元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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28)甘いものはお好き?

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「さーて日和さん。甘いものは好き?」
「え、ええと。はい」
「じゃあさ、ここのスイーツビュッフェに付き合ってくれない?」
「スイーツ……びゅっふぇ?」


 私は聞き慣れない単語に首を傾げた。そんな私を見た律火様が、笑いながらエレベーターの傍にあった写真付きのチラシを渡してくださる。


「甘い物の食べ放題、ってこと。このホテルのシェフは有名だから、前から行きたかったんだけど……お客さんは基本女性ばかりだから、男一人じゃ入りにくくてね。佐倉や詩月にも頼んだけど、断られちゃって」
「はぁ……」


 エレベーターに乗りながら渡されたチラシを見て、私は仰天した。そこには、色とりどりのケーキや焼き菓子、フルーツなどがずらりと並んでいたからだ。

 
「律火様、これは……!」
「さ、行こうか」


 エレベーターから降りた私は、律火様に促されるままフロアに足を踏み入れた。

 途端、鼻腔をくすぐるのはかぐわしいケーキの香りと、女性たちの楽しそうな話し声。

 まるで華やかなパーティでも行われているかのような華やかな空間が、私の目の前に広がっていた。

 
 前のお屋敷にいた頃は、あまり食べる機会が無かったケーキ。
 艷やかなチョコレートた金箔を纏うものや、色とりどりのフルーツが所狭しと敷き詰められたもの、ガラス細工ような飴の飾りが施されたものに、苺が敷き詰められたもの。
 
 ざっと見ただけでも、数十種類はあるだろうか。


「すごい…………」


 それらは私の瞳にまるで宝石のように映って、私は思わず感嘆の声を漏らした。



 以前は旦那様の"お気に入り"が誕生日を迎えた日のみ、夕食時に振る舞われたケーキ。
 
 それは大抵いちごの乗った定番のショートケーキやチョコレートケーキで、それ以外はテレビや本で知る程度だった。

 予想外の種類の多さに、私はケーキが並ぶガラスケースにしばし見惚れてしまった。ケースの中にあるケーキは芸術品のように輝いていて、どれも魅力的だ。


 
「お気に召した?」
「…………!! あ、すみませ……!」
「ふふ、いいのいいの。どれから食べる? 今日は僕がご馳走するから、遠慮なく沢山食べて」
「ですが」
「えー。あっ、じゃあ。これは日和さんの就職祝い、ってことで。ね?」


 律火様に促されて、私は恐縮しつついくつかのケーキを指さした。
 黒いウエイターのような服をカッコよく着こなした若い女性がケーキを席まで運んで下さって、私はドキドキしながらフォークを手に取る。
 
 一口分に切り分けたケーキを口に運んで、私は大きく目を見開いた。


「お、美味しい……!」


 ピスタチオとベリーのムースに、レモンと洋酒のタルト。
 金箔の飾りが美しいザッハトルテに、三種のチーズスフレ。
 薔薇のように美しい林檎で飾られたアップルパイに、渋皮マロンのカタラーナ。

 初めて口にしたケーキ達はどれも衝撃的に美味しくて、私は思わず歓喜の表情で律火様を見つめてしまう。

 律火様は私の顔が余程可笑しかったのか、クスクスと笑いながら口を開かれた。


「美味しい? ここのシェフが作るケーキは本当にどれも絶品だよね」
「はい。こんなに美味しいケーキ、初めて戴きました」
「それは良かった。あ、この焦がしキャラメルナッツのカヌレとケークサレもオススメだよ。たくさん食べて」
「はいっ」

 律火様は嬉しそうに微笑まれて、私が次々とケーキを平らげるさまをニコニコしながら眺めていらっしゃった。
 この人は、私が美味しそうにケーキを食べる事を本当に喜んでくださっているようだ。そう思うと嬉しくなって、私も次から次へと珍しいケーキを平らげる。

 一時間後。
 二人でケーキをほぼ全種類制覇した私と律火様は、太陽が陰り始めるころ、ようやく佐倉さんが待つパーキングへと向かった。

 
「お腹苦しいね。僕、今夜は夕飯、入らないかも……」
「私もつい食べすぎてしまいました」


 私の食事は毎食、側近用の食堂に用意されている。
 おやつを食べすぎて食事が入らないだなんて、そんな子供のするようなことをしたのは、きっと初めてだ。
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