお時間を頂けませんか?」
「ふーん。粗相……ね」
「……?」
「これは嫌味ではないんだ。この水は残してくれて構わない。むしろ、良くここまで耐えた」
「えっ……」
水湊様はそう言ってあっさりと私からグラスを取り上げ、サイドテーブルの上に戻す。
「あ……」
――――ひょっとして今、私は水湊様に見限られた?
水湊様は口では優しく仰っているけれど、自分から折檻を望みながらこんな簡単な命令にも従えないのかと、呆れられたのでは?
そう思った瞬間、私の中で焦りと悔しさがふつふつと湧き上がる。
そんな私をよそに、水湊様は私の傍に来て、水で膨れたお腹のあたりを労わるように優しく撫でて下さった。
ああ、私はなんと情けないのだろう……。
「いいえ、飲みます。自ら望んで与えて頂いたご命令に、従わない道理はございません」
私はサイドテーブルに置かれたグラスを再び手に取ると、無理やり口に含んだ。
唇を割った瞬間再び込み上がってきたものと一緒に、無理やり喉の筋肉でそれらを飲み下す。
すぐに口と手を自ら塞ぎ、例え込み上がってこようとも吐き出すまいと耐えた。
一緒に飲み込んでしまったらしい空気が胃の内側でゴプンと小さな音を立てたけれど、今は無視する。
初めて主人に頂いた命令を、私は何としても守りたかった。
かなり苦しいが、健康体で多少水を飲みすぎた位ならば死にはしないだろう。
前の主人の望みに反し、伸びすぎた身長。
低すぎる声。
早々に大人びてしまった容姿。
可愛げのない喘ぎ声……。
その上自分で言い出した仕置きの命も守れず、新しい主人にまで失望されるなんて、絶対にもう嫌だ……!
「飲み、まし、たっ……!」
「……」
水湊様は少し戸惑ったように私の顔を見た。
私は何とか命令を守れた。きっとこれで、失望は免れたはず……!
そう思いながら上目遣いで水湊様を仰ぎ見ると、水湊様は少し口元を緩めてお笑いになった。
「苦しいだろうに、よく頑張ったな」
「あ…………」
予想外に優しい言葉をかけられて、私はホッと胸を撫でおろした。小さなことだが、主人に褒めてもらえる事は本当に嬉しい。これは愛玩奴隷である私の、幼い頃からの癖のようなものだ。
飲みすぎた水でお腹は張り、油断をすれば吐いてしまうのではないかと思うほど苦しかった。
けれど、主人である水湊様が満足そうにして下さるのならば、苦しくても耐えてよかったなと思う。
「こちらへ来なさい」
なぜだか楽しげな口調の水湊様に手を引かれて、私はバスルームへ向かう。脱衣場では、なぜかバスローブの帯のみを渡された。褒めてくださった直後のことだったので、私は一瞬きょとんとした。
「その帯で目隠しをして。終わったらこちらに来て、手を出しなさい」
ふっと目を細めてサディスティックに笑われる水湊様。その落差に、私は小さく喉を鳴らした。
「承知しました」
私は言われるがままに自ら目隠しをすると、両手を水湊様の前へ差し出した。すると水湊様は私の両手を胸の前で組ませ、滑らかな肌触りの布のようなものでひと括りにされる。
「予定がなかったので、あいにく今日は専用の道具を用意していない」
「え……?」
「あるもので準備をするから、少し待ちなさい」
「は……はい」
私は水湊様の言葉にとりあえずそう返事を返すと、少し俯いた。
『準備をする』
それは一体どういう意味だろう?
私を褒めて下さった水湊様。
それなのに、専用の道具……とは?
もしやまだ責めは続いていて、私は懲罰の名のもとに鞭で打たれたりするのだろうか?
専用の道具がないということは、最悪皮のベルトで打たれる可能性もある……?
今回の件に関しては、確かに私は折檻を望んだ。だから、そうされようとも仕方の無い状況だ。それでも、これから痛いことをされると思えば、どうしても足が竦む。
「いえ、もう少しだけお時間を頂ければ、必ず」
「必ず……従う、と?」
「……ええ。ですがここで無理をすれば、粗相に繋がりかねませんので……どうぞ、もう少しだけお時間を頂けませんか?」
「ふーん。粗相……ね」
「……?」
「これは嫌味ではないんだ。この水は残してくれて構わない。むしろ、良くここまで耐えた」
「えっ……」
水湊様はそう言ってあっさりと私からグラスを取り上げ、サイドテーブルの上に戻す。
「あ……」
――――ひょっとして今、私は水湊様に見限られた?
水湊様は口では優しく仰っているけれど、自分から折檻を望みながらこんな簡単な命令にも従えないのかと、呆れられたのでは?
そう思った瞬間、私の中で焦りと悔しさがふつふつと湧き上がる。
そんな私をよそに、水湊様は私の傍に来て、水で膨れたお腹のあたりを労わるように優しく撫でて下さった。
ああ、私はなんと情けないのだろう……。
「いいえ、飲みます。自ら望んで与えて頂いたご命令に、従わない道理はございません」
私はサイドテーブルに置かれたグラスを再び手に取ると、無理やり口に含んだ。
唇を割った瞬間再び込み上がってきたものと一緒に、無理やり喉の筋肉でそれらを飲み下す。
すぐに口と手を自ら塞ぎ、例え込み上がってこようとも吐き出すまいと耐えた。
一緒に飲み込んでしまったらしい空気が胃の内側でゴプンと小さな音を立てたけれど、今は無視する。
初めて主人に頂いた命令を、私は何としても守りたかった。
かなり苦しいが、健康体で多少水を飲みすぎた位ならば死にはしないだろう。
前の主人の望みに反し、伸びすぎた身長。
低すぎる声。
早々に大人びてしまった容姿。
可愛げのない喘ぎ声……。
その上自分で言い出した仕置きの命も守れず、新しい主人にまで失望されるなんて、絶対にもう嫌だ……!
「飲み、まし、たっ……!」
「……」
水湊様は少し戸惑ったように私の顔を見た。
私は何とか命令を守れた。きっとこれで、失望は免れたはず……!
そう思いながら上目遣いで水湊様を仰ぎ見ると、水湊様は少し口元を緩めてお笑いになった。
「苦しいだろうに、よく頑張ったな」
「あ…………」
予想外に優しい言葉をかけられて、私はホッと胸を撫でおろした。小さなことだが、主人に褒めてもらえる事は本当に嬉しい。これは愛玩奴隷である私の、幼い頃からの癖のようなものだ。
飲みすぎた水でお腹は張り、油断をすれば吐いてしまうのではないかと思うほど苦しかった。
けれど、主人である水湊様が満足そうにして下さるのならば、苦しくても耐えてよかったなと思う。
「こちらへ来なさい」
なぜだか楽しげな口調の水湊様に手を引かれて、私はバスルームへ向かう。脱衣場では、なぜかバスローブの帯のみを渡された。褒めてくださった直後のことだったので、私は一瞬きょとんとした。
「その帯で目隠しをして。終わったらこちらに来て、手を出しなさい」
ふっと目を細めてサディスティックに笑われる水湊様。その落差に、私は小さく喉を鳴らした。
「承知しました」
私は言われるがままに自ら目隠しをすると、両手を水湊様の前へ差し出した。すると水湊様は私の両手を胸の前で組ませ、滑らかな肌触りの布のようなものでひと括りにされる。
「予定がなかったので、あいにく今日は専用の道具を用意していない」
「え……?」
「あるもので準備をするから、少し待ちなさい」
「は……はい」
私は水湊様の言葉にとりあえずそう返事を返すと、少し俯いた。
『準備をする』
それは一体どういう意味だろう?
私を褒めて下さった水湊様。
それなのに、専用の道具……とは?
もしやまだ責めは続いていて、私は懲罰の名のもとに鞭で打たれたりするのだろうか?
専用の道具がないということは、最悪皮のベルトで打たれる可能性もある……?
今回の件に関しては、確かに私は折檻を望んだ。だから、そうされようとも仕方の無い状況だ。それでも、これから痛いことをされると思えば、どうしても足が竦む。
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